雪結石を買いに……
「ロック見てみろ! あれがコロン村だ」
グリズが指差す方向にはかなりしっかりとした木でできた壁が見えた。
「村にしてはかなり立派な壁だな」
「あの村は雪結石の加工でだいぶ儲けただろうからな」
コロン村へはグリズの予想よりも早く9日間でついた。
ドモルテの魔法の威力が高かったこともあったが、いつもの時期より早めに雪が降って積もった雪も太陽によって少し溶かされたためだった。
とはいってもコロン村の近くでは俺たちの腿くらいまでは雪が積もっていた。
これから冬に近づけばさらに積もるというのだから、この辺りに住む人は大変だろう。
村の門には門兵が一人立って警備にあたっていた。
小さな村につきっきりで兵士が監視をしているのは珍しい。
俺たちはさっさと村までの道を開通させ、グリズが門番へと声をかけた。
「商人のグリズだ。村への支援物資を持ってきた。村長さんと話がしたい」
そう言って兵士へと何か紙のようなものを渡す。
「わざわざこの雪の中ありがとうございました。念のためですが馬車の中を確認させて頂きたいと思います」
「あぁ、寒いから手短に頼む」
「わかりました」
兵士は詰め所にいた数人に声をかけると、手分けしてグリズ商隊の荷物を確認する。
書類もありわざわざ雪かきをしながら来た俺たちを疑ってはいないようで、あくまでも形式的で友好的に終わった。
「お待たせいたしました。この度は物資を持ってきていただきありがとうございます。どうぞ中へお進みください。村長の家はここから突き当りの大きな家で行けばわかると思いますので」
兵士が門を開けると村の中には雪がまったく積もっていなかった。
「村の中は全然雪がないんだな」
「ここは本当か嘘かは知らないが、地面から火の加護があると言われていているらしいぞ。この辺り一帯の塀で囲まれたあたりには雪が降っても積もらないらしい。ただ、植物の育ちは悪いみたいで外部からの食糧の支援に頼るところが大きいんだ」
「へぇーそんなのがあるんだな」
外の湿った土とは違い村の中の土は完全に乾いていた。
これだけの村に可燃石を撒くとしたら相当大変になるだろう。
村長の家は家の前に大きな文字でコロン村村長の家と書かれた看板がでていた。
あっけにとられるくらい自己主張が強い。
村長の家の横には荷馬車を停車させておく、馬車が置き場が併設されており俺たちはそこへ馬車をとめる。
「俺たちは村長のところへ挨拶へ行くがロックたちはどうする? 別に村の中を散策してきてもいいぞ」
「そうか? それなら村を散策してくるかな」
「気をつけてな。あっそれならついでに雪結石を探してきてくれないか?」
「いいぞ。どんなタイプがいいんだ?」
「大きさの調整がしやすいネックレスタイプがいいな」
「わかった。任せておけ」
「ロックが選ぶのか?」
グリズはものすごく不安そうな顔で俺の方を見てくる。
普段商売の時には表情を崩さないグリズらしからぬ顔だった。
「グリズさん、私もいますから大丈夫ですよ」
「シャノンさん……ロックには悪いがよろしくお願いします」
グリズはシャノンの両手を握るとよく言ってくれたと言わんばかりに上下に振る。
だいぶ心外なんだが……俺だってセンスのいいものを選ぶことができる。
俺たちはその場で別れ、そのまま村の雑貨を売っている商店へと向かう。
塀は立派だったが、村の中はそれほど広くなく商店は簡単に見つけることができた。
「らっしゃーい」
店の扉を開けると、やる気のなさそうな店員が椅子に座ったまま声をかけてくる。
視線はどこか空中を見たままで接客をするつもりはないらしい。
「すみません。雪結石を探しているんですが」
「なんだ旅人さんかい? 雪結石はね……残念だけど売ってないよ」
「えっ? この村で買えるって聞いたんですが」
「まぁ売ってはいるんだけどね。正確には夏場だけなんですよ。冬場に雪結石ができあがって、それを春に加工して夏の間には売り切れちゃうからね」
「一個も売ってないんですか?」
「ないねー。夏場になるまで待ってもらうしかないよ」
その後同じような店を何軒か回ってみたが、本当にどこにも売ってはいなかった。
「ロックさん全然売ってませんね。私も少し欲しかったので残念です」
「本当に売ってないな。せっかくグリズ支援物資まで持ってきたのにな」
俺たちが村長の家に戻ろうとすると、最初に行った雑貨屋から何やら揉めている声が聞こえてくる。
「だから、魔石がないとこの村も危ないっていってるだろ」
「そんなことを言われても、この村にも魔石は限られてるんだよ。もう帰れ。いくら言われても渡せないものは渡せない」
雑貨屋の扉が開かれ男が二人飛び出してきた。
魔石か……理由次第ではあげてもいいが……。




