不思議な女の子
「シャノンどうしたんだ、そんなに慌てて?」
「ロックさん! アネサ村の方から黒い煙が何本もあがっているんです。何かあったみたいです!」
「襲撃が早まったのか?」
「わかりませんが……」
「グリズ、ちょっとアネサ村へ戻る。シャノンは箱庭へ! イバンはここでグリズと待っていてくれ」
「ううん! 僕も一緒に行きたい! おばあちゃんを助けたいんだ! ここで僕が一人残ったらきっと一生後悔すると思うんだ」
大きく地面が揺れる。この地方に来て今までで一番大きな揺れだった。
スイジュ国だけなら、正直なんとでもなりそうな気はするが、今回はドラゴンがいる。連れて行くことはできるが……イバンを守ることまでできるのかと言われると不安が残る。
「僕はドラゴンを封印することができるよ! 絶対に足手まといにならないから!」
「わかった。行こう。ただ相手はドラゴンだからな。行くことで命の保証はできないよ」
「それはこの村にいても同じだから大丈夫」
「わかった。じゃあグリズ行ってくるよ」
「また俺だけ置いてきぼりかよ」
「行きたいならグリズは遠慮なく連れていくよ? あっ残るなら種をよろしく」
「クソッ! 行きたいけど、俺には雪茶の種を買うという命の次に大事な使命があるからな。残念だ」
「よく言うよ」
「こっちは任せておけ! 帰ってくるの待っているから、しっかり生きて帰ってこいよ」
「この国の最大戦力の一角の力を見せてやるよ」
グリズはにんまりと笑うと俺の背中を痛いくらい強く叩いて、サムズアップした。
「本当に、お前ってやつは……行ってこい」
「よし、イバン行くぞ」
俺とイバンは宿からでると、アネサ村の方から黒煙があがっているのが見える。炊事ででる煙の量ではなかった。
「ラッキー!」
『あいよ、アネサ村までだな』
「あぁ、イバンおいで」
イバンを抱きかかえると、そのままラッキーの背中に乗せる。
「すごいふかふかだ」
今から大変な場所へ向かうというのに、イバンの目は輝いていた。
俺の前に座ったイバンがラッキーに思いっきりしがみつくと、眠ってしまいそうなくらい幸せな顔をしていた。
イバンが落ちないようにしっかり支えると、ラッキーが3歩でトップスピードになり、アネサ村の方へ駆け出した。
何人か途中で村人とすれ違ったが、きっとよく見ていなければ突風が吹いたようにしか感じなかっただろう。
最初に行ったルートとは別で、ガーゴイルくんが通った森の中を突っ切っていく。
洞窟の中だとラッキーには少し狭い。
木々を避けながらラッキーが高速で走っていくと段々と煙が大きくなっていった。
俺は、箱庭の中に呼び掛ける。
「みんな着いたらすぐに村の人の避難と村の消火にあたるから準備しておいてくれ」
箱庭の中から返事は聞こえないが、それぞれ準備をしてくれているはずだ。
『ロックまずい。急ぐぞ』
「頼んだ」
ラッキーが短くそう言うと、さらに加速し、あっという間に村へついた。
だが、俺たちがついた時には村の家は燃え盛り、助けを求める人たちで溢れていた。
逃げ出す前に襲われたようだ。
「全員、外に出てこい!」
オレンジアントたちは、ワイバーンに乗りでてきた。もう消火の準備ができていたのか、ワイバーンの身体の下には大きな桶が吊るされており、その水を燃えている家にかけていく。
今回オレンジアントEはワイバーンに乗っている。
ガーゴイルくんとのコンビが解消されたようだ。
今回ガーゴイルくんは炎に対する耐性も強いので今回は別の仕事をしてもらった方がいいからだろう。この火災簡単に消えそうにない。それどころか森に広がったら大変なことになる。
パトラはいつのまに覚えたのか水魔法を使い、空中から縦横無尽に消火し、メロウは地上から家にどんどん水魔法を打ち込んでいく。
「シャノン! 回復薬を全員に配ってやってくれ。ガーゴイルくんはできる範囲で家の中から救出! 途中でスイジュ国の奴がいたら全員捕縛するんだ!」
「わかりました」
「まかせてください!」
「あい!」
シャノンとガーゴイルくんに交じって知らない女の子が、俺から回復薬をとって一本自分で飲み干す。なんだこの子は? どこかで見たことがあるような気がするが思い出せない。
彼女は「ぷふぁー」と言って口のまわりをゴシゴシすると、俺の方に満面の笑みでサムズアップしてきた。俺もぎこちなくサムズアップでかえすと、俺の腕につけている箱庭から大量の水が溢れだした。
「なんだこれ。水よ止まれ!」
なんとか止めようとするが俺の言葉とは裏腹に、膨大な水が溢れどんどん村の中を流れていく、こんなのありえない。
水はまるで生きているかのようにどんどん火を消していった。
俺の制御がまったく効かないなんて、どういうことなのだろう。
爆発的な水量ででてきた水はあっという間に村の炎を消火すると、箱庭から水がでてくるのもとまった。
「ロックさん新しい魔法ですか?」
「いや、俺にもわからない」
「ロック様これだけの水を操れるって生半可な力ではありませんよ」
「それは俺もそう思う。それよりも今はこの火災の原因を探るのと、村の人の救出が先だ」
箱庭の中の何か特殊な効果なのか?
