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奴隷商人チャドの善行

 俺はラッキーと二人で街へ戻ってきた。人魚たちには近くの沈没船から財宝の回収などをお願いしてある。もし今回使わなくても集めておけば今後彼女らの生活に役に立つからだ。


 俺たちが情報収集のためギルドへ向かおうと広場の横を通りかかると何かのイベントをやっているようで人だかりができていた。


『ロックあれは何をしているんだ?』

「あれは……なんだろう? 炊き出しかな?」


 広場には大きな鍋がいくつも並べられ、そこの前にはたくさんの人だかりができていた。

 そこに並んでいる人の服は汚れている人が多く、路上で寝泊まりしているような難民のような人も並んでいる。


「商人のチャド様が炊き出しをしてくださいますよ。タダで食事を振舞いますからどうぞ、みなさん来てください。食事は十分にありますから、慌てないで大丈夫ですよ」


 にこやかな顔をした大男が金や銀で刺繍が施され大きく『チャド』と書かれた趣味の悪そうな旗を振りながら呼びかけている。


「奴隷商にしておくのがもったいないほどいい人だよな」

「あぁやって色々といく街で施しをしているみたいだぞ」

「本当にすごい人だ。あぁいう人が町長になればいいんだよ」


 通り過ぎる街の人も口々にチャドのことを褒めていた。

 本当に街での人望はあるみたいだ。


 チャドは炊き出しだけではなく、無料での回復などもしているようだった。

「簡単な傷であれば無料で回復をしています。小さな怪我は放置しておくと万病の元ですからね。ぜひ無料で回復にきてください」


 白衣を着たおっさんたちが「無料回復所にもお立ち寄りください」と声をかけている。

 

「次の方どうぞ」

「ほら、行ってこいナユタ」

「うん。お兄ちゃん待っててね」


 目の前で小さな兄妹の妹が回復所のテントへと入っていった。

 妹の腕には包帯が巻かれており、血がにじんでいた。

 血の広がり方的に、それほど大きな傷ではなさそうだ。


 放っておいても治りそうだが、無料で治してもらえるならそれが一番だろう。

 

『やっていることは本当にいいことをしているみたいだな』

「あぁ、俺も驚いてる。グリズは前評判が悪かったが実は意外と良かったように、人の噂だけで信じるのは良くないからな。ただ……」

『人間というのは表の顔があれば裏の顔もあるからな』


 勇者のキッドの表の顔が良かったように誰しも裏の顔というのはある。

 特に気を付けなければいけないのが、騙すつもりでやってくる奴だ。

 

「ここで見ていても仕方がない。ギルドの方に情報収集をしに行ってこよう」

『あいよ』


 ◆◆◆


 ギルドに行くと、ギルドの掲示板の一番目立つところに貼り紙がしてあった。

『半魚人が街を近く襲う可能性あり。冒険者は緊急クエストに備えて準備を怠らないように。報酬:ギルド特別単価』


 報酬がギルド特別単価になっていた。

 特別単価とはその災害の規模に応じて料金が支払われるもので必要であれば国からの補助などもある。


 冒険者の仕事は多岐にわたってあるが、その中でもこの特別単価というのは金払いがいい。その理由として、緊急時や今回のような怪しい情報でも冒険者を集めておく必要があるからだ。


 例えば、噂程度のものでもその情報を軽く見ていたがために大災害につながるってことはよくある。ある町で新人冒険者がリザードマンみたいなのが森にいたってギルドに報告をだした。ギルドはリザードマンは珍しいが危険度は少ないと確認せずに後回しにしていたら、実はドラゴンだったなんてことがあった。


 ドラゴンとリザードマンを見分けがつかない奴なんているわけないと誰もが思っていたが、実際にそんなことが起こりえるのだ。


 だから、ギルドは怪しい噂の時にでも念のためこの特別単価で対応をするようになった。

 冒険者は特別単価の依頼が貼られると、その戦いに備えて準備や心構えはしておく。


 誤報の数もかなり多いが、もし事実だったときの報酬は普通に働く場合の1週間分くらい支払われるのだ。

 もちろんランクによって差はでてくるが、かなり美味しい依頼になることが多い。


 災害が発生しなければそのままギルドは報酬を支払わなくてすむが、ギルドとしても人を集められる口実にもなり、人が集まれば今までたまっていた依頼なども処理される可能性があがってギルドとしても恩恵がある。


