ネロ、新しいボディを手に入れる1
マザーシップを撃破したと言う大戦果を作り上げた俺は、メール通知をOFFにしてネロと一緒に自室で引き篭もっていた。
最初は非常に心地良かった。軍や大企業からの勧誘に、他の傭兵グループからの勧誘。更にファンレターらしき物も送られて来る。そして兵器販売企業からは試作武器や試作AWなどの紹介カタログも来ていた。
だが正直に言おう。かなり多くて、四六時中端末から通知が来る。更に言うなら悪質な商品の押し売りや詐欺同然のメールまで来る始末。このSFの世界に於いても嫌がらせや詐欺グループは健在である。
基本的にスマイルドッグや傭兵ギルドを通じて連絡は来るのだが、どうやら動画投稿している場所からも来ているらしい。
因みに惑星ソラリス防衛戦とマザーシップ戦の動画投稿は問題無かった。寧ろ良い証拠品として三大国家がコピーしたくらいだった。
マザーシップに関しても当初は戒厳令が出されたのだが惑星一つ分の犠牲者、つまり約六千万人以上の死者を隠蔽する事は出来る筈も無かった。更にマザーシップ戦に関しても某掲示板から出た無謀な馬鹿共が動画を投稿。瞬く間に世間様に認知されてしまった訳だ。
因みに余談だが、俺の数少なかったチャンネル登録者数は爆発的に増えた。勿論初期の頃から付き合ってくれてる連中だけは既にお気に入りに登録しているのは言うまでも無いがな。
なので当初から購入を検討していた高速大型輸送艇とネロの新しいアンドロイドボディを探している訳だ。
しかし、此処で一つの問題にぶつかる。それは何かと言うと。
「最新型の価格がガチでヤベェ件について。てか、マジでこんな値段すんの?」
最新型万能アンドロイドボディの価格を調べてたら目ん玉飛び出る価格帯になってビビってるのだ。例えるならオーレムの群を前にした時以上に心臓がバクバクしてると言っても過言では無い。
そもそも俺は傭兵企業スマイルドッグに入る前はフリーの傭兵だった。その間に地球連邦統一の正規市民にもなった訳だ。お陰で傭兵ギルドで地球連邦統一からの依頼を受ければ依頼受注時の税金は半分が免除。更に宙賊や賞金首を狩れば報償金が上乗せされる。
勿論コレは地球連邦統一領内のみでしか効果は無い。ガルディア帝国と自由惑星共和国で同じ事をやっても意味は無い。
それにフリーの立場だと仲介料は傭兵ギルドだけなので結構貯め易いのだ。勿論企業やグループに入った方が大規模な依頼が受けれる可能性は高い。
後は稀に指名手配されてる賞金首の中には一つ百万〜五百万クレジットはするもある。デメリットはデカいがメリットもデカいのも事実だ。
「後何やってたっけ?戦果を高値で売ったり、傭兵ギルドからAWやMWレンタルして出費を抑えて貯金しまくってたもんなぁ。あの時は周りの傭兵が持ってた自機って奴が羨ましかったっけ?」
維持費が〜とか新しいジェネレーター〜とかの会話を聞くたびに羨ましいと思っていた。しかし節約しながら貯金した結果、今現在の貯蓄は二億三千万クレジットに昇る。特に此処最近では一千万クレジットが二連続と臨時報酬が手に入ったのが大きい。
まあ一つは諸事情で半額になったけどな。これに関しては何一つ問題は無いとだけ言っておく。
「しかし、本来なら高速大型輸送艇だけ買う予定だったもんなぁ」
高速大型輸送艇の最新型の価格は二億二千万クレジット。
