ロストテクノロジー
コクピットハッチを閉じて、システムを起動させる。
「メインシステム起動。パイロットの搭乗を確認」
HS-105Nヴォルシアには平均的な戦闘補助AIが標準搭載されている。
高性能では無いが、多少の面倒な事は対応してくれる。
「システムチェック開始。俺はその間に武装決めるから」
「油圧、電圧、ジェネレーターは全て問題ありません」
「そうか。良し、これで良いかな。アイリ12よりエイグラムス。出撃準備完了しました」
通信を航空戦艦エイグラムスのオペレーターに繋げる。
『こちら、エイグラムス。了解しました。カタパルトに移動させます』
「アイリ12、了解」
俺は最低限のやり取りをしながら、簡単に機体のシステムチェックをする。
戦闘補助AIに全て丸投げするのも問題は無い。だが、俺は基本的に自分の目で見ないと気が済まないタチなのさ。
『カタパルトに接続完了。武装の接続を開始』
「武装システムオールグリーン。全システム問題無し。アイリ12、いつでも出れます」
今回の武装もビームスナイパーライフル、多目的レーダー、プラズマサーベル。予備にビームガンを腰に懸架している。
『了解しました。ハッチ開放、ガイドビーコン展開』
格納庫ハッチが開き、巨大な宇宙ステーションが見える宙域。
今回は超級双胴戦艦ウラヌス・オブ・スターの周辺警戒が主な任務となっている。
理由は、今回のコンサート会場が超級双胴戦艦の中で行われているからだ。
朝からずっと多くのナインズファン達が詰め掛けており、時々起きるトラブルに対処するのも警備隊の仕事だ。
そして、俺は初めての本格的な仕事と言う事で周辺警戒を行う事となった。
『出撃どうぞ』
「アイリ12、ジェームズ・田中。行きます」
そして、カタパルトから勢い良く宇宙空間へと射出される。
射出された速度を生かし、所定の座標へと向かう。
『おや?田中氏殿も出勤しましたな』
「えぇ、そうですね。アイリ4は後、2〜3時間で退勤ですか?」
アイリ4ことギャランが近い場所で既に警戒任務に就いていた。
『そうでござるな。早く仕事が終わって欲しいものでござる。ナインズの応援とスパチャをしないと手が震えてしまう……』
「それ、もう精神病の域に入ってますよ」
しかし、超級双胴戦艦ウラヌス・オブ・スターは中々にデカい。
デカいだけで無く、武装も豊富で大型砲塔も8基搭載されている。他の武装も豊富で簡単に寄せ付けないだけの火力は持っている。
唯、一つだけ意外だったのは収縮砲が未搭載らしい。
『そう言えば田中氏殿は知っておりますかな?
ウラヌス・オブ・スターには特別なアーマード・ウォーカーがあるそうですぞ』
「特別なアーマード・ウォーカーですか?既に、エースパイロット4人が特別みたいな存在だと思いますが」
『確かに、エースパイロットも専用機がありますからな。特別と言えば特別ですな』
俺の中で特別な機体と言えば、一番にデルタセイバーが上がる。
色々と規格外の機体と共闘したり、戦ったりする機会は普通に無い。
まぁ、本当の一番特別な機体と言えば自分自身の専用機なんだけどな!
