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57 アタシのテオドール


時の神が新しい加護を持つ存在を呼ぶ。

そのお告げを聞いて、アタシは加護持ちと出会うのは初めてだったから、ちょっと緊張しながら、時の神に告げられた場所へ向かった。


……そうしたら、すごく綺麗な男の子がいた。その男の子の名前はテオドール。前の世界の名前も聞いたけど、すごく難しい名前でもう覚えていない。


テオドールはまだ幼いのに、この世界での知識や生活の仕方をどんどん覚えていった。……あんまり早いと、アタシと過ごす時間が短くなるから、ちょっぴり遅く教えたりもした。


アタシは、もう何も教える事がなくなった時にテオドールに想いを伝えた。そうしたら、彼も好きだって言ってくれた!嬉しい、本当に嬉しかった!時の神を祀るエドラス国にも、着いてきてほしいと言ってくれた。アタシは何度も頷いて大好きな人に抱きついた。陽だまりの匂いがして、この匂いをずっと感じれる事が出来ることに、幸せで胸がいっぱいになった。




だけど、エドラス国はテオドールと私を幽閉して、道具の様に扱った。



魔法の使いすぎてフラつけば殴られ、魔法を失敗すれば鞭を打たれる。毎日毎日、王族と貴族、そして国の為に私たちは働かされた。魔法で逃げない為に、必要時以外は魔術で作られた檻へ入れられた。


唯一の幸せは、毎晩テオドールと一緒に寝れる事だった。もう陽だまりじゃなくて、湿った土と血の匂いしかしなかったけど、それでも幸せだった。テオドールさえ居てくれれば、どんな事でも耐えれると思った。


そうして10年の月日が過ぎて、テオドールは時の神の生贄として魔術の対価になった。


見せ物の様に、貴族と王に囲まれて魔法陣の真ん中に倒れているテオドールを。周りの嘲笑いと興奮を。私は口を縛られて魔法を唱えられず、ただ見る事しか出来なかった。私は天を見て、時の神ランドールへ願う。


……ああ、神様!お願いだから答えないでください!お願いだからテオドールを助けてください!私はどうなってもいい、だから私から愛する人を奪わないでください!!


その時、周りの大きな興奮の声に私は天を見るのを辞めた。

目の前にはテオドールがいる。良かった、やっぱり神様は彼を見捨てていなかったんだ!神様は私達を見てくれていたんだ!!





けれど、ソレは私の知っているテオドールじゃなかった。










◆◆◆







俺は国を滅ぼした代償として世界から、神としての記憶を封じられ「時の神の加護を持つ、不老不死テオドール」となった。これまでの記憶は本物のテオドールの記憶を受け継ぎ、そして俺は自分が神である事を忘れた。


神として何千年と生きるのと、人間として生きるのは全く違う。人間となった俺は、自分だけ取り残されている淋しさを埋める様に、テオドールの顔に寄ってきた女を抱いた。その時だけ自分を求められる嬉しさに、自分が存在してもいいと思える心地よさに溺れた。だけど、それでも足りなくて、俺は不老不死でも死ねる方法を探した……まるで、亡霊の様に俺は生きた。


……そんな途方もない旅をして、俺が人間となって150年後。

俺の目の前に、マヨイが現れた。









俺は、倒れるマヨイを抱き寄せる。自分に刺さる剣の痛みも忘れて、杖を引き抜き呪文を唱える。でもマヨイは目を覚さない。獣人の男は剣を地面に落とし、呆然とこちらを見ている。ルカは嬉しそうに笑い声をあげている。……俺は、マヨイの頬に触れる。


「……なぁ、起きてくれよ」


段々と頬に温かさがなくなっていく。俺の視界は段々とぼやけて、自分が泣いているのを知る。


「なぁ、マヨイ」


もう一度、絞り出すように声を出す。


毎日俺を一番見てくれるんじゃなかったのか?

毎日好きだって言ってくれるんじゃなかったのか?

程々に俺に抱かれるんじゃなかったのか?



