錬金術師と人魚姫 6
浴室から出たわたしは居住兼作業部屋――面倒くさいから工房と呼ぶことにしよう――工房に戻って、錬金釜の前に立っていた。
白状すると、わたしは料理ができない。なので昼食も錬金術で用意する。
釜のフタを開けて、材料を投入していく。
小麦粉、卵、牛乳、砂糖、それから特別な粉を入れてフタをしたら、フワラに呼びかけて力を貸してもらう。
材料の分解、わたしがタイミングを見計らって詠唱、フワラがマナを投入――で、完成だ。
釜のフタを開くと、甘くていい香りが漂ってくる。うん、中々の出来だと思う。
わたしは完成した物を釜から出して、お皿の上にのせた。次に、運ぶ準備を整えていく。トレーの上に完成した品を二皿。もちろんミュウとわたしの分だ。それからナイフとフォークも必要。飲み物は……ミルクでいいかな。
わたしはそれらをのせたトレーを持って、浴室に戻った。
「クロちゃんっ、おかえりなさい!」
浴室に戻ると、ミュウが潑剌と出迎えてくれる。なんというか眩しいなあ。
「これ、食べて」
わたしは浴槽の縁にトレーを置く。結構、幅のある縁だから安定して置ける。そのまま、わたしも縁に腰かけた。
「いい匂い……これ、なんですか?」
お皿に鼻を近づけながら、ミュウが訊ねてくる。
「これは……『がんばれ! 楽園までもう一踏ん張りパンケーキ』だよ」
本当は果実やクリームを添えられたら完璧だった。なので、もう一踏ん張りだ。
「おお、これが噂のパンケー……え? 楽園?」
「うん、楽園までもう一踏ん張りね」
「もう一踏ん張りですかっ!」
「そうなんです。ところでパンケーキ知ってるの?」
海にもパンケーキが存在するのだろうか?
「ワタシ、地上の世界について色々と調べていたので!」
「ふうん……」
「パンケーキの前についてる名前はよくわかりませんけど……」
ミュウが小声でなにか呟く。
「え? なんて?」
「ううん、なんでもありません!」
とにかく……地上を調べる過程で知ったというわけか。でも、どうして地上について調べていたんだろう。気になる点は多々あるけど……
「とりあえず食べようか」
「はい、いただきますっ!」
ナイフとフォークを手に、わたしたちは丸くて黄金色のパンケーキを食べ始めた。




