それからのこと
なんだがよくわからないが、流れで訓練を一緒にすることにはなったが……。
グリズの部下たちは、訓練の最初の頃はガーゴイルくんとオレンジアントEの二人相手ということでかなり、表情に余裕が戻ってきていた。だが、それもすぐに悲壮に変わった。
オレンジアントは元々滅火のダンジョンにいる魔物のため、グリズが潜るならいい練習になるかとも思ったが、残念ながら訓練にすらならなかった。
グリズは途中から自分は訓練に混ざらずに、俺の横でずっと露店で買ってきたオーク肉を食べながら見ている。
「ロック……どうやら俺は少し勘違いしていたみたいだ」
「ん? 何をだ?」
「謙虚さって大事なんだな」
「まぁ……商人だからな、駆け引きは大事だろうけど、あって困るものでもないだろうな」
目の前では、ボコボコにされて部下たちが並べられ、ガーゴイルくんとオレンジアントEのご指導の元、基礎訓練が始まった。
まわりで見ていたシャノンたちも一緒に教え、そこに半魚人や街の人たちが参加したことで、全体的な指導会のような形になっていった。
「いいのか? 戦闘訓練じゃなくて普通の基礎訓練に変わってるけど」
「あぁいいだろ。街の人たちも人魚や半魚人と触れ合うのはいいことだし、何より基礎の延長にあの剣技や魔法があるってことには間違いないだろうからな」
目の前の海では、人も亜人も、魔物も関係なくみんなで楽しそうに、お互いがお互いに教えあっていた。
シャノンは人に教えるだけの強さもあるが、剣がまっすぐすぎるところもあるので、グリズの部下の泥臭い方法も意外と勉強になっているのか、教えたり、教わったりを繰り返しているようだった。
剣の型を崩してしまうのはダメだが、知識として選択肢が増えることはいいことだ。
実践では誰にも正解なんてわからないのだから。
「グリス……だいぶここ数日で性格が丸くなってないか? 最初の頃とだいぶ違うぞ」
「あっ? 別に性格は体型ほど丸くはなってないけどな。でも、馬鹿なフリをしているのはそれはそれで楽しいけど、ロックのように高みを目指すのも楽しそうだなって思ってな。少しまっとうに生きようかと思たっただけだよ」
「なんだよ。それ」
俺たちが眺めている中で、結局その訓練はグリズの部下が全員砂浜で倒れるまで続けられた。
ガーゴイルくんやオレンジアントたちうちのメンバーは全然疲れておらず、楽しそうにしていたのがやけに対照的だった。
砂浜に転がる部下たちは芋虫のようにうごめいている。
「今日の訓練はこれで終わりですか?」
そう話しかけてきたのはリランの妹のナユタだった。
「あぁ、もう終わりだな。ナユタもそろそろ出発か?」
「はい。色々うちの方の片づけをしなければいけないので。お兄様がもう少し運以外もよければいいんですけどね」
ナユタは大きくため息をつく。
「そんなことを言うなよ。そのおかげでロックと出会って助けに行けたんだから」
「それはそうなんですけどね」
「まぁ、ナユタもそんなに責めてやるな。上に立つ男としては運も必要な要素の一つだからな。それに公爵家の使いをちゃんと連れてきたわけだしな」
リランはグリズの手下と一緒にしっかりと王都まで行き、そして親族の公爵の使いを連れて帰ってきた。
それのおかげでチャドの処分も円滑に進んでいった。
それにしても後から話を聞いたが、ナユタの頭の良さには驚きだった。
ワンダーウルフ白狼に襲われ逃げ惑うなかで、公爵家の跡取りだと公表するのは危険が及ぶと俺たちにも詳しくは身分を明かさないように考えたのは妹のナユタだったそうだ。
ナユタは怪我の怖さをしっていたため、無料で回復してもらうことを選んだが、そのまま眠らさせられてしまいほぼ無抵抗で屋敷まで連れていかれたそうだ。
「あんな簡単な手に引っかかるとは私も疲れていたにしろ一生の不覚でした」
そう話していた。
「ロックさん色々ありがとうございました」
「いや気にするな。無事に公爵家の跡継ぎに戻れそうなのか?」
「そちらはまだまだ時間がかかりそうです。私たちが幼いというのもありますし、チャドが捕まったとはいえ、私たちの両親を殺したのを証明するのには時間がかかりますから」
「そうか。まぁ頑張れよ。何かあれば時間はかかるかも知れないが冒険者ギルドに連絡をいれといてくれれば力にはなるからな」
「ありがとうございます。落ち着いたら連絡させて頂きます。今回のことのお礼はまたいずれ」
「あぁまたな」
「ロックさん、グリズさん本当にありがとうございました」
ナユタたちはそのまま馬車に乗ると王都へ向かっていった。
二人にとってはチャドの件の直接の解決よりも、まずは自分の身の安全を確保する方が大切になる。権力争いというのはどこでも大変らしい。
あの後もちろんチャドの家の捜索も行われた。チャドの家の地下のナユタたちが捕まり寝ていた部屋の奥にはパトラが嫌に感じた原因があった。
俺たちは気が付かなかったが奥に大量の血痕があったらしい。チャドが何をしていたのかは……俺たちはこれ以上知る必要がないだろう。
あとは兵士たちやこの街の問題だ。
それと、奴隷の市で引き渡しをしてドブのことだがその後は消えてしまい発見されなかったらしい。チャドが捕まったことで捜査がされたが、残っていた魔物の檻にはすべて鍵が差し込まれており、すべてが奴隷も解放されていたようだ。
ご丁寧に部屋の中は全部整えられていたらしい。
チャドの聴取ついでに雇っていたドブについても話を聞いてみたが、どんな奴なのかもわかっていなかった。
そんな奴を雇った覚えはあるが、なぜあいつにしたのか、どうしてあそこで雇ったのかはわからないということだった。
ドブに関してだけは少し謎が残ってしまったが、金に汚いだけでそれほど悪い奴ではなかった。まぁもう会うこともないだろうが。
それから数日間はグリズの家でお世話になり、部下の基礎鍛錬に付き合ってやった。
グリズは滅火のダンジョンへ潜りたいと言っていたが、俺たちの実力を知って諦めたらしい。マーキスも行きたくないのか、上手く手のひらで転がしていたのには笑ってしまったが。
俺もせっかく仲良くなれたグリズが死にに行くのは悲しいので一応止めた。
「だったらロックが一緒に来てくれればいいだろ?」
そう誘われたが、まだ潜る気にはなれないので丁重にお断りをしておいた。
もう少し兵士の熟練度をあげてから挑戦はするらしく、諦めはしないらしい。
それから、俺たちはまた新たな旅にでることになった。




