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ママ(フェンリル)の期待は重すぎる!【Web版】  作者: 人紀
第十二章

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アーロンさんと狩りをする。

 革の鎧と腰に長剣(?)を装備した組合長のアーロンさんと、門から外に出る。


 門番さんの何人かが、白大ネズミ君が現在、近くにいるからと、出ることを控えるように言ってきたけど、「ちょっと様子を見るだけだ」と組合長のアーロンさんは右手を振って答えた。

 門番さん達も強くは言わず「まあ、”赤竜(あかりゅう)殺し”がいれば大丈夫でしょうが……」とか納得した顔をしていた。

 そして、わたしの方に向かって「君も魔法が使えて凄いそうだけど、気をつけてね」って言ってくれた。


 わたしって魔法使いとして認識されてるのかな?

 まあ、間違ってもいないかな?


 そんなことを考えつつ「うん、気をつける」とわたしも手を振って答えた。


 門からすぐの林に向かい歩く。

 ここらの雪は埋まっても、わたしの膝とくるぶしの中間ぐらいまでしかないみたいなので、取りあえずスキー板は使用しないでおく。

 ブーツでカバーできるしね。

 ザクザク雪を踏みしめながら、訊ねる。

「アーロンさん、竜を倒したことあるの?」

 それに対して、組合長のアーロンさんは苦笑する。

赤岩竜(あかいわりゅう)と呼ばれるトカゲだ。

 本物の竜ではない。

 もっとも、巨躯な上、素早く、熱を帯びた体で体当たりをしてくる非常に危険な魔獣だったな」

「強そうだね」

「お前にとってはどうかは分からんが、熟練の猛者ともいえる沢山の冒険者達が、あいつのせいで命を落としていた。

 ……わしも若かったんだろうな。

 だからこそ面白いと、たった一人で挑んだんだ」

「おおおぉ~

 凄いね!」

 わたしの賞賛に、組合長のアーロンさんの苦笑が強くなる。

「誉められたもんじゃない。

 もし、あの時のわしが目の前にいたら、無謀がすぎると、ぶん殴って説教しただろうな。

 実際、当時の領主様に怒られた。

 まあ、領主様が率いる騎兵が助力してくれなかったら、わしも死んでいただろうから、不満は言えんな。

 だから、”赤竜(あかりゅう)殺し”などという二つ名で賞賛されても、苦いだけだ」

「ふ~ん」

「……先々代の領主様はわしのような馬鹿な冒険者のために兵を送って下さった。

 先代の領主様は若いなりに、領が良くなるよう必死に動かれていた」

 そこまで言うと、組合長のアーロンさんは沈痛な顔で黙ってしまった。


 何となく、”なんでこうなってしまったのか?”という声が聞こえた気がした。



 しばらく歩くと、遠くから何かが集団で駆ける気配を感じる。

 左手から出した白いモクモクでわたし達を覆うと、覗き穴を作り、外を観察する。


 む、白大ネズミ君達、こちらに向かって駆けてくるな。


 顔の横に気配を感じ視線を向けると、組合長のアーロンさんが屈みながら、覗き穴を一緒に覗こうとする。

「あ、ごめん。

 わたしの身長に合わせちゃった」

 白いモクモクの高さも組合長のアーロンさんには低すぎたね。

 でも、組合長のアーロンさんは首を横に振る。

「いや、高すぎて目立つのも問題だ。

 このままで良い。

 それより、あいつら、こちらに向かってきてるんだが」

「そうだね、ちょっと横に移動しようか」

 白いモクモクでそのまま覆ったまま、白大ネズミ君の進路上からずれる。

 組合長のアーロンさんが訊ねてくる。

「大丈夫なのか?

 隠れていても、すぐそばを通ると、匂いでばれてしまうと思うんだが……」

「ん?

 大丈夫だよ?

