ドモルテの圧倒的な火力とリディアの弟子
俺とグリズたちはチャドを冒険者ギルドに引き渡してから近くの砂浜に来ていた。
そこではドモルテが魔法陣を描き音を拡声する魔法を使っていた。
街の中心に置いてある魔道具はわざわざここから魔力を送っている。
なぜこんなめんどくさいことをしているのかというと……。
『来たな』
「あぁ、ラッキー少し様子をみよう」
そう言った直後にドモルテのいた場所へいきなり炎の球が撃ち込まれ爆発が起こる。
一人の女性が砂浜に近づきながら連続して魔法を打ち込んでいく。
火力、発動までの時間からみても、それなりの魔法使いであることがわかる。
「よくも、よくも! 嫌がらせのように私の邪魔をしてくれたな! 弱っている今ならお前のことを倒すことができるわよ! くらえ!」
その場に現れたのはリディアの元部下だった。
ドモルテは彼女をおびき出すためにリディアの魔法に似せて、わざわざ拡声の魔法を使っていたのだ。
彼女が使っていた魔人の魔法をさすがに、このまま使わせておくわけにはいかない。
俺が彼女の元に行き、わざわざリディアの情報を流したのか彼女にはリディアの魔力を見極める力があることを見越してのことだった。
「あらら、ひどいわね。なんでこんなことをするのかしら?」
ドモルテはその爆発の中、何事もなかったかのように彼女の前にあらわれる。
「なんで……まったく効いてない? そんなわけないわ! ただのやせ我慢よ。聞いたわよ! 王都で相当手痛い失敗をしたらしいじゃない。顔を変えたところであなたの魔力を忘れはしないわ」
さらに、攻撃の手を増やし物量での短期決戦を目指すかのように集中砲火がおこなわれる。だが、よく見てみるとドモルテには一発たりともかすってすらいなかった。
あれだけの集中砲火でさえもすべてそらされているのだ。
「あなたすごいわ。リディアよりも魔法の才能はあるみたいね。でもまだまだだったわ。道を踏み外さなければ違った可能性もあったのにもったいないわ。魔法というのはこういう風に使うのよ。メテオラッシュ」
ドモルテはリッチの姿に戻り、箱庭産の魔石を使って魔法を唱える。
彼女の周りに空から降る隕石のような魔法を打ち込んでいく。そのスピードと破壊力を見てしまうと、彼女の魔法がまだまだ稚拙な魔法だったことがよくわかる。
しかも、それを彼女に怪我させないように計算しながら広範囲にわたって撃ち込まれた。
この攻撃は彼女を殺すというよりは心を折るための攻撃だった。
俺たちはそれを少し離れた高台から様子を見ていた。
何かあればすぐに助けになんて思っていたが、力量差は瞭然だった。
『かなり一方的だな』
「ドモルテは元々大賢者と呼ばれるくらいの人間だったからな。それに……」
『それに?』
「外で魔法が使えるのが嬉しいんだろ」
俺たちが見ているのをわかっていて、ドモルテは砂浜に隕石のクレーターを使ってニコニコとした顔を描いている。
もはや遊んでいるといっても過言ではない。
俺たちは少し高台から見ているから、ドモルテが遊んでいるのもわかるが、受けている本人からしたらきっと拷問でしかないはずだ。
「さて、そろそろ行ってやるか」
『そうだな』
ドモルテの絵が完成したところで、俺たちもドモルテの方へむかう。
リディアの弟子はもうすでに立っていることさえできなかった。圧倒的な差を嫌というほど見せられたのだから仕方がない。
「ドモルテずいぶん派手にやったな」
「いやー久しぶりに大魔法を制限なしで打てる喜びを感じたわ」
「ドモルテ……?」
「はぁーやりすぎるなって言ったのにな。まぁいいや。これだけ見せれば逃げることもないだろ。今さら歯向かうとは思えないけど、俺たちの質問に答えてくれるよな?」
「はい……あっお前は……私ははめられていたのか……」
どうやら一瞬俺のことが誰かわかっていなかったようだが、俺の顔を見てすべてを悟ったようだ。ちゃんと受け答えできるようでひとまずは安心だ。
「そういえばまだ君の名前を聞いてなかったけど、名前は?」
「リザ」
