表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/17

新年-M→K 決め事

義兄妹視点、少し長めです。

 目の前の光景に栗石美晴〔くりいし みはる〕は(おまえらー! 道端でイチャイチャすんじゃねーっゴラァ!!)と殴り込みそうになった。

 が、しなかった。というか、できなかったというのが正解だっ!

「ムーッ! ウーッ!」

 と、塞がれた口からくぐもった声を出して、暴れるけれど彼女を拘束した腕はゆるむ気配がない。どころか、強くなる。

「他人の恋路を邪魔すると馬に蹴られるよ? 美晴」

 頭上から降るお告げのごとく響いた彼の声は、静かで厳かだった。内容は厳かでもなんでもない、俗世にまみれまくったシロモノだったがな!

 にこり、と微笑む要に、グルルと唸る。


「それとも」


 ……コイツの この 一見、清廉潔白そうな微笑みには胡散臭さしか感じねぇな。

「なっ、なんだよ?」

「羨ましいのかな? 美晴は」

 チョン、と唇に人差し指をつけられて、頭が真っ白になる。

(な、な……なんじゃそりゃーぁぁぁあああ!!)

 ブンブンブン、と首を横に振って否定する。ああっ、もう、ヤダ! コイツ!!

 真っ赤になっているだろう美晴の顔を堪能するかのように眺めて、要は「そんな力一杯嫌がらなくてもいいのにね」と可笑しそうに笑ってみせた。

「あんなふうに人目も憚らずくっつくの、僕らには無理だから」

「べ、べつにいいじゃん。あんなのどっちにしてもあたしにはムリッ、恥ずいだろっ!」

「まあ、そのへんはどうとでも――したくてもできないのが、心配だよね?」

「はぁ?」

 要の言うことは、時々意味がわからない。

「牽制したいのにな……うーん、やっぱり見えるところにつけとこうか?」

 何を? と訊けば、マーキングと答える。

「………」

 なんだ、そりゃ。

「キスマークだよ。美晴の場合、つけたら逆に異性を惹きつける気もするし……やっぱり、やめとこう」

 一人納得する兄に、妹は愕然と目を瞠る。

「要って、バカなのか?」

「何言ってるの? 僕からすれば、美晴の方が馬鹿な子だよ。自分は大丈夫とか思ってる? 男に相手にされないとか安心してる?」

「! じ、事実だしっ。あたしなんて誰も女の子に見ねぇよ! ガサツだしっ」

「そういうとこが、馬鹿だって言ってるの。解ってよ……君は女の子、なんだから」

 体はどこも彼に触れていないのに、女の子の部分を触れられている感触にゾクリとする。

(ひーっ! ヤーメーテー!!)

 鳥肌じゃない、要が言うから反応する。

「かっ!」

 叫ぼうとして、遮られる。

「もちろん、少数派ではあるだろうけれどね。美晴は稀少種だから……用心するにこしたことはないよ」

 どこにでも、マニアはいるんだから……って、ソレどういう意味だ?!


 あ、あたしは絶滅危惧種なんかじゃねぇっ!!




 ぷりぷりと先を歩き出した美晴を、「あっ! 美晴ちゃんだぁ」とさらに火に油を注ぐような脳天気な声が呼ぶ。

 年明け早々、「ちゃん付けはヤメロ!」と鋭く凄まれた志野原愛美〔しのはら いつみ〕が恨みがましく要を見つめた。


『栗石くんのせいでしょ?』


 暗に機嫌をとれ、と訴えるような潤んだ眼差しに首を竦める。

 そうして、ある一点を認めて(ああ、もう……本当に目に毒だよ)と苦笑いする。羨ましいと感じるのは、決して美晴への嘘なんかでなく限りなく本音に近い要の素直な気持ちだった。

 見えるところにシルシをつける。

(春日って案外――独占欲が強いんだな)

「やるね、春日も」

「え?」

 気づいていないらしい(首筋のマフラーに埋もれる境目だしね)愛美は、目を瞬くと不思議そうに要を見つめた。

 トントンと自分の首筋を叩いて、「志野原さんのココに、ついてるよ?」と親切心で教えてあげる。

「ココ?」

 マフラーに隠れたソコを撫で、彼女は「何がついてるの?」と訊いてくる。

「キスマークでしょ? 春日のつけた」

「うえっ?! 嘘っ!!」

 自分では見れない場所にあるらしいソレに、俄然彼女は食いついた。

「真ちゃん、真ちゃん! つけたの? ついてる? ホントに??」

 「げっ」という顔をして、春日真〔かすが しん〕が余計なことを教えるなと目で訴えてくるが気にしない。

 嬉しそうに跳ね回る愛美に、真の鬱陶しそうな声が返事を渋る。

「べ、べつにどっちでもいいだろっ!」

「全然よくない! 真ちゃんからのキスマークなんて、ちゃんと鏡で確認しとかなきゃ……家に戻るまでに消えちゃわないかなぁ?」

「……消えねぇだろ、フツー」

 心底、心配という彼女に彼はつい素直に答えている。

「ほ、ホントに? 絶対? じゃあ消えてたら、真ちゃんもっかいつけてくれる?」

「 ! 」

 至極真面目に要求するとんでもない内容に真は絶句したようだ。要からすれば、ここまで積極的な「彼女」なんて「彼氏」としては幸運だと思うが――彼らの様子からはそう単純な話でもないらしい。

 一人、浮き足たった彼女がルンルンと上機嫌で、前を行く美晴を追いかけ腕にしがみついている。

 天の邪鬼の不機嫌と天然の上機嫌が争えば、勝敗は自ずと知れてくる。


「見て見てっ美晴ちゃん! ココ」

「はぁっ!?」

「真ちゃんがつけてくれたんだって、キスマーク! 見える?」


 真っ赤になった天の邪鬼こと美晴が不機嫌に怒りを露わにして、「見せんな! 恥じらえ!」と吠えた。が、エヘヘとにやけた天然の愛美にはほとんど効力が得られず、というか逆ににやけが増幅したのだから唸るしかない。

 そのまま、四人で神社に赴き、初詣を堪能した。

 それぞれに願い事を神に熱心に祈って、おみくじをひいた。

『 難多し。耐えれば来る。 』

 悲壮な顔をして美晴が要を見上げた。


 大丈夫。そんな顔をしないで僕を信用しなよ。

 ちゃんと君を大事にするし、安全日にしかしてないの……気づいてないのかな?


 気づいてないんだろうな、と微笑んで、彼女の「小吉」と自分の「中吉」を交換する。内容にそれほどの大差はないものの恋愛運においては要がひいたものの方がいくらかマシのように思う。

『 信じよ。さすれば必ず来る。 』

 待ち人の欄に記された言葉に俯いて、美晴はほんの少し頭を動かしてコクリと小さく頷いた。


次の話は、他視点で新年の彼らを見た小話になります。他視点、誰にしようかな……と悩みましたが、この視点しか思い浮かびませんデシタ!

投稿まで、しばらくお待ちください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