でも、そんなこと今まで一度もなかった。何が原因なのか?
それにあの女の子は? 先ほどの小さな子供がすでにいなくなっていた。
水に流されたのなら大変だ。
今の力がいったいなんなのかわからず色々疑問はでてくるが、原因を究明している時間はない。俺も人を助けに動かなければ!
「クソ! またてめぇか。何度も、何度も邪魔しやがって。楽しく火遊びしていたのに、なんてことしてくれたんだ」
そこには杖の男と昨日弓矢で攻撃してきた男たちがいた。
昨日よりも援軍がきたのか人数が増えている。
襲撃が早まったのか?
「あれが、お前が言っていた冒険者か? たしかに一筋縄ではいかなそうだが、スイジュ国に喧嘩を売ったことを後悔させてやるしかないな」
「まったくだ。あれくらいの魔法で俺たちがビビるわけがないだろ」
杖持ちの男が昨日よりも数人増えていた。
全員が大きな魔石をつけた杖を持ち、豪華なローブに身を包んでいる。一番最後にビビるわけがないと言っている男の膝は明らかにブルブルと増えていた。
トイレにでもいきたいのだろうか?
「パトラたちは全員、流された村人の発見と回復を優先してくれ。ガーゴイルくん、シャノン、メロウはこいつらの相手をしてやってくれ」
「わかりました! ロックさんは?」
「俺はマルグレットのところへ行ってくる」
「僕も行く!」
イバンはラッキーに捕まったまま頑として離れたくないと思いっきり抱き着く。
顔がにやけているような気がするが気のせいだろう。モフモフに捕まっていたいだけなんてことはないはずだ。
「お前ら馬鹿か? 俺たちがそう簡単に通すわけないだろう」
「ロック様、ここは私たちが足止めをしますから、先へ行ってください」
「ロックさん任せてください」
シャノンにメロウがやけに張り切っている。
「可愛い女の子たちが相手にしてくれるってよ」
「ぐふふ、俺あっちの年増の美女にいくわ」
「年増って誰のことかしら?」
誰も、メロウだとは言っていないが、その言葉にメロウが反応した。
近くにいたら絶対に巻き込まれるやつだ。
『ロック、どうする?』
「俺たちは、強硬突破だ!」
『ワォーーーーーーン』
ラッキーがその場で魔力を爆発させると、そこにいた奴らが恐慌状態へとおちいり、無意味に魔法を放ったり、そのまま口から泡を吹いて倒れていった。
唯一、一人だけなんとかまだ意識をしっかりと持っている奴がいるが、地面が濡れたおかげで少し正気を保ったようだが戦意はすでになくなっているのか、顔がひどいことになっている。
「ロック様……私たちの出番は……? 私を年増って言った奴への感情をどうすればいいんでしょうか?」
「よし、ラッキー行くぞ」
『わおん』
「ラッキーさん犬のフリをしないでください!」
シャノンの声を背中で聞きながら、ドラゴンが眠る洞窟へと急ぐ。
いろいろ疑問はあるが、先に対処しなければいけないのはドラゴンの方だ。
洞窟の中に入ると、奥の方から話し声が聞こえてきた。
「さぁドラゴンの封印を解け!」
まずい、マルグレットが脅されているようだ。
急がなければ!
ニコニコ漫画とコッミクウォーカーで漫画版更新!
本日8月5日(木) 午前11時から第4話更新予定です!
ニコニコ漫画
https://seiga.nicovideo.jp/comic/53112?track=official_trial_l2
コミックウォーカー
https://comic-walker.com/contents/detail/KDCW_FS06202241010000_68/
★★★★★
いつも応援ありがとうございます。
メロウ「とりあえず、こいつら全員縛り上げますか。ガーゴイルくんお願いできますか」
ガーゴイルくん「はい! 喜んで」
ガーゴイルくん誰からも頼られる存在になっている。
頑張れ! ガーゴイルくん!
シエル(出番がないんだけど、忘れられてる!?)




