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ママ(フェンリル)の期待は重すぎる!【Web版】  作者: 人紀
第九章

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賢い女の子ヒロインコンテストに応募する!?

 朝!

 起きた!

 ベッドからするりと抜け出て、いつものように寝間着から着替える。

 そして、部屋を出るといつものようにケルちゃんが近寄ってくるので抱きしめ――「うぉりゃ!」と抱え上げた。

 ガゥ!? ガウガウ!? とレフちゃん、センちゃんが驚きの声を上げた。


 ふふふ、ごめんね!


 今朝は気持ちが高ぶっているので、なんだかモフモフなケルちゃんを持ち上げたくなったのだ!(?)

 ところで、ライちゃんは声を上げなかったけど、彼女は動じない子なのかな?

 などと思いつつ下ろすと、寝ぼけた感じでキョロキョロと辺りを見ていた。


 なんだか可愛い!

 ぎゅっと抱きしめて上げた。


 気持ちが高ぶっている理由――それは、今日が久しぶりの狩の日だからだ。

 なんか、町への移動中とかに突っかかってきたのをやっつけてとかはあったけど、獲物を求めて行動するのは久しぶりになる。

 なんだろう、ママ達と一緒に暮らしている時は正直、億劫だったんだけど、なんやかんや言ってフェンリル(ママ)の娘だからかな?

 やってやるぞぉぉぉ! って気分が盛り上がっている。

 シルク婦人さんから駕籠と壷を受け取り、妖精メイドのサクラちゃんを肩に乗せ、外に出る。


 うむ、晴天なり。


『やるぞぉぉぉ!』

 うぁおぉぉぉん!

と吠えると、妖精メイドのサクラちゃんがビックリして、肩から落っこちそうになってた。

「ごめんごめん!」って慌てて謝るも、プリプリ怒って、わたしの頬をちっちゃい手でペチペチ叩いてきた。


 申し訳ないけど、可愛い!


 飼育小屋に入ると、スライムのルルリンがスルスル近づいてきた。

 手を差し伸べると、その上に乗り、腕の半ばほどまでスルスルと上ってくる。


 可愛い!


 しかし、ルルリンらスライム君達の頑張りのお陰か、小屋の中は臭くないし、清潔そうだ。

 赤鶏さん達も山羊ちゃん達も居心地良さげにしている。

 うむ、ありがとう!

 腕にくっついているスライムのルルリンを撫でると、ボヨンボヨンと揺れた。


 可愛いし、さわり心地が良い!


 手早く、卵や乳を頂き、ルルリンを下ろして家に戻る。

 シルク婦人さんに指定されたものを食料庫から取ってきたり、パンを作ったり、朝御飯を食べたりする。

 そして、イメルダちゃんと物作り妖精のおじいちゃん達から、今日の改築予定を確認した後、外に出る。


 荷車を引っ張り出して、さあ出発だ!


 イメルダちゃん達や妖精ちゃん達に手を振り()を出る。

 楽しい、楽しい、狩のお時間だ!


 とは言っても、わたしはバカではない。

 伊達にWeb小説()を読み込んではいないのだ。


 頑張りすぎて山積みの獲物を持ち込み、皆にどん引きされたり、ギルド長とかに「やりすぎだ、馬鹿者!」などと怒られたりはしない。


 きちんと目立たないようにする!

 そう、目立たないようにするのだ!


 ヴェロニカお母さんに言われなくても分かっている。

 わたしだって、変な貴族に絡まれたくなんてないのだ!

 では、どうすれば良いのか?


 答えは簡単、組合長のアーロンさんの言う通りにすればよいのだ!


 ただ、言う通りにすればよいのではない。

 狩の場所や時間、そして、頭数まで細かく指示を貰い、それを淡々とこなす。


 つまり、忠実なる狩猟犬になればよいのだ!


 フェンリルの娘だから、狩猟狼かな?


 とにかく、言われたことを黙々とこなす。

 言われた以上は行わない。

 それである!

 それについては、赤鷲の団との打ち合わせ後に、組合長のアーロンさんに相談して「そのほうが良いだろう」と了承を得ている。


 ふふふ。

 わたしって、ある意味で言えば、数いる”俺、強えぇぇぇ!”系主人公より優秀じゃないかな?


 皆が求めていることをただこなす。

 内には、まだまだ強力な力が眠っているけど、それを使うことなく正しい選択をする。

 つまり、”わたし、強えぇぇぇ! だけど、賢いので、強えぇぇぇ! を見せません!”って主人公なのだ!

 あれ?


 これ、前世で小説にしたら、受けたんじゃないかな?


 たしか、”賢い女の子ヒロイン”コンテストとか、どこかのサイトでやっていたから、わたしを主人公にしたら受賞できるんじゃないかな!?

 思いついたのが、転生後であることが悔やまれる!

 などと、考えながら森を駆け、川を越え、草原に着くと、当然のように白狼君達が併走してきた。


 ……。


『君たち、わたしに付いてきて、食事にありつこうとするの、いい加減止めなさい!』

 ガウガウガウ! と言うも、白狼君リーダーは、こちらを横目で見つつ、”お気になさらず”と言うように、がう! と吠えた。


 いやいやいや、そうじゃなくてね。


『獲物は自分たちで穫るものでしょう!