その直後、すぐ隣の壁が金色の光で抉られるように消滅していく。ルカは後ろへ下がりその光を避け、その光を出した存在を睨む。


「テオドール!」


瓦礫を踏みながらハリエドの聖女王がこちらを見る。そして俺に抱き寄せられている、息のないマヨイを見て固まる。

後ろから同じくやって来た三人も、俺とマヨイの姿を見て目を見張り、ゲドナ姫は真っ青になりながら駆け寄り治癒魔法を掛けようとして、それが必要ない事を理解して手が震えている。男二人も下を向き、ヨゼフは手に拳を作る。


「………マヨイ」


アレンは呆然とこちらを見たまま、目から涙を流した。



だが、聖女王だけは違った。暫くすると歩き出しルカへ弓を向ける。


「……厄災を倒すよ」

「………何、言って」

「早く目の前の魔物を倒そうって、言ってんの」


平然と述べる聖女王に全員が驚く。俺はマヨイを持つ手を強め、血を吐きながら聖女王を睨む。


「マヨイが死んだのに!!テメェは何も思わねぇのかよ!?友人だったんだろ!?」


聖女王の背中に怒声を放ち、俺は嗚咽を抑えられずにそれを吐き出す。聖女王はこちらを見ないまま、けれど弓を持つ指を震わせて、大きく息を吸う。


「思わないわけないだろ!?私の友達が!!助けようとした友達が死んでるんだよ!?」


震える指で弦を持ち、目の前のルカに向かって狙いを定める。


「それでもねぇ!?私はお前も友達だと思ってるんだよ!!これ以上!これ以上私は誰も失いたくない!!………だからっ、だから……だから……っ」


震える後ろ姿のまま、聖女王は狙いを定める。

最初に動いたのはアレンだった。地面に落ちた剣を掴み、聖女王の隣で同じくルカを睨み構える。マヨイのそばで打ちひしがれていたキルアは目に光を戻し、顔を腕で拭い、立ち上がり大剣を構える。ユヴァの若造は小さく舌打ちをして、坊主は唇を噛んで魔物を見る。……皆目の前のルカに向かって、立っている。


俺は、自分よりも弱い人間達に、何をさせているんだろう。

マヨイを失った悲しみを、どうしてこの人間達は乗り越えれるんだろう。

……違う、この人間達は、乗り越えなければと必死なのだ。



……人間は、どうしてこうも、輝いて見えるんだろう。




加護持ち四人に囲まれたルカは、声を出して心底楽しそうに笑う。そのまま恍惚とした表情を天に向け、天を撫でるように手を上に翳す。


「テオドール!見てる!?アタシやったよ!!やっと時の神に復讐ができたの!!」


その狂気さに、周りには緊張感が高まる。


「まだ終わらない!国も!この世界も!!貴方を苦しめたものを全て殺してあげる!!」


ルカは天へ叫び、身体中から黒いモヤを出し、周りにいる死体へ移していく。死体はそのモヤに反応するように動き出し、悲痛な声を出しながら立ち上がる。その光景にユヴァの若造は大きくため息を吐いた。


「魔物って、個人の恨みとかで出来るんじゃなかったっけ?」

「多分、あの魔物の強い憎しみが、周りにも反応して魔物になってるのかも。……規格外すぎん?」


坊主は首を掻きながら苦笑いを浮かべる。それにゲドナ姫は鼻を啜りながら剣を強く握りしめる。


「それでも、やるしかありませんわ」

「ああ、マヨイの為にもな」


アレンは少し表情を歪ませながら、闘志を持ち剣を強く握る。


……全てを見た聖女王は、大きく深呼吸をする。



「………うん、皆で帰ろう」




ルカは目の前の光景に、大きく舌打ちをしながら歪んだ表情を浮かべる。黒いモヤが側にある動いていない死体達から、何本もの剣を飲み込んでいく。


「テオドールとお前らの!何が違う!?何でお前らは幸せで!テオドールはどうして苦しまなきゃいけなかったの!?」


そのままモヤに取り込まれた剣達は、宙に浮き真っ直ぐこちらへ向く。


「どうして私達は!!幸せになれなかったの!?」


その言葉と共に、剣はこちらへ、まるで矢の様に向かってくる。周りの奴らは咄嗟に防御魔法を張ったり剣で弾いたりしているが、俺はどうにも先ほどの魔法で、ただでさえ心臓に刺さる剣のおかげで体が動かないのだ。そのままこちらへ向かってくる錆びた剣を受け入れようと、マヨイに当たらない様に抱きしめる。……不老不死の癖に、痛覚は残っているこの体を恨んだ。





その瞬間、俺の体を押す力に後ろへ倒れる。

向かってきた剣は、もう既に刺さっているはずなのに痛みがない。……その剣は、小さな手によって掴まれて寸前で止められていた。


「いたた!……流石に、飛んでくる剣を掴むのは痛いな」

「………………」

「服もボロボロだ、うわー……お気に入りだったのに」


あり得ない。目の前で痛そうに顔を歪める娘は、剣を床に放り投げる。



俺は、目の前の娘を、愛おしい女の名前を小さく呟く。



「……………マヨイ」



マヨイはこちらを見て、冷たい息を吐きながら変わらない笑顔を向ける。


「ただいま、テオドール」




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