『しかぁし!今回のは一味違う特別ですぞ?噂では【ナイトロ機関搭載型】のアーマード・ウォーカーらしいですからな!』
「ナイトロ機関ですか。随分と豪勢な機体ですね」
少し昔話になる。
今でこそ、殆どのAWに搭載されているプラズマジェネレーター。
実は、結構妥協した形で開発された代物だった。
初期の頃は出力不足で、ビーム・プラズマ兵器の使用がほぼ不可能だった。また、出力を上げれば不安定になり易かった事から拡張性が乏しかった。
そこで、ある軍事企業が社運を賭けて新しいジェネレーターを開発した。
それが、Nジェネレーター。
戦闘時に起きる衝撃にも強く、出力も非常に高いジェネレーター。無論、爆発した時に汚染が発生する。しかし、その汚染濃度も規定値以下なので問題無し。
元々、小型化には高い技術力と発想が必要だった。だが、小型化を成し遂げだ事で一気に開発が進んだのだ。
生産コストが非常に高くなってしまったが、圧倒的な性能差と高出力の光学兵器も使用可能。更に、長時間のビーム・プラズマと言った光学兵器の使用にも耐えれる程で、エネルギーシールドの展開も可能。
既存の戦力バランスを、一気に崩壊させる事が出来る程のOPとなった。
また、ナイトロニウムも扱いが難しいだけで手に入る物質。艦艇の機関部やN弾に使用される程。
作製する材料自体は全て揃っていたのだ。
その軍事企業には、三大国家を筆頭に様々な大企業から大量発注を受ける事になった。
そうなれば生産ラインはパンクしてしまう。だが、大量のクレジットは降り続ける。
なら、生産ラインを大量に増やし大量生産させる。
軍事企業の業績は鰻登りになり、遅かれ早かれ大企業の仲間入りになると誰もが信じていた。
だが、事件が起きた。
突如として生産ラインが大爆発。更にナイトロニウムや生産済みのNジェネレーターにも誘爆し連鎖爆発。
凄まじい爆発と共に、生産施設は半永久的に残り続ける汚染宙域に残される形となってしまった。
今では汚染宙域には、凄まじい電流の渦が常に走り続ける危険宙域となっている。
Nジェネレーターの設計図、生産ラインの全てが消失。更に開発施設や実験施設も一緒にあったので回収作業は絶望的。
だが、もし設計図のデータや生き残っているNジェネレーターを回収出来たらどうなる?一攫千金も夢では無いだろう。
そうなると話は変わって来る。その結果、今ではトレジャーハンターや行き場を失ったゴースト達が探索に赴き、行方不明となり多数の心霊現象が多発する有名スポットとなった。
「しかし、先行出荷されたNジェネレーターも殆ど三大国家が保有しているのでは?」
『いやいや、それがですな。やはり、利権関係もあったとかで。一部は大企業にも優先して送られたそうですぞ。まぁ、殆どは大事に奥底に隠されてるでござるが』
「でしょうね。で?そんな希少なNジェネレーター搭載されてるAWが、ウラヌスにあるんですか」
Nジェネレーター搭載機は現在でも通用する出力を出す。
理論上はNジェネレーターを解体、コピーすれば生産可能と思われていた。
しかし、生産されたNジェネレーターには全て初期ロット。そうなると、技術漏洩を防ぐ為に普段以上にエゲツない罠を仕掛けている。
結果として解体、分析をしようしたが、全て失敗。更に解体したら修復不可能となってしまった。
この瞬間、ロストテクノロジーが生まれたのだ。
そんな希少価値が高いNジェネレーターを搭載したAWが、ウラヌス・オブ・スター内にあるのかも知れない。
「普通に滅茶苦茶見たいんだけど」
『流石は田中氏殿ですな。それに、ウラヌスの艦首には収縮砲が無いでござるよね?でも、あの辺りはずっと前から収縮砲搭載予定区画らしいんでござるよ』
「あー、そう言う事ですか。まぁ、夢があって良い話ですね」
