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桃真珠1

 大粒の雨が工房の窓を強かに打ちつける。


「今日もすごい雨ですねー……」


 窓の外を眺めながら、ミュウがゲンナリした様子で言った。

 そうだねと返しながら、わたしは窓際に立って外を見る。

 まだ昼だというのに暗くて、強い雨が降りしきっていた。


 ミュウが家に来てから、五日が過ぎた。

 わたしとロゼが船で海を再調査すると決めてからは四日が経ったのだけど……

 その間、海には一度も出られていない。


 海を調べようと決定した日の晩から連日、強い雨が続いているからだ。

 海は大荒れで、とてもじゃないが船を出せるような状態ではないらしい。

 オヤカタくん曰く、この嵐もマナの穢れが原因みたいで……


「あっそうだ! クロちゃん、錬金術でを雨を止ませる道具とか作れないんですかっ?」


 ミュウが期待の眼差しを向けてくる。


「うーん……素材さえあれば作れるんだけど……」


 簡単に入手できるような物じゃない。


「そうですか……」


 ミュウの表情が曇る。

 ……わたしは、自分の不甲斐なさに苛立ちを覚えていた。

 雨の中、できる範囲でマナの穢れについて調べてみたけれど、収穫はなし。

 精霊と契約しているくせに、精霊についてもマナについても、わたしはなにも知らない。


 錬金術を使えても、結局なにもできない。

 そんな自分に、焦燥とか苛立ちが募る。


「クロちゃん?」


 いつの間にか、ミュウが間近でこちらを覗き込んでいた。


「な、なに?」


 不意打ちに胸がドキリとする。

 ミュウの顔は綺麗過ぎるから、いきなりアップで見るのは心臓に悪い。


「なんだか元気ないけど、どうかした?」


 心配してくれているらしい。

 ちょっと嬉しくなる。


「もしかして、風邪とか?」


 ミュウが手を伸ばし、わたしの前髪をそっとかき分けて額に触れる。

 ひんやりと冷たい感触。同時に、わたしの全身が熱を持ち始めた。


「んー……ちょっと熱いかもっ。それに顔も赤いみたい」


 それは恥ずかしいからだよ!

 などとは言えず。


「ほらクロちゃん、ベッドで横になって」


 ミュウがわたしの手を取り、ベッドの方へ引いていこうとする。


「いや……本当に大丈夫だから」


「ダメだよっ」


 そんなやり取りをしていると。


「クロ様~!」


 閲覧室の方から、わたしの名を呼ぶ声が響いてきた。

 あの声は……

 わたしとミュウは顔を見合わせる。


「オヤカタくん?」

「オヤカタさん?」

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