女性のたしなみは鍵開けの習得?
俺たちは階段をゆっくりと降りていくと、地下には意外と小奇麗にされた部屋が見える。それとともに話し声が聞こえてくる。
「しかし、無料で回復なんて上手い手を考えたもんだよな」
「本当だよ。それでくる浮浪者をさらってくれば、回復させる以上の利益になるんだからな」
どうやら男たちが二人で話しているようだ、やっぱりやっていることはろくでもない。
パトラに手で合図をする。
3……2……1……GO!
二人で一斉飛び出し、向かって左側の男の顎に蹴りを入れる。もう一人の男はパトラに一瞬で鼻以外をグルグルに縛られ、あっという間に転がされてしまった。
意識はあってもあれでは身動きがとれない。
完全に隠密行動ではパトラの方が上のような気がしてきた。
そこには20人くらいの人たちが狭い部屋の中に鎖で繋がれ横になっていた。
「おじさん誰?」
その中で一番小さい子が俺に話しかけてきた。
「君たちを助けに来たんだよ」
「みんな起きて、助けにきてくれたみたいだよ」
「ナユタの言った通りだった。まさか本当に助けに来てくれる人がいるなんて」
その中の一人が今話かけてきた子を拝むようにつぶやく。
「どんな時でも諦めたらダメですよ」
そういうと自分の手につけられていた鎖をサラッと外す。
「えっ? 自分で外してたのか?」
「うちには泣き虫で何もできないお兄ちゃんがいるので、こんなところにいつまでもいるわけにはいかなかったので。タイミングを見て自分で逃げ出そうかと……。でも、助けに来ていただいてありがとうございます。私、ナユタと申します。さすがに一人でこの人数を助けるのは骨が折れそうだったもので」
「すごいな。もしかしてリランの妹か?」
「そうです。あのお兄ちゃんが助けを呼んでくれたんですか……?」
ナユタは信じられないものを見るような顔で俺たちの顔を見る。
「あぁそうだよ。よく頑張ったな。俺はロックでこっちはパトラだ。ゆっくり自己紹介をしていたいが、これだけの人数だと逃げている途中でいつバレるかわからないからな。鎖を外したら急いで外にでよう」
「わかりました。みなさん落ち着いて静かにいきますわよ」
そういうとナユタはどこから取り出したのか針金1本でどんどん鎖を外していく。
俺も気絶した男から鍵をとって外しだすが、パトラは彼女のマネをして近くにあった針金を使って鍵をガチャガチャと回し始めた。しかし、そう簡単には開かない。
「あなた鍵を開けた経験は?」
「ないよー」
「それならよく見ていてね」
見かねたナユタが、パトラの針金を借り、形を少し変えて開け方を教え始める。
「貸してみなさい。角度はこんな感じです。そしてこれを手前からあげていくイメージですわ。女子のたしなみですから覚えておいてそんはないですよ」
そう言ってパトラに教えていると、鍵はあっさりとカチャと音を立て開いてしまった。
「あとはあなたの練習次第よ」
「ありがとー」
パトラに針金を返すと、パトラも何回か挑戦をした後すぐに開けてしまった。
「おっパパー私も開けることできましたー」
「すごいな」
俺も針金で開けたいと好奇心があったが、地道に鍵を探した。
パトラは1つ開けることができるとそれからは、どんどん開けていく。
俺が鍵を見つけていざ開けようと思った時には、結局ほとんど二人で開けてしまった。
俺……かっ……かっこ悪すぎる。
「パトラちゃん、女の子は強くなければいけませんよ」
「はいですー」
「それじゃあ行こうか。みなさん静かに移動お願いします」
俺はなかったことにして、その場を仕切る。
降りてきた階段をそのままあがり、玄関から静かにでる。今のところとくに異常はない。
庭を突っ切る途中でナユタから話しかけられる。
「庭にいたホワイトコヨーテはどうしたんですか?」
「馬車の中にいて周りが見えていなかったはずなのにそんなこともわかったのか?」
「えぇ声が聞こえていましたから。抜け出すときここが最大の難関だと思っていたので」
ナユタはかなり警戒しているのか辺りを見渡して用心している。
「私が庭の奥へ行くように追い払っておきましたー。女性のたしなみです」
パトラが嬉しそうに言うと、
「パトラちゃんそれはすごいわ! 最高!」
そう言ってパトラを思いっきり抱きしめ頭を思いっきりいい子いい子している。
正面入り口から抜けると、まだ兵士たちも騒ぎに気が付いていないようだった。
俺たちはそのままグリズの屋敷まで向かい、彼らを安全に保護してもらうようにお願いした。
事前に話が通っていたこともあり、助け出された人たちはナユタを残して客室へ案内された。
「グリズ、夜更けに助かったよ」
「気にするな。でも、まさか本当に忍び込んでバレずに帰ってくるとはな。ビックリだったぞ。あっそれと……あれはロックの予想通りだったぞ」
「じゃあ……」
「あぁもう、リランには王都に出発してもらった」
「兄はもうここにはいないのですか?」
ナユタはグリズから服を借り、今はさっぱりとした恰好をしていた。
「あぁ君たちの親戚を頼りに王都へ向かってもらった」
「そうですか。兄は変なところで運がいいですからね。おかげで助かりました」
それから、グリズとナユタに明日のことのお願いをしておく。
これで準備は万端なはずだ。
軽い打ち合わせをしたあと、一端解散になった。
俺はグリズに一部屋借りてそのままパトラと一緒に箱庭の中に入った。
翌日の奴隷市にしっかりと備えないといけない。
できることはだいたいやった。
静かに眠るラッキーを起こさないようにラッキーの横に寝転がる。
パトラは俺のお腹を枕するようにして横になった。
あとは計画通りにいくことを祈るだけだ。
パトラは疲れたのかすぐに眠りについたようだが、俺はなかなか寝付けなかった。
そんなことを考えモヤモヤとしていると、ラッキーが尻尾を俺の胸の上に置いて優しくリズムを刻んでいく。それはまるで母親が子供をあやすように優しいリズムだった。
ラッキーの優しい尻尾が眠気を誘い、いつのまにか頭の中でグルグルと回っていた思考を手放した。翌日は短い睡眠時間だったがかなり目覚めが良かった。
いよいよチャドを追い詰めよう。




