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常闇の王リッチ

「ここの下にリディアがいるのか。俺が先に降りて行くから、シャノン、パトラ大丈夫か? 無理なら箱庭に入っててもいいぞ」


 地下室からは腐臭がする。


「大丈夫です」

「パパー! もうしっかり回復したよー」


 ドモルテの方を見ると、ドモルテは黙って頷く。

 俺は剣を抜き慎重に進んで行く。


 ドモルテの時よりもかなり深い地下室のようだ。

 これなら、どんな実験をしていても外に音が漏れることはないだろう。


 段々と腐臭がきつくなっていく。


 階段を降りきると、そこには美しい女性が杖を構え1人立っていた。

 腐臭の原因は彼女からするようだった。


 きっと彼女は幻影魔法を使って姿や声を誤魔化しているのだろう。


「まさかここがバレるとは思いませんでしたよ。あなたがたを舐めていたようです。どうも初めまして私はリディア。かの有名な大賢者ドモルテの弟子にして最大の理解者。命乞いをするなら今ですよ。私を倒したところで、外のアンデットは死にませんし、あなた方は大賢者の弟子である私には勝てません」


 彼女は自信満々にそう言うが、大賢者の弟子を連呼するあたりにきっと、本当は自分に自信がないのだろう。

 まるで、虎の威を借りる狐のようだ。


「外のアンデッドたちは全部倒したぞ」


「フフフ……冗談はよしなさい。私を動揺させようって言っても無駄よ。あれだけのアンデットを準備するのにどれくらいかかったと思っているの? 今頃王都は阿鼻叫喚の地獄絵図になっているはずよ。全部を倒すなら全域に聖魔法で結界でもかけなければ、この短時間では無理。でももし、聖魔法を使っているなら。そこにリッチがいるわけがない。はい、論破。……なんでリッチなんているのよ。私はそんな魔物作ってないわよ」


 俺の後ろにいるドモルテに気が付いたようで急に慌てだす。

 まぁそりゃそうか。自分だけがアンデッドを操れると思っていたところに、アンデッドが現れたらそりゃ驚きもする。


「あらら、私を忘れてしまうなんて寂しいかぎりじゃない」


「誰よ! あんたみたいな骸骨お化け知らないわよ」


「これでも思い出せないかしら? 獄炎の館」

 ドモルテは魔石を握りながら杖を構え、いきなり呪文を唱える。


 リディアの足元から小さな家が現れ、挟むように飲み込んでいく。

「ぐあぁぁぁぁ」


 リディアは苦痛の叫び声をあげるが、次の瞬間、リディアも杖を振り呪文を唱えると、リディアの身体のまわりに水が現れ一瞬で消火していく。


「やりやがったわね。こんな古代魔法を使うなんて……まさかドモルテなの!? リッチになってもまだ私を邪魔する気なの!?」


「誰が一番の理解者だって? 私の研究を盗んでおいて。しかも、あの研究を完成させるのに何百年かかっているのさ。相変わらず魔法の才能はなかったのねー」


「うるさい! うるさい! うるさい! あんたがいたから私はいつまで経っても一番になれなかったんだ。歴史にも名前を残せずに。だから、あんたの悪名が世界に轟くようにしてやっているのに。何でまた邪魔をするんだよ!」