 今回みたいに魔物の暴走を事前に予想するなんてことはほとんどないが、たまに戦争や国同士の小競り合いなどが起こりそうな時にも発動されていた。


 半魚人たちが来るのを半信半疑でもクエストとして貼りだしているということは、ギルドでもチャドの発言力は無視はできないということだろう。


 ついでに俺はギルドの受付のお姉さんに緊急クエストについて聞いてみる。

「あのーすみません。緊急クエストについて聞きたいんですけど」

「はい、はい、ちょっとお待ちくださいね」


 彼女は机の横に置かれた沢山の紙の中から一枚とりだす。

「お待たせしました。緊急クエストについて何を知りたいんですか?」


「半魚人が街を襲う可能性があるって書いてあったんですけど、どれくらいの可能性があるんですか?」


「可能性っていうとなんとも言いにくいんですが、情報源が奴隷商のチャドさんからでして、チャドさんのお抱えの魔道具士の人が魔物の暴走を感知する魔道具を作ったというお話なんですよね。それで、近日中にも半魚人がこの街を襲ってくる可能性があるみたいなんです。他の街でもチャドさんが予言した数日後にワンダーウルフ白狼という魔物が集団で街を襲ったことがあるんです」


「それは聞いたことがあります。でも、行く先々で魔物の暴走が起こるってすごい偶然ですね」


 ワンダーウルフ白狼の暴走についてはグリズも言っていた。

 確かグリズが保護をしたのは、その暴走の時だったはずだ。


 自作自演で街を襲わせてチャドにいったいどんなメリットがあるというのだろう。

 俺が悩んでいると、彼女はさらに続ける。


「まぁ魔物の異常行動自体は結構ありますからね。先日も王都でアンデット騒ぎがありましたし」


「あははっ……確かにそうですね」


「でも、もし本当に今回半魚人の暴走があったらこの街の防衛のためにも、チャドさんの魔道具を街が購入をするみたいですよ。事前にわかるなら色々準備ができますからね。本当にチャドさんは人の役に立つことばかりをしていて尊敬できますよね」


 俺は少し複雑な心境だった。

 この街の人たちの多くはチャドを尊敬して、信頼している。

 今から俺はそのチャドの悪事を暴こうとしているのだ。


 少なくとも、チャドは街に貢献をしている。

 弱者に施しを与え、無料で回復までしていた。


 もし、俺たちがチャドの悪事をあばいたら、チャドによって助けられていた人たちには今後手が差し伸べられることは今よりも少なくなるだろう。


 だからといって犯罪は許されないが。


 ギルドはまだ半信半疑だが、すでに街の上層部では魔道具を購入するという話になりつつあるようだ。チャドは自分で魔物の暴走をさせることで、暴走を予知する魔道具を売りたいということだろう。


 もし、本当に魔物の暴走を予想できるのであれば、その価値は見当もつかない。

 欲しがるのはきっとこの街だけじゃなく世界中の街や国で欲しがるはずだ。

 情報にはそれだけの価値がある。


 チャドがそれをいくらで売りつけるのかはわからないが、街や国相手の商売ができるまたとないチャンスになる。奴隷商という職業はどうしても下に見られやすい職業だが、これをきっかけに成り上がりを目指しているに違いない。


 なんとしても、今回襲撃を成功させたいはずだ。

 きっとそこに俺たちのつけいる隙があるはずだ。

緊急告知

2020年12月4日(金)

『幼馴染のS級パーティーから追放された聖獣使い。万能支援魔法と仲間を増やして最強へ!』

書籍化が決定しました。

しかも……あれが、あんなことになる計画もあるとか……。

まだ詳しくは書けませんがTwitterの方では絵なども先に少しずつ公開できるかもです。


気になる絵師さんは……あの綺麗な絵を描く有名なあの方に決定しました。

あまり詳しくなかった自分でも知っている方でしたので非常にドキドキしてます。

このドキドキは……年齢的に心筋梗塞とかだったらどうしよう。


また随時報告をさせて頂きますね。


ツイッター @kanaritu7


こちらの二作品の応援もよろしくお願いします。

挿絵(By みてみん)

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ラッキー「どこの本屋にも置いてあってよかったな」 ロック「ラッキー実はそれは……」 ラッキー「うっ売れ残りってことなのか?」 ロック「今は自粛中だ! きっとコロナが終われば……いやネットで今すぐ注文しよう!」 ご自宅での暇つぶしにぜひネット通販などからお買い求め頂ければと思います。 このままだと……ラッキーの肉球によってはじける可能性が。  テイマー養成学校 最弱だった俺の従魔が最強の相棒だった件
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