此処で一つ説明すると、高速大型輸送艇と大型輸送艇の違いは一つだけ。ワープ航行が出来るか出来ないかだけだ。
ワープ航行が無い大型輸送艇なら凡そ二千万クレジットで済む。そして各箇所に設置されてるワープホール装置を使って遠くへ移動するのが基本だ。
だがこれには時間指定もあるし手数料は取られる。何より何かしらの問題が有った場合、かなりの時間が拘束されるだろう。
そう言ったのを回避したければ高速大型輸送艇を買うべきなのだ。現に大企業や大手傭兵企業などは殆どの艦艇にワープ航行装置が搭載されている。
因みに駆逐艦やフリゲート艦は五億〜十億クレジットはする。この価格の違いはワープ航行装置の標準装備の他に装甲厚、武装、エネルギーシールドなどが含まれてる。高速大型輸送艇もワープ航行装置を搭載するに辺り出力の高いジェネレーターが搭載しているが、流石に軍用には勝てる筈も無いのだ。
それでも普通の輸送艇に比べれば高いジェネレーター出力が有るので武装はマシなのが搭載出来るのは間違い無い。
「前世の艦艇の価格は幾らくらいしたっけ?何百億〜何千億だっけ?やっぱり宇宙進出後の生産数は半端ねえな。お陰で成金クラスなら軍用艦艇が手に入るし」
時々最新型の軍用艦艇を購入しましたの動画が投稿がある。そんな事する程金に余裕があるのは羨ましいものだね。
だが問題は次にある。先程も言ったが最新型の万能型アンドロイドボディを調べた結果驚くべき価格なのが分かった。
ズバリ、お値段はお値打ち価格で一億五千万クレジットなり。
いや、全然お値打ちじゃねーよ。寧ろ買えねーよ。
しかし、この価格には理由がある。万能型アンドロイドボディは需要はあるが量産向きでは無い。どちらかと言えばオーダーメイドになる。因みにこの値段は万能型アンドロイドとして出来る限りの装置を取り付けた場合だ。
勿論アンドロイドボディにも安いのはある。戦闘特化型、家事特化型が良い例だろう。何方かに特化させる形ならオーダーメイドに使う部品の量は減る。そうすれば部品や外骨格は規格内の物が使える。勿論ある程度は指定する事は出来るが大した量では無い。
しかし万能型はその両方を可能とした物であり、必然的にオーダーメイドで無ければ購入者が不満を持ってしまう。そうすると部品一つから製造して集めなければならないので輸送費は勿論、製造費も掛かると言う訳だ。更に言うなら維持費も掛かる事も追加しておこう。
また擬似有機製体を使用する事を前提とすれば、戦闘用に改造する事も踏まえれば価格は更に跳ね上がる。
科学が発達しようとも、変えようが無い場所は有る。そう言う事だ。
なので色々悩みながら調べてはいるのだが……。
「…………」チラッ
端末タブレット越しにネロちゃんをチラ見する。ネロちゃんは此方に視線を向けながら充電器に置かれている。勿論センサー部分は常に点滅してる状態だ。
恐らくネロには俺が万能型アンドロイドボディを探している事は既にバレているだろう。何故ならよくネロに「ネロ、照明を切ってくれ」とか「ネロ、最近出た人気歌手の曲を頼む」とか頼んでるからな。
(ネロちゃん。今はA○ex○みたいに家電や端末タブレットに接続しなくて良いんだよ?てか、便利道具扱いしてちょっとごめん)
今のネロを見て誰が戦闘補助AIだと分かるだろうか?いや分かるまい。でも便利機能が出来ちゃったんだもん。使うしか無いじゃん?