「その器の小ささがなければ、もっと大成しただろうに。大人しく土へ還りな。魔力ドレイン」


「あんたが死んでから、私がどれだけ修行したと思っているのさ。今ならあんたにだって負けないわ! 魔力ドレイン」


 リディアとドモルテの間で魔力の綱引きが始まる。

 お互い力はほぼ互角のようだ。


 ただ、俺の魔石を大量にもっているドモルテの方が力としてはやや上か。


 俺たちの目の前で、魔力が目に見える形で引っ張りあっている。

 完全に2人だけの世界でやっているが、そこへパトラが空気を読まずワイバーンくんと共に突っ込んだ。


「いっくよー」

 パトラはワイバーンに乗りながら手に持った杖をリディアの顔面にフルスイングする。

 まだ魔法が使えないから仕方がないんだけど、使い方が完全に打撃系の武器になってる……まぁ仕方がないか。


「クソッずるいぞ。1人相手に多人数で攻めるなんて卑怯だと思わないのか」

 リディアはそんなことを言っているが、自分だって大量にアンデッドを作っておいて、そんなことを言われる筋合いはない。


「悪いが、さっさと終わらせてもらうよ。やることは沢山あるんだ」

「ふん。そう簡単に終わりにできるかな?」


「幻影魔法。陽炎。さて、どれが私かわかるかな?」

 リディアの身体が複数に増える。普通だったらどれが本体かわからないほど精巧につくられているが……シャノンが本体に切り付ける。


 別になんてことはない。

 通常であれば、どれが本体なんだ!?


 とかって展開があったかも知れないが、わざわざ相手のために付き合ってやる必要はない。

 本体の腐臭が強すぎて一発でわかってしまう。


「そこの女はよほど強い幻覚破りの魔法が使えるようだな」

「見たか、私の仲間は非常に優秀なんだ。前の時のように、ボッチ賢者とかバカにさせないからな」

 リディアとドモルテはシャノンに対してかなり、感心しているようだが……。


 きっと、こんな暗いところで、ずっと一人で魔法を研究し続けてきたのだろう。

 根本的な欠陥に気が付いていない。

 なんだか弱い者いじめをしている気分になってくる。


「ロック、ここは私に任せて欲しい。二度とこの国にアンデッドが生まれないように私がこの女を倒してやる」


「あぁ、色々思う所があると思うだろうから任せるよ。でも、やばそうなら手を出すからな」


 ドモルテはリディアを見つめたまま、俺の方に手を挙げ、その後詠唱にはいった。


「光の精霊よ。我は命じる。そなたらの力を貸し、この悪しきものを滅する力を。光の鎖」

 ドモルテの杖から聖なる光が発する。

 リディアの足元には光の鎖があらわれ、地面にリディアを引きずり込もうとしている。


「バカな……なんでリッチになったお前が聖魔法を使えるんだ」

「この国を守るためなら、例えこの身が滅んでもお前を道連れにしてやる。お前をこの国に残したのは私の責任だからな。最後は私の手で始末してやる」


 だが、そう言うドモルテの身体も少しずつ消えていく。聖魔法の影響なのか、身体がボロボロになっていく。

「ドモルテ様! ダメ! 死んで土に返ってしまうよ! 消えちゃダメだよー!」

「ララ、大丈夫私はずっとあなたの側にいるわ」


 アンデッドのドモルテは自分が死ぬ覚悟をして聖魔法を使ったらしい。

 でも、そんなことは俺がさせないけど。


「ドモルテ、お前の覚悟はすごいけど、助けられる奴を黙って死なせてやるわけにはいかないんだ。リディアを狩るのにお前の命は必要ない」


 俺はリディアに向かって魔法を放つ。

 その魔法は光の矢となってリディアの身体を貫いていく。


「無詠唱だと……こんな強大な力を持つ魔法使いが、ドモルテ以外にもいるなんて。私はどうやら長く引きこもり続けてしまったようだ。だけど、私はまだ死ぬわけにはいかない。覚えていろ。次会う時はもっと大きな力を得て貴様らの前に現れるからな」


 リディアの身体から魔力が抜け、その魔力は四方に散らばっていく。

「逃げるのか!?」


「逃げるわけじゃない。戦略的撤退だ。私はどんな時でも有利な時じゃなければ戦わないんだ」

 リディアの魔力が霧散すると、そこに残ったのは干からびた女性の身体だけだった。


「待て! お前は私が倒さなければ……」

 ドモルテは自分で放った聖魔法の浸食を受け徐々に身体が崩れていく。


「ロック、どうして最後まで私にやらせてくれなかったんだ。あの子は私が倒さなければいけなかったのに逃げられてしまった。私はもう……魔石がなければ生きていけない身体になった以上、これが最後のチャンスだったのに」