しかし、Nジェネレーター搭載型のAWかぁ。
ロストテクノロジーと化しても、超高性能に変わりはない。
更に生産された数も多くは無い。確か、300基かそこらだった筈だ。
(売ったら幾らになるかな?50億クレジットは確実に行きそうだな)
既にロストテクノロジーになってるNジェネレーター。
コレクターからしたら垂涎物なのは間違い無いからな。
「浪漫ありますね。一度でも良いから動かしてみたいですね」
取り敢えず分かった事は、超級双胴戦艦ウラヌス・オブ・スターの艦首部分には収縮砲では無く、夢と浪漫が詰まってるって訳さ。
それから、小1時間程が経過した頃だろう。
ギャランは通信ハックを行い、ナインズのライブ観戦をしていた。
まぁ、他の連中も似たり寄ったりの事をしている。
近場に宇宙ステーションもあるから、自治軍の艦隊やパトロール艦隊もいる。そうなると、警戒任務自体が緩くなってしまう。
それに、基本的に警備は暇だからな。
俺も多少は周りを警戒しつつ、音量を小さくしながら映画鑑賞をしているくらいだ。
だが、それでもトラブルってヤツはやって来る。
少し離れた宙域に、1機の戦闘機が停まっていた。
しかし、その戦闘機は手が加えられており、大型ブースター2基と中型ブースター4基と中々の速度が出るのが予想出来る。
【ハロー!リスナーの皆んな!今日も派手に自治軍の連中を弄って行こうと思いまーす!】
この男は動画配信者。然も、周りに迷惑を掛ける奴で世間的に嫌われている。
しかし、高速で過激な曲芸飛行を行う事でリスナー達からの評価は妙に高い。
【そして、今回は特別なコラボして行きたいと思いまーす!何と!今あの宇宙ステーションの近くには、あの有名なナインズが滞在している超級双胴戦艦ウラヌス・オブ・スターとホープ・スター艦隊もいるんですよぉ】
特別なコラボと言っているが、ホープ・スター企業は何も知らない。
この男が勝手に言っているだけである。
【そして、間も無く何ですけど。ウラヌスの周りを高速で飛行するエリート部隊?って奴が出て来るんですよ。で、そこに紛れ込んで行こうかなーって思いまーす!】
親衛隊による可変機による航空ショー。
ギリギリまで機体を寄せながら、高速で曲芸飛行を行う。しかし、一糸乱れぬ編隊飛行は目を見張るものがある。
だが、そこに異物が入り込もうとしていた。
【じゃあ、早速やって行きますか。エンジン始動を開始。油圧、電圧、燃料OK!さてさてさて、俺の腕前を宇宙に居る沢山のリスナー達見せ付けて!盛り上げて行こっか!ミュージックスタート!】
操縦レバーを前に出し、ペダルを踏むと一気に加速する戦闘機。それと同時に大音量でパンクな音楽が流れる。
因みに武装は全て撤去され、ボディの一部を軽量素材にしているカスタム戦闘機。
加速、最高速度共に機動戦なら侮れない戦闘機となっている。
最初に気付いたのは警戒任務に就いていた警備隊のヴォルシア。
しかし、レーダーに反応が出た音で気付いたパイロット。彼の手元には食べ物と大画面の端末が握られていた。
慌てて操縦桿を握りつつ、通信を繋ぎ、これ以上の接近に対して警告を言おうとした。
だが、既に距離を詰められていた。
あっという間に抜けられてしまい、何も出来ずに警戒任務が失敗となる。
次に対空フリゲート艦ジーナが高速で接近する熱源を探知。
『高速で接近する熱源を確認』
『ミサイルか?』
『いえ、違います。先程、プルート4より戦闘機が抜けたと』
更に警告を出す前に抜けられたと言うでは無いか。
ジーナの艦長は警備隊の怠慢に頭を抱えたくなる。
『満足に警告も出せ無かったのか?全く、これだから役立たず共は。通信を繋げろ。直ちに退去せよと通告……いや、警告しろ』