 それに、今日は狩の日だから、君たちにお肉は上げられないの!』

 そこまではっきり言うと、白狼君リーダーはこちらに顔を向け、頷いてみせる。

 そして、がう! と吠えた。

 すると、併走していた白狼君が加速し、前方に散っていく。


 え!?

 あの子達、速い!

 まさに、白い疾風のごとくだ。


 わたしの荷車を引いた速度に付いてくるのが精一杯だと思っていたけど……。

 少々、あの子達を侮っていたかも。


 単純に駆ける速度なら、ひょっとすると、わたしと同等ぐらいなのかもしれない。


 まあ、何にしてもあの脚力なら、狩りが全く出来ないって訳でもないだろうし、大丈夫でしょう!

 などと安心しつつ走っていると、なにやらこちらに向かって来る気配を感じた。


 え?

 何?


 前方から四つの土煙を上げて、何かが突っ込んでくる。

 目を凝らすと、魔獣のようで、左から、弱水牛君、大襟巻き蜥蜴君、インコ頭ダチョウ君、マンモス君だった。

 皆が三から十の集団で、しかも、皆がなにやら、カンカンに怒っている!?

 っていうか、彼らの前に走るのは、白狼君で、なにやら皆、”連れてきましたよ、ご主人様ぁぁぁ!”って誉めて欲しそうな狩猟犬のような顔でこっちに向かってきてるし!

『何やってるの!?

 この子達ぃぃぃ!』

 うぁうぁうぁおぉぉぉん! と絶叫を上げるわたしの元に、四集団が突っ込んでくるのだった。


――


「ひ、一人で巨大な毛長魔象(けながまぞう)を三頭って、どうやって倒したんだ!?

 運ぶのにすら三十人は必要な魔獣だぞ!」

「毛長魔象だけじゃないわ!

 大鎧牛(おおよろいうし)だって、上位の冒険者でもなかなか倒せないわよ!

 それを、五頭も!」

「毒を持つ大襟長毒蜥蜴おおえりながどくとかげや、恐るべき脚力と凶悪な蹴りで恐れられる俊足魔鳥(しゅんそくまちょう)だって特級の魔獣なのに……。

 それをそれぞれ、八匹と十羽……。

 凄まじいな……」

 冒険者組合が作った臨時基地にて……。

 わたしが持ってきた獲物を前に、どん引きする解体所の人たち、そして、お約束というかなんというか、組合長のアーロンさんが顔を真っ赤にしながら怒鳴った。

「やりすぎだ、馬鹿者ぉぉぉ!」

「ち、違うの!

 わたしが悪いんじゃないの!

 白狼君達が勝手に獲物を集めて来ちゃって!」


 因みに、倒した獲物は一頭も上げなかった。


 甘やかしてはいけないと思ったからだ。

 なのでと言うべきか、多すぎるからと放置も出来ず、荷車に乗らない分(大半)は白いモクモクを地面に引き、その上に乗せ、えっちらおっちら押してきたのだ。

 ……とはいえ、血抜きと同時にやった除去した内臓は、仕方がないので上げた。

 それでも、結構な量になり、一族皆を呼んで食べていたから、あんまり意味がなかったかもしれない。

「はぁん!?

 どういう言い訳――白狼君?」

「え~っと、白魔狼(しろまおおかみ)だっけ、その子達に懐かれてて、狩をすると言ったら、勝手に獲物をね」

 説明をしていると、組合長のアーロンさんが「あああぁ~」と頭を抱えてしまった。

 そして、「白魔狼(それ)の事は口外するな!」と小さい声で怒鳴るという器用なことをする。

白魔狼(それ)の毛皮は貴族の間では超高級品として、昔からもてはやされている。

 知られたらろくな事にはならないぞ!」

「そ、そうなの!?」

「平民の命が石っころに見えるくらいにはな」

 恐っ!

「逆に言えば、大金持ちになれる好機でもあるが……」

「無理無理!」

と首をブンブン横に振る。

 困った子達だけど、ここまでかかわり合いになった子達の毛皮を得ようとは思わない。

 わたしの様子に、組合長のアーロンさんは頷く。

「しかし、お前は知れば知るほど、問題になりそうなことが湧いてくるな。

 正直、落ち着くまでは、町から離れた場所で大人しくして貰うのが穏当なんだろうが……」

とおじいちゃんな組合長は困った顔をする。


 本当は、赤鷲の団団長のライアンさんの作戦にも参加しない方が良いとのことだった。


「止めておく?」

と訊ねると、組合長のアーロンさんは一つため息を吐いた。

「若いライアン達が町のために自ら動いてくれたんだ。

 それに水を差すことは、正直したくない。

 補助はするので、出来ればお前にも参加して欲しい。

 だが、ちょっとでも変な奴に声をかけられたり、怪しい雰囲気になったら、わしに知らせてくれ」

「うん」

「あと、くれぐれも目立たぬように。

 わしの言う通りに動くんじゃなかったのか?」

「ううう……。

 ごめんなさい」

「明日からは気をつけてくれ」

「うん」

 はぁ~

 ”賢い女の子ヒロイン”コンテストには参加できそうにないや。

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