「魔石があれば生きていけるんだろ? なら最後まで生きればいいよ」


「そんな魔石がどこにあるって言うんだ。私はララに盗みを働かせて生きていたような、何の力もないただの骸骨だぞ。お前たちと別れたらまた、あの地下室へ逆戻りだ。私はララが盗んだ魔石なんてもう使うつもりはない」


「じゃあ俺たちと一緒にいればいいよ。パトラ、まだ魔石は箱庭にあるんだろ?」

「あるよー。掘ればまだまだ沢山あると思う。ドモルテさんが生きていくだけなら、今の在庫だけでも、あと数百年は生きていけるだけの魔石があるよー」


「なっ? もちろん俺たちに危害を加えたり、危険な研究をしないって約束してくれるならだけどな」


「いいのか? 私のようなリッチを仲間にしても?」


「うーん。問題はそこなんだよ。俺の魔法は聖獣使いって言う職業でリッチとは相性が最悪なんだよ。だから、箱庭に入れるかもわからないし、もしかしたら死んでしまうかも知れないんだよね。まぁでも最悪は箱庭に入らなくてもいいか。魔石だけ渡しておけば隠蔽魔法で外見替えればいいわけだし」


 せっかく賢者までのぼりつめたリッチがいるのに、このまま土に返すのはもったいない。

 賢者として、やってもらいたいことは沢山あるのだ。


「ならぜひ、仲間にして欲しい。もし、それで死んでも私は後悔をしない。もう一度この広い世界に飛び出せるなら」


【常闇の王リッチが仲間になりたがっています。聖獣化することで闇属性のパワーがダウンしますが仲間にしますか?】


「おっ仲間になれるみたいだぞ。闇属性のパワーがダウンするってなってるけど、どうする? 死にはしなさそうだ」


「闇属性ならダウンしても問題ない。よろしく頼む」


「わかった」


【聖獣常闇の王リッチが仲間になりました。場所、設備を1つまで選択することができます】


 ◆池(中)

 ◆川(中)

 ◆海(小)

 ◆小屋(拡大)

 ◆箱庭拡張

 ◆畑(拡大)

 ◆果樹 バナーナ

 ◆果樹 りんご

 ◆鉱山(中)

 ◆山

 ◆温泉


 今回は保存食を作成するために海を選択する。

 塩を作ろうと思っている。

 従魔も増えてきたのでちょっと箱庭の方も開拓を進めようと思う。


「ちょっと! 私は?」

 ララが俺に訴えかけてくるが、ララは頭の中に音声が流れてこない。

 

「ララは聖獣にはなれないみたいだな。なんでなんだろう?」

【妖精ピクシーはすでに常闇の王リッチの従魔になっています。リッチが従魔になった時点で妖精ピクシーにもその影響が及ぼされます】


 珍しく頭の中の声が答えてくれる。

「ララはすでに、ドモルテの従魔扱いになってたみたいだな。だからドモルテが仲間になった時点でララも仲間になってるみたいだ」


 それから少し試したところ、ララは1人では箱庭への出入りができないということがわかった。

 誰かが一緒に出入りすることで出入りできるようなので問題ないだろう。


 さて、後片付けをするために地上へ戻るとするか。

ラッキー「ついに5万ポイントを超えたな」

ロック「読者の人には感謝しかないな」

ラッキー「はやくコロナおさまるといいな」

ロック「自宅にいて命を守れるように、俺たちも冒険を頑張ろう」


自宅で頑張っているあなたに少しでも役に立てていますように。

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ラッキー「どこの本屋にも置いてあってよかったな」 ロック「ラッキー実はそれは……」 ラッキー「うっ売れ残りってことなのか?」 ロック「今は自粛中だ! きっとコロナが終われば……いやネットで今すぐ注文しよう!」 ご自宅での暇つぶしにぜひネット通販などからお買い求め頂ければと思います。 このままだと……ラッキーの肉球によってはじける可能性が。  テイマー養成学校 最弱だった俺の従魔が最強の相棒だった件
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