「あぁ、こうやって人は文明の豚へと成り下がるんだろうなぁ。なら俺は文明の豚として堕落しようでは無いか」
下らない事を言いながらも万能型アンドロイドボディの作成サイトに入る。え?中古を探さないのかって?まさか。折角相棒に初めて何かを買い与えるんだ。中古とかだと盛り上がらないだろ。
「取り敢えず装備一式は置いといて。外見をどうするかだよなぁ」
取り敢えず値段や搭載装備は一旦置いといて外見のメイキングに移動する。
(始めに黒髪に少し赤みが掛かった感じにして、それでボブカットにするだろ。瞳は赤色でタレ目にして後は全体的に幸薄い雰囲気に……)
黙々と好みの外見を作って行く。そして出来き上がったのはレイナそっくりさんになってしまい直ぐに消去した。
「畜生!レイナの生写しじゃねえんだぞ!俺は何時もそうだ!男の癖に女々しくなりやがって!」
俺は自身を罵倒しながら布団の中に潜り込む。
「まるで俺の人生そのものだ!何が未来を見ているだ!何時迄も過去にしがみ付いてる!」
更に身体を丸めて耳を塞ぐ。そして暫く布団の中でもぞもぞしてふと気が付く。
「……俺、何やってんだろ?」
冷静になると如何に馬鹿馬鹿しい事をしていたのかが分かる。だがこの光景はネロしか知らない。
「一服するか。ネロ、ちょっと行ってくるわ」
「了解しました。マスター、無理はしなくても私は今のままでも大丈夫ですよ」
「遠慮すんなよ。お前はよくやってくれてる。それに、これからもお世話になるだろうからな。先行投資って奴だよ」
「分かりました。では楽しみに待っています」
「おう。期待して待ってろよ」
俺は飲み物を買う為に自販機へ向かう。しかし道中でナナイ曹長とアズサ曹長に出会う。
「あ!先輩お疲れ様ッス!今から何処に行くんスか?」
「お疲れ様です。キサラギ少尉」
「おう、お疲れさん。今から自販機で一服しようとしてな。お前らは?」
「自分達もス。今は皆暇ッスからね」
「当たり前だ。マザーシップと戦ってまだ一週間だぞ。直ぐに次行く訳ねえだろ。色々整理しないと行けない奴とか居るし」
あのマザーシップ戦を生き抜いた俺達作戦参加者達の殆どの連中の階級が一つ上がっていた。
「しかし貴方も物好きですね。まさか翡翠瞳の姉妹に成功報酬の半分を渡すなんて」
「別に良いだろ。あの百合姉妹の成功報酬は無しって聞いたし」
そう百合姉妹ことエヴァット姉妹にマザーシップ撃破に対する成功報酬は無しと聞いたのだ。正確に言うなら成功報酬を辞退したらしい。何でも自分達は途中離脱したから受け取る権利は無いとか。
それを聞いて馬鹿だなと思った。折角相手がくれると言うんだから貰っとけば良かった物をと。だから傭兵ギルド経由でエヴァット姉妹宛に五百万クレジットを送金。一応一言だけ入れてだがな。
「そのまま送ったんスか?」
「いや、借りは返したと一言だけ付け足してな」
「先輩らしいッスね」
「俺は借りを作らない主義なんだよ」
借りは極力作らない。それだけの話さ。
「でも意外でしたね。キサラギ少尉なら二階級特進されても良かったと思いましたが」
「あぁ、そんな話も出ていたらしいがな。唯、前回に引き続き今回もだと要らない恨みが出るかも知れないって言われてな。一応ギルドの方が配慮したらしい」
マザーシップ撃破に際して連邦から勲章を貰ったので二階級特進の推薦が連邦軍内部から出てたらしい。しかしエルフェンフィールド軍に引き続きになるので、要らない摩擦が出来るかも知れないと傭兵ギルドの方で止めてたのだ。
一通りの話を適当に聞き流しながら頷いたら受付の獣人娘が呆れた視線を向けてたのは記憶に新しい。
「実際の所は知らんがな。一応二階級特進も申請すれば出来たらしいが。まあ階級に関しては余り興味無いし。それより俺のバレットネイターを見て貰いたい物だね。俺に似てカッコ良くて最高だろ?」
「はいはい。カッコ良いですね」
「先輩カッコ良いッス!だからジュース奢って下さいッス!」
「おう。任せな」
