男の子リランとの出会い。妹を探していたが……
僕たちが冒険者ギルドからでて街の中を歩いていると、泣きながら一人の男の子が歩いて来るのが目に入った。
「あれって……」
『さっきの男の子だな』
ラッキーがその男の子の前に行きお座りをすると、男の子はビックリしたような顔でラッキーを見ている。
そりゃそうだ。知らない魔獣が目の前でお座りされても困るだけだろう。
「ごめんよ。ラッキーは君が泣きながら歩いていたから気になったみたいなんだ。どうかしたのかい?」
『泣いていても世界は変わらないからな』
「うん、あのね、あの……うわーん」
少年はそのまま大声で泣き始めてしまった。まわりからは俺とラッキーがいじめているように見られていてもおかしくない。
『なっ泣くな! 大丈夫だ。とって食いはしない』
「子供が泣いてる時ってどうすればいいんだ」
そこへ、箱庭からパトラがでてきてくれる。
「パパにも苦手なものあったんだねー」
「パトラ、助かる」
パトラは任せてと満面の笑みを俺の方に一度向けると、そのまま振り返り、泣いている男の子の頭を優しく撫でてあげる。
「どうしたの? 大丈夫だよ。怖くないよー」
「ひぇぐ、ふぇぐ……本当?」
「本当。ここにいるパパはめちゃくちゃ優しくて強いんだよ。だから、どうして泣いてるのか話してー迷子なのー?」
男の子は首を横に激しく振る。
「あっもしかしてお腹が空いているのかなー?」
パトラはポケットからビスケットをだして男の子に渡してあげる。
「ありがと。でも、お腹は空いてるけど違うんだよ」
「どうしたの?」
「あのね、妹がどこかへ行っちゃたんだ」
確かこの子の妹はチャドがやっていた無料回復所で回復させてもらっていたはずだ。
「いつからいなくなったんだ?」
俺が話しかけると、男の子はまた目にいっぱいの涙を溜めて一生懸命話そうとしてくれるが、今は大人と話すのは難しそうだった。
「パトラ悪い」
パトラはよしよしと頭を軽く撫でてくれ落ち着かせてくれる。
「ゆっくりでいいよー。慌てないで、話せるようになったら教えてー」
男の子は頷き、大きく一度息を吐く。
「あのね、チャドさんの無料回復に妹を連れていったの。怪我しちゃったから。それで、僕は炊き出しで妹の分ももらいに行って回復所に戻ったら、妹がいなくて、聞いたら帰ったって言われたんだけど……どこにもいないの」
どうやらチャドの回復所を最後に妹がいなくなったらしい。妹の怪我は見たところそれほどひどい怪我ではなかったはずだ。
「その妹さんは一人で家に帰ったりとかは?」
「ううん。僕と妹はどこでも二人で行動してるから勝手に帰ったりは絶対にないよ」
回復所に行ってからいきなりいなくなるなんて、どうもかなり怪しい。
「一度、さっきの広場まで行ってみよう」
『ボウズ、普通はロックしか乗せないんだけど、乗せてやってもいいぞ』
ラッキーが伏せの姿勢になる。
「ラッキーちゃんが乗せてくれるみたいですよー。一緒に乗りましょ」
「えっ……大丈夫?」
「ラッキーちゃんは優しいから遠慮しなくて大丈夫よ」
男の子が恐る恐るラッキーに乗ろうとしているので、先にパトラを乗せ、次に彼を乗せてあげた。最初は怖がっていたが、ラッキーに触れると「おぉー」と歓喜の声をあげていた。
そうだろ、ラッキーの手触りに勝てる人間はいないのだ。
「そういえば、まだ自己紹介してなかったな。俺がロックで、こっちはラッキー、それにパトラだ」
また泣かれるかと思って少し警戒したが、ラッキーの上にも乗り少し落ち着いてきたのかしっかりと返してくれた。俺たちは広場へ向かいながら少し話をすることにした。
「僕の名前は……リラン……ル……ゴホッ、です。自分なんかのためにご迷惑をおかけします」
「気にする必要はないよ。子供が泣いていたらできる限り手を差し伸べてあげたいとは思っているからね」
「ありがとうございます。ロックさんは優しいんですね」
彼はラッキーに乗りながら手を出してくる。
だいぶ落ち着いたようだ。俺はその手を握り返す。
ん? 手は汚れているが割とキレイな手をしていた。
「いや……そんなことはないよ。ただのおせっかいなだけだよ。さっき妹と二人って言っていたけど両親は?」
「ちょっと前にワンダーウルフ白狼っていう珍しい魔物に街が襲われて……その時に街を守って……」
「結構離れてるんだろ? よくあの街からここまでこれたな」
「えぇ、最近やっとついたんです。こっちにくる商人さんがたまたま乗せてくれて運がよかったです。王都には親戚がいるので、なんとかそこまでたどり着ければなんとかなると思うんですけど」
「そうか、大変だったな」
話をしているうちにあっという間に広場についた。
広場は先ほどまでの賑わいがなくなり、炊き出しも救護所もすでに撤退されていた。
俺たちは近くにいた兵士らしき人に聞いてみることにした。
「すみません。チャドさんの回復所とかってもう終わってしまったんですか?」
「あぁだいたい、午前中で終わってしまうからね。今さっき引き上げていったところだよ」
「わかりました。ありがとうございます。ちなみになんですが、この辺りでこの子と同じくらいの背丈の女の子みませんでした?」
俺はリランを指さしながら聞いてみる。
兵士は一度リランを見たあとに、目線を一瞬右上にあげる。
「君が言っている子かどうかはわからないけど、あそこの裏路地に入って行くのを見たな。止めようと思ったんだけど聞いてくれなくてね。人さらいとかもいるみたいだから、早めに見つけてあげるといいよ」
「人さらいですか!? それは危ないですね。急いで探してみますね! ところで、女の子見つけたらこの辺りでご飯を食べたいんですけど近くに美味しくて安いお店ってありますか?」
兵士は視線を左上にあげながら、少し考える。
「うーんこの時間だと、ここからまっすぐいって左手のオークの奥様亭か、そこからさらに進んで、スライム食堂がおススメかな」
「わかりました。いろいろありがとうございます」
「いいよ。早く見つかるといいな」
兵士は僕たちににこやかに対応してくれているが、明らかに口角だけをあげたような笑みだった。
兵士も何か知っているが隠しているようだ。