 冬の白大ネズミ君は匂いには鈍感だから」

「そうなのか?」

「うん」


 冬以外だと、匂いで獲物を追いかける白大ネズミ君だけど、不思議なことに雪が積もり、集団で行動するようになると、それを完全に無視するかのように動く。


「耳と目――特に耳かな。

 多分、わたし達の雪を踏む音を聞きつけ、やってきたんだと思う」

「そうなのか?

 そうすると、倒す時も静かにしないといけないな」

「ううん。

 気にしてるのは前方の音だけみたい。

 多分、後ろは仲間の足音がうるさくて気にしていないのだと思う」

「なるほどな」


 そうしている内に近づいてきたので、わたし達は姿勢をさらに低くしつつ、白いモクモクの中で静かにする。


 白いモクモクの脇を幾本もの足が雪を踏みしめ駆けていく。

 それを小さな覗き穴で確認しつつ、最後尾を待つ。

 ん?

 彼らかな?

 右手から出した白いモクモクを前回同様、地面の雪に同化させるように進め――九匹ほどをひっかける。


 よし、転んだ。


 覆っていた白いモクモクを消すと、組合長のアーロンさんが雪の上を見事に駆ける。

 靴に細工があるのかな?

 転がっている白大ネズミ君の手前まで行くと、抜剣して振るう。

 二匹のネズミ君の首から鮮血が舞う。


 なんか、いかにも剣士って感じで格好いい!


 そんなことを思いつつ、わたしは他のネズミ君を左手から出した白いモクモクを網状にして捕まえる。

 あ、一匹逃した!

 そのネズミ君はアーロンさんに襲いかかる。

 向かい討つアーロンさんが剣を振るう。

「くっ!」

 剣はネズミ君の顔面に当たり、折れちゃった!

 負傷しつつもまだ動けるネズミ君は、アーロンさんに襲いかかろうとして――それを右手で出した白いモクモクで押さえ込む。


 ちょっと、ドキリとしてしまった。


 当の組合長のアーロンさんは苦笑しつつ、折れた剣を鞘に収めた。

「ありがとうな、助かった。

 やはり、腕がさび付いてしまっているらしい」

 そして、「昔の愛剣なら、これぐらいで折れなかっただろうが……」などと、ちょっと悔しそうにする。


 押さえ込んでいる白大ネズミ君達が「キュー! キュー!」と騒ぎ立て始めた。


 その声で、また集団が戻ってこられるとやっかいなので、わたしがトドメを刺そうとするも、組合長のアーロンさんがそれを止める。

「できれば、わしがやっておきたい」

「でも、剣が折れちゃったし」

「それでも、お前が討伐した”事実”は、極力減らしたい」

 別に組合長のアーロンさんが倒したことにすれば良いとも思ったけど、”真偽の魔術石”の事があるので、トドメだけでもやっておきたいとのことだった。


 ああ、わたしが町に入った時にやった、嘘発見機みたいな奴ね。


 組合長のアーロンさんが腰に付けていた短刀を抜いて、白大ネズミ君に近づく。

 う~ん、その短刀の刃渡りだと、白大ネズミ君の無駄に分厚い首を切るのは厳しいんじゃないかな?

「ちょっと待って!」

と組合長のアーロンさんを止めて、右手で押さえた白大ネズミ君を、左手で作った白いモクモク網に押し込む。

 そして、右手から再度出した白いモクモクを日本刀の形にして、組合長のアーロンさんに差し出す。

 驚いた顔のアーロンさん「そういえば、武器も作れるんだったな」と呟きつつ、その柄を掴む。

「わたしの右手と繋がっていないといけないけど、どうかな?」

「ふむ、片刃か……」

 少し、日本刀型白いモクモクを眺めていた組合長のアーロンさん、白大ネズミ君に近づくと、紐付きの刀にもかかわらず器用に振るう。

 あっという間に、七匹のネズミ君にトドメを刺した。

「良いな、この剣」

と嬉しそうにしてるけど、ごめんね。

 わたしから離れると消えちゃうから、上げる事は出来ないからね。


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