結界
「ロックさん、これを受け取ってくれないか?」
ギーチンさんが渡してくれたのは、雪結石の大きな塊だった。
「こんな大きなの受け取れないですよ」
「そんなこと言わないでください。変な態度をとったのに助けてもらって、排他的な村だとは言っても、恩を仇で返すことはできません。それに……ここでこれだけでたのはかなり久しぶりなので」
ラッキーが壁を壊した時はやりすぎかと思ったが、どうやら結果オーライだったらしい。
「ロックさん、受け取ってあげてください。ここ最近とれる機会が減っていたので、今回のはお礼とお祝いみたいなものです」
「それなら……ありがたく頂きます」
俺は両手では抱えきれないほどの原石をもらった。
「この原石を持っていけば、ここからかなり沢山の雪結石をとりだすことができると思います。もちろん、村長からもらう分は別でカウントして大丈夫ですので」
「ありがとうございます。いいんですか? 勝手にもらってしまって」
「もちろんですよ。この村は村長がすべて独断で決めるわけではありませんので、その辺りはかなり緩いです」
『ロック、褒めてくれてもいいぞ?』
「ラッキー偉かったよ。あとでいっぱいモフモフしてあげるからな」
『添い寝もだぞ』
ラッキーはプイッと顔をそむけたが本当に可愛い奴だ。
「お礼としてもらいすぎな気もするので何か、他に手伝えることとかありませんか? なんなら壁を壊すのも手伝いますよ」
「そうか……でも、取りすぎるのも問題だから。しばらく俺たちはゆっくり働くだけですみそうだ。
むしろ、もっと何かお礼がしたいくらいだ。今夜もここに泊まるのか?」
「いや、雪結石さえもらえれば、俺たちは帰るつもりです。元々の目的が雪結石ですからね。昨日は夕方遅かったのと村長さんの好意に甘えさせてもらった感じなので」
「そんなこと言わずに、今日も泊まっていけ。コロン村なら明日の朝一で帰れば大丈夫だって。なんなら……」
「ギーチンさん、浮かれすぎは良くないですよ。でも、これだけ雪結石が発見されたとなると今夜はお祝いになりますし、もう一泊だけして頂けないですか? これを見せれば村長も納得するでしょうし、村のみんなも……」
「村のみんなも……?」
「外部の人を嫌うのが少しは変わるかもしれないので」
アンドは弟のこともあり、この村の人に外部と交流を持ってもらいたいのかもしれない。
「ちょっとコロン村で待っている奴に伝言を送ってくるよ」
グリズには一応帰っていいとは言っているけど、多分待っていると思う。
「わかりました。ひとっ走りしてきますよ」
「いやいいよ。ガーゴイルくん出れる?」
「もちろんですよ」
「なっ……いったい何人入っているんですか?」
アンドが驚いているが、もし中を見せたら気絶してしまうんじゃないだろうか。
「ダンジョン産の報酬でもらったんだ。まだ数人この中で生活しているんだ。かなり便利だよ」
「ほへー、ラッキーさんは来るときに見ていたので知っていましたが、他の国へ侵攻することもできそうな魔道具ですね」
「ハハハ、そんなことはしないよ。ここは俺たちだけの村だからね。他人を中に入れたことはないけど……いれることはないんじゃないかな」
「そうなんですね。俺もダンジョン憧れますね。いつか弟と二人でダンジョンへ行ってみたいです」
「行けるでしょ。まぁでも最初は初心者用からをオススメするよ」
「そうですよね」
「あっ、ガーゴイルくん、悪いんだけど空を飛んでコロン村まで行ってきてくれ。グリズがまだいれば明日には戻るって」
「わかりました。すぐに行ってきますね」
「よろしく頼むよ」
ガーゴイルくんはそのまま洞窟からでると、すぐに空へと飛んでいった。
来るときは雪の中を歩いてきたので半日かかったが、直線距離であればすぐだと思う。
ところで、方向聞かずに飛んで行ったけど大丈夫だよね?
今、出て行ったガーゴイルくんがすぐに戻ってきた。
「ガーゴイルくん、方向的にはあっちだよ……」
「ロックさん、道に迷ったわけではなくて、何か結界のようなものが張られているようなんです。破ってしまってもいいですかね?」
「結界?」
だいぶガーゴイルくんに失礼なことをしてしまった。
だけど結界……こんな田舎に?
「破っていっても大丈夫ですかね?」
「アンド、この村にドラゴンの封印以外で何か結界とかあるのか?」
「いや、そんなこと聞いたことないですよ」
「ギーチンは?」
「俺もない。それはどこにあるんだ?」
全員で外に出て場所を確認すると、村からはだいぶ離れているような場所だった。
「別にあそこならどっちの村にも関係ない場所だから破れるなら破っていいと思うよ。むしろ、あんなところに誰にも知られずに結界みたいなのがある方が怖い」
コロン村で聞いた陰謀論を急に思い出すが、ガーゴイルくんに任せようと思う。
もう戻った方がいいような気がしてきた。