「君が研究をしていた資料が欲しいんだけど、どこにあるかな?」
リザは腰につけていた小さな鞄を無言で渡してくる。
「これに全部入っているってこと?」
「はい」
俺はそれをドモルテに渡すと、ドモルテはその鞄の中のものをすべて砂浜の上にだしてしまう。そして、今度はその中から食料品や着替えなどをすべて鞄の中に戻すと、それ以外の研究に使うようなものや魔法陣などはすべて回収してしまった。
「念のために聞いておくけど、あなたが開発をした魔物の暴走を予言する魔道具っていうのは偽物だったのよね?」
「はい。そんなものできるわけありません。あなたは本当にあの大賢者様なのですか?」
「そうよ。私は弟子に恵まれなかったけど、弟子のリディアも弟子には恵まれなかったみたいね」
ドモルテは少し憐れんだように彼女を見ている。
やはりチャドが売り出そうとしていた魔道具は自作自演のものだったらしい。
「あなたには申し訳ないけど、魔人の魔力を使ったものや、魔物を合成するような魔法というのは非常に危険なものなの。だから、それらは没収させてもらうわ。ただあなたがこれから自力で開発したいっていうならそれは止めない。だけど、できるならあなたの才能は素晴らしいものなのだからいい方へ伸ばしてくれることを祈るわ」
「はい」
リザは完全にうなだれてしまい、もう反抗する気もおきないようだった。
「グリズそれじゃこの子をあとは兵士に引き渡してこの件は終了だ。色々助かった」
「あぁこちらこそ、街の危機を救ってくれてありがとう」
俺とグリズはお互い手を出し合って力強く握手をする。
「ロック最後に、一つ聞いていいか?」
「なんだ? 一つと言わずいくつでも聞いていいぞ」
「リランがよく良いところの子供だってわかったな」
グリズは俺がそれを事前に予想して頼んでおいたことが不思議だったようだ。
俺がグリズの元に連れて行ったばかりの時にはただの孤児にしか見えなくもない。
「あぁそれか……確信があったわけではなかったけど、最初の出会った時にグリズの名前を知っていたんだ。ワンダーウルフ白狼に襲われて少し前にこの街に来たっていう人間がグリズの名前を知っているのはおかしいだろ。グリズには悪いけど……どちらかというと悪評の方が強いしな。子供が聞く機会なんてないはずなんだ」
「まぁそれは否定はできないわな。俺の悪評は使い勝手もいいし。ドラクルを落札した時だって、あれは俺の悪評があるから無駄な勝負を挑んでこなかったわけだしな。でもそれだけじゃないんだろ?」
「まぁ細かいことを言うなら、俺とグリズへの対応の違いとか、握手をした時の手がきれいすぎたのとかいろいろあるけどな」
「対応の違いか」
「最初、俺に会った時は本当の子供のように泣いていたんだ。それこそもう年相応にな。だけどグリズの前に行ったら急にしっかりしだしてただろ? それはグリズがそれなりの権力がある人間だって知っていたからなんだよ。彼も公爵家の息子として対応してもらうにはそれなりの対応をするしかないと思ったんだろ」
「それはそうだな。あそこでもしずっと泣いていたら、いくらロックの頼みでも王都までつかいには出さなかっただろうし、あいつが公爵家の息子だと自分から言っても信じはしなかった」
人は見た目で判断しがちだが、意外とそれも当てにならないことの方が多い。詐欺師ほど立派な服に身を包み、財布の中身を狙ってくるものなのだ。
「これから俺たちはまた旅にでるからリランたちのことをよろしく頼むな」
「あぁそれは問題ない。俺の方の商売にもかかわってくることだしな」
グリズはそういって俺の背中を叩いてきた。
これでやっと解決と言っていいだろうと思っていた。
リザはあのあと街の兵士に連れて行かれた。
ドモルテの魔法を見て、力量差を見せられたのが相当堪えたらしい。今後どうなるかはわからないが魔物の暴走をさせたりしていたので、かなり重い刑罰になるだろうってことだ。
俺はこれですべて解決していたと思っていたんだが、メロウの件で最後にもう一揉めあった。やれやれ、まさかメロウがあそこまでやるとは思っていなかった。