『了解。通信繋がりッ』
通信を繋げた瞬間、大音量の音楽が艦橋に響き渡る。
その間にも戦闘機は対空フリゲートに迫り続ける。
『威嚇射撃用意!それでも引き下がらなければ撃ち墜とせ!』
対空フリゲート艦ジーナが主砲と対空砲を撃ち始める。
しかし、配信者の男は更にテンションが上がってしまう。
【リスナーの皆!見てるかー!早速の歓迎に俺は嬉しいぜ!行くぞぉ!】
更に加速して対空フリゲート艦ジーナの船体ギリギリを飛行しながら抜けて行く。
しかし、対空フリゲート艦ジーナの威嚇射撃を皮切りに他の駆逐艦や対空フリゲート艦からも攻撃が開始される。
だが、中々当てる事が出来ない。
【何だ何だぁ?そんな攻撃で俺は止まらねぇぜ!】
威嚇射撃から本格的な迎撃に移行される。だが、対空フリゲート艦と駆逐艦の防衛ラインが突破される。
警備隊のAW部隊も攻撃に参加する。しかし、機動力では完全に負けていた。更に、遠い配置に居る機体だと、現場に急行しても速度が遅いので間に合わない。
巡洋艦と戦艦の防衛ラインに迫る戦闘機。その先は親衛隊が航空ショーを行っている。
【緩い!緩いぜぇ!大企業の艦隊も大した事無いな!このまま俺の操縦テクニックを魅せ付けてやるぜ!】
航空ショーを中止して、親衛隊が動き出そうとした瞬間だった。
遠距離から一筋のビームが駆け抜ける。
男は猛烈に嫌な予感がした。
咄嗟の判断だった。
操縦レバーを動かして、回避する様に戦闘機を動かす。
【ッ⁉︎被弾したのか!被弾箇所は!】
【左翼に被弾。燃料漏れが発生】
【動ける!なら、まだ諦めるには早ッ】
被弾したが致命傷では無かった。
だから、まだ行けると勘違いしてしまった。
最初の一撃が手心を加えられた事に気付かぬまま。
再び高出力ビームがホープ・スター艦隊の間を駆け抜ける。
そして、戦闘機の後部を直撃。
一部のサブブースターが消し飛んでしまう。
【うわああああ⁉︎ひ、被弾した⁉︎】
慌てて逃げる様に進路を変える戦闘機。
だが、既に手遅れだった。
最後の一撃と言わんばかりに、戦闘機の後部に再びビームが直撃。
幸い爆発する事は無かったが、ブースターとエンジンが完全に死んでしまった。
最早、逃げる事は不可能となった。
何が起きたのか確認する配信者の男。
映像と被弾箇所から逆算して位置を割り出す。
【なっ⁉︎あ、あんな遠くから……当てられた?】
男は絶対の自信があった。今までも自治軍の艦隊からの迎撃を潜り抜けて来た。
なのに、遠距離からの狙撃で仕留められた。
呆然とする男の顔が配信され続ける。
そんな間抜け顔を見て盛り上がるリスナーや野次馬達。
そして、この事を切っ掛けに徐々に視線を集め始める事になる。
「……チッ、運悪く爆死すれば良かったのに」
『さ、流石ワンショットキルでござるな。この遠距離でも全弾当てたとは』
「偶々ですよ……偶々。さて、後処理は近場の連中に任せましょう」
そして、再び所定の位置に戻るアイリ12。
そんなストイックな態度を取るアイリ12を間近で見てしまったギャラン君。
(か、格好良いでござる。このままだと拙者、田中氏殿のファンになりそうでござる!いやいや、拙者には推しのナインズ達が……アイリちゃんが居るでござる!これ以上の出費は)
一人で悶々と考え事をするギャラン。
既に退勤時間は過ぎているのだが、本人はまだ気付いて無かった。
「アイリ12よりアイリ4。もう、交代時間は過ぎてますよ」
『え?おわっ!ほ、本当でござる。では、田中氏殿。お先に失礼しますでござる』
「お疲れ様でした」
再び警戒任務に戻るアイリ12のHS-105Nヴォルシア。
その映像がリアルタイムで放送されていたのを知ったのは、本人が警戒任務を終えてからだった。




