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聖夜-S 告白

 スリスリと擦り寄ってくる幼馴染に、欲望を覚えた。


 それは、初めてのようでいて、ずっと彼女に向けていたものだったのかもしれない。

 ただ。

 見守るだけでは満足できなくなった感情が、欲望になっていく。


 無邪気に笑いかける、君の、その唇に触れたくて――たまらない。




「し、真ちゃん?」

 こういうことに関してはいつも先手を打つほうだった幼なじみで彼女(もう仮は付けない)である志野原愛美〔しのはら いつみ〕が、目を泳がせる。その様子が、あまり見たことのない可愛い仕草だったので、また唇を重ねてしまった。

 してしまってから、(順番が違うだろっ!)と思ったわけだが。

(あー、くそっ……目を閉じるなよ、バカ)

 目の前で瞼をおろした彼女に、苛立ちながらキスは止められなかった。

 重ねるだけの軽いバードキスを繰り返して、瞼をあげた愛美と目を合わせる。

「あのさ、付き合おう。俺たち」

「ふえ?」

 付き合う? と、意味を理解しかねたように首を傾げた。

「フリ、じゃなくて……ちゃんと、っていう意味。わかる?」

「……え? でも」

「嫌なのかよ」

 若干腹立たしくたずねれば、ぶるぶると愛美は首を横に勢いよく振った。

「そ、そんなワケないっ!」

 言って、ハッと息を呑む。何かを合点したみたいにうんうん、と頷いて「わたし付き合う。真ちゃんと付き合いたい」と抱きついてきた。黒いコートを纏った自分の胸に顔を埋めた彼女が、満面の笑みを浮かべて彼を見上げる。

「嬉しい! わたし、夢だったの。初めては 全部 真ちゃんとしたいって」

「 は? 」

 初めて、ねぇ?

 と、訝しく思いながら、眉をひそめる。一体、なんの話だ?

「男の人と付き合うのも、キスも、それ以上も……最初は全部真ちゃんがいいんだもん」

 全部あげるねっ! と嬉々と言い放つ彼女に「はぁぁぁあ?!」と真は動揺した。いきなりの艶めいた生々しい内容にどうしてそういう発想に至るのかついていけない。

(――いや、先に順番を違〔たが〕えたのは俺か?)

 が。

 愛美は愛美で(あれっ? 違うの?)とばかりに見上げている。

「ちゃんと付き合うって、そうじゃないの?」

「違ってないけど、違うっていうか。うん、すぐそういう話にはならないっていうか……あー、俺がキスしたのが悪いんだよな。ごめん、順番間違えた」

「え? いいよー。ファースト・キスが真ちゃんで嬉しい……幸せすぎるよぅ。日記に書いとくね!」

「書くな!」

 えー? と不満そうに唇を突き出す彼女に、真は力なく抱きしめた。頬が熱い。


 脱力しつつも手放せない、その小さく細い華奢な体。


「とりあえず、志野はもっと太ったほうがいいな」

 さわさわ。

 栄養が足りてないとわかる乏しい肉の感触は、触れているだけで切なくなる。ちゃんと恋人として付き合うなら、この辺も口出ししていいよな?

 今までは、気にはなったけれど強くは言えなかったんだ。

 もっと、食べろっ! と。

「あ。抱き心地? そっかそっか、だよねぇ? ガリガリじゃ……当分「おあずけ」かなぁ?」

 残念そうに呟く。

「……何が?」

「ううん、いいの。わたし、太る! 待っててね、真ちゃん」



 ――この時。


 どことなく会話の方向がずれている気はしたけれど、愛美とはよくあること(違和感はあるが、会話は成立している)なので気にしないことにした。だけれども、あとのことを考えればここはもっと突き詰めて話しておくべきだったのだろう。


次回、義兄妹のクリスマス編になります。

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