表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
55/61

54 猫は笑う


王国騎士団が全員呼ばれ、マギー宰相によりサヴィリエ国に最大警戒体制がしばらく敷かれる事になった。


なんでもハリエド国の聖女王が、世界の一大事を予言の神より授かったらしい。宰相が言うには、世界の危機を救うには、先日この国へ来ていた加護持ちの二人を助ける必要があるそうで、他国の魔法使いと協力し二人を救う為、しばらく宰相は留守にするらしい。それを聞いてその加護持ちと知り合いらしいガラード騎士団長は顔色を変えていた。


国で唯一の加護持ちがいなくなるため、俺達はしばらく宿舎に缶詰になり国を支える事になる。家からしばらくの間の荷物をまとめて持ってくる様に命令を受けた。……俺はガキの頃に両親とも事故で亡くしてから、ほぼ荷物置き場となっている実家へバイクを走らせている。


「……予言ねぇ」


神々から加護を得た存在は、神に愛された精霊よりも強い魔法を放つことができる。その為に加護を得た存在は、王族に嫁いだり、この国の宰相の様に役職を得て、それぞれの加護を得た彫られた神に従い国の守護神になる。……ただ、他国の魔法使いに命令を受けている様で、今回の命令はいささか気分は良くない。



俺は実家の前にバイクを停めて、ズボンのポケットから鍵を取り出し開けようとした。……が、何故か鍵が開いている。最近実家に帰った記憶もない。


俺は生唾を飲み込み、護身用に持っている短剣を持ちゆっくりと扉を開く。



「なっ!?」


その部屋の中の光景に俺は目を見張った。そこかしこの床に、時間が経過したであろう黒く変色した血がつけられている。俺は他の部屋も急いで確認すると、両親の寝室だった部屋の、ベッドの上で負傷したのだろう。特に濃く血がこびりついており、壁にも何かが打ち付けられた跡がある。自分が知らない間に、誰かがここで傷を受けた。俺はシーツにこびりつく血を指で触る。



《 れ、恋愛とか、よく分からなくて……… 》

「っ、」


それと同時に、脳裏に焼け付くように女の声が聞こえる。思わずふらついてしまうが、その時に床の血が階段へ続いている事に気づいた。……この頭に響く声の正体が分かるかもしない。そう思い俺は二階へ歩き出す。


この血の主は、かなりの深手を負ったのか、階段のそこかしこに血の跡がある。二階へ向かうほどに頭痛は酷くなり、思わず顔を歪めてしまう。


ようやく二階へ着くと、倉庫として使っていた為置かれていた家具が、一部砕けている。


《 アレン……アレン…… 》

「っ、何なんだよこの声は!!!」


俺はあまりの痛みと、胸が苦しくなる女の声に壁にもたれかかる。




……その時、この床の上で俺は、誰かを傷つけてしまった様な気がした。




《 んだとコラァ!!じゃじゃ馬じゃなくて  だ堅物!! 》

《 マギーさんにさっき教えてもらったんだ、綺麗でしょ? 》

《 この中で魔法をかけよう!さぁさぁ入って入って! 》

《 ど、どうしようアレン、どれも魅力的すぎて選べない 》

《 おはよう!アレン! 》




一気に襲い掛かる、記憶にない想い出。俺は床に倒れ呻き声を上げる。

俺はこの声の女を知っている。この女と過ごしていた。



「っ、くそ、思い出せ!思い出せよ!!!」



床に頭を打ち付けて、胸が苦しくなるこの記憶を想い出そうとする。どうして思い出せないんだ、こんなにも俺は、この女を想っていたのに。



その時、部屋の隅に何かが落ちているのに気づいた。俺はゆっくりと起き上がり、それを拾う。……それは、シルバーのネックレスだった。確か両親から貰ったものだった様な気がするが、どこかでなくしたっきりだった。






それを見た時、俺は神から加護を得た、黒髪の少女を思い出した。






「好きな人を助けたいのに、理由いるの?」





どうして彼女を忘れていたんだろう。

俺を救ってくれた、あの優しい彼女を。


頬に涙が伝い、俺は恋焦がれた彼女の名前を呟く。







「…………マヨイ」










◆◆◆







私はテオドールを庇い剣が振り落とされるのを目を瞑って待つ。……けれどその時、ルカの剣を受け止める音が聞こえた。


思わず目を開けると、目の前に黒い騎士団服を着る、茶褐色の猫の獣人がルカの剣を自分の持つ剣で受け止めていた。……あり得ない、これは夢だ。その獣人がいきなり現れた事に怯んだルカは、獣人に強く蹴り飛ばされた。


「う”ッ!!!!」


ルカは苦しそうに顔を歪めながら後ろへ下がる。目の前の獣人は、深呼吸をしながら剣を再び構える。


「コイツに何しやがるんだ、クソ女」



私はその声を知っている、この獣人を知っている。声を出そうにも、どうしようもなく涙が溢れて喉に詰まる。


私の嗚咽に耳を動かした獣人は振り向き、優しく笑う。



「……マヨイ、遅れてごめんな」


私は、大好きな友人を涙でぼやける視界で見つめた。


「アレン!!!」




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