気分が良くなり二人に飲み物を奢る。今回は先月に販売された【エナジーミルクチャージ】を選んでみる。購入者のレビューを見ると賛否両論だったので気になっていたのだ。
「変わった飲み物を選ぶんですね」
「人生とは何事も好奇心があってこそだよ。そうでないと、ありきたりな物しか選ば無いしな」
「ソレ美味いスか?」
「……悪くないな。エナジードリンク独特の味がマイルドになって飲み易い。唯、エナジードリンクなんだからガツンと行きたい奴には不人気だろうな」
逆にエナジードリンクが苦手な奴でもお勧め出来そうだなと思いながら端末を取り出す。
「そう言えば、スマイルドッグの戦力補充が決まりましたね」
「おう、そうだな。確か中古の巡洋艦二隻とFA-11ヘルキャットが三ダースだったな。内一ダースは予備機だそうだ」
「社長から聞いたのですか?」
「まぁな。最初は最新の巡洋艦一隻と十八機分にするつもりだったらしいがな。ほら、マザーシップ戦で結構な数が喰われただろ?その時に溢れた連中を掻っ攫ったみたいだぜ。然も戦歴の中に激戦宙域グンマー星系を生き抜いて来たらしいんだよ」
「そんな勝手な事して大丈夫なんスか?」
「大丈夫だろ。そもそも雇主が消えちまったんだ。寧ろ社長は救いの手を差し伸べた様なものさ。まあ、お陰で乗組員もそのまま雇えたらしいし。全員歴戦の連中だから下手な最新型より使えるぜ」
因みにグンマー星系は豊富な資源と多数の中小企業が存在している宙域だ。お陰で企業間での合併や連合はあるし、ライバル企業への破壊工作は日常茶飯事。
何度か大企業が資源を独占しようとしているのだが、そんな時だけは連携して大企業相手に大盤振舞いをする連中だ。然も強者と呼べる連中が吐いて捨てる程居る場所なので、侵攻すれば被害は出るし防衛すれば更に被害が出るのだ。
また、大半の連中が短気で戦闘気質気味なので直ぐに戦闘になるのも避けられる要因になっている。勿論一般市民は出来る限り巻き込まない様に戦ってるらしいがな。
唯、一般市民にとっては迷惑な話だが傭兵企業にとっては有難い場所ではある。常に安定して戦力を求めている場所でもあるからな。
「後はAWパイロットも数人勧誘出来たらしいし。ヘルキャットもフォーナイトのお陰で価格が大分安くなってるから数も揃え易くなってる。後は俺がヘルキャットに乗れれば文句無しだな」
「しかし、グンマー星系ですか。中々治安の悪い場所だとは聞いてますが」
「そうでもねえよ。治安の悪い場所には資源がある。逆に何も無い場所は平和な物さ」
「そうなんスか?自分はてっきり一般市民立ち入り禁止だと思ってたッス」
「何処のバイオハザード区域だよ。無論何も無い場所はスラム化してるから別の意味で治安は悪いがな。流れ弾が来ないだけ……いや、偶にミサイルとか飛んで来るかな?」
「詳しいですね。もしかして住んでましたか?」
「おうよ。お陰でスリリングな少年時代を歩めたよ」
俺がそう言うと二人共嫌そうな表情をしながらジュースを飲む。そんな二人を無視しながら端末を弄り続ける。何してるかって?ネロの外見クリエイトさ。
「はあ、しかし参ったな。まさか万能アンドロイドが彼処まで高価だったとは」
「幾ら何スか?」
「ポッキリ価格で一億五千万クレジット」
「うわー……高過ぎでドン引きするッスね」
「恐らく防犯の為もあると思います。もし安価な値段なら簡単に悪用されますからね」
「価格なんて関係ねえよ。高価な物でもメリットがデカければ悪用されるさ。唯なぁ、ついさっき気付いちまったんだけどな」
「何がッスか?」
俺は完成した外見クリエイトを見せる。其処には俺の好みの趣味趣向がふんだんに盛り込まれた万能アンドロイドがいる訳だが。
「随分と上手く作られましたね。これならネロも喜ぶと思いますよ」
「先輩って結構良いセンスありますよね」
「そりゃあ浪漫を見出す俺にとっては容易な事よ。だがな、問題は次にあるんだ」
そう俺は気付いてしまったのだ。宇宙の真理と言う奴にな。
真実とは時に残酷な結果を齎す。それが世の中の常識であったとしてもだ。




