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41.絶滅危惧

途中に勇者様視点アリ

 勇者様が何とか騎士団の拘束を抜け出し、駆けつけた時。

 彼が見たのはぎらつく瞳の騎士(×3)と、それに向かい合う悪魔風山羊。

 そして山羊の手の中で刃物を突きつけられた私。

 はい、どっからどう見ても修羅場ですね!

 魔族まで山羊を刺激しないよう、動きあぐねていますよ☆


 だ れ か た す け て く だ さ い 。


 眼前に広がる予想外の修羅場に、勇者様が唖然とした。

 その肩の上で、カラスがカアと鳴いた。



   ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆



 辿り着いた勇者(オレ)が見たモノは…

・剣呑な目つきの人間の騎士(×3)

・見上げる様な身の丈の、山羊魔神(多分メス)

・山羊の手に囚われた、人質真っ最中のリアンカ


 → 勇者は混乱した


「一体、何が…」

 呆然と呟いた俺の背後に、忍び寄る気配。

 この気配は…

「………まぁ殿?」

「アタリ」

 今回の黒幕に当る魔王が、いつの間にか俺の背後にいた。

 驚くほど存在感が希薄なのは、隠形の魔法でも使っているのか…。

 まぁ殿なら、ただの技術で完璧な気配の遮断もできそうだけど。

「まぁ殿、これは一体何事なんだ…?」

「わりぃな。俺の不手際だと思ってくれて構わねー」

 気まずそうな顔をするまぁ殿は、ちょっと珍しい。

 困った様な顔。

 どうやらこの修羅場はまぁ殿にとっても不本意、かつ予想外の事態だったんだろうか。

「それにしても、あれは…」

 見晴るかす、大きな山羊魔神とでも言うしかない生物。

 アレは何なのか、目線で問うが…

「そんな目で見てやんなよ。あれでああ見えて、あの山羊内気な夢見る乙女なんだぜ?」

「夢見る、おとめ…?」


 夢、

 見る、

 乙女………。

 

 確かに知っている単語の羅列の筈。

 だというのに、その意味が、暫く理解できなかった。

 俺は石でも飲み込んだ様な顔だっただろう。

 改めて山羊に目をやり、その威容を眺め。

 再度、まぁ殿に目を合わせた。

「…乙女?」

 まあ、メスだというのは分かるが、乙女…?

 どこからどう見ても、アレは凶悪な悪魔なんだが…。

 だけどまぁ殿は、俺の疑問を知っていて気付かない様な顔で。

 にこりと笑う。

「そうだ。将来的には赤い屋根の白い小さな家に住み、庭にはパンジーを植えて、暖炉の前で恋愛結婚の誠実な旦那さんと2~3人の子供、それから白い子犬と仲良く暮らすのが夢って乙女だ」

「それは…絶滅危惧種だな」

「ああ。魔族には珍しい内気な女だが、保護が必要かなって(たま)に思うよ」

 しみじみというまぁ殿には悪いが、俺の目にアレは保護が必要な生物に見えない。

 何に見えるかと言われると、強いて言えば悪魔に見える。

 俺の気持ちを知ってか、知らずか。

 まぁ殿は温い笑みで、「さて保護回収するか」と呟いた。



   ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆



 動く者のない、開けた場にて。

 否応なく高みから場を見回すことになってしまった私。

 そんな私の目には、下界(泣)で身動き動く人々が凄く目立って見える。

 影に潜んでいたまぁちゃんが、溜息ひとつ。

 それからまぁちゃんは、むんずと前にいた魔族さんを捕まえました。

 それはラーラお姉ちゃんに鎌なんぞ与えた、魔族の青年将校。

 確か名前はプロキオンさん。

 縦横無尽と多様な武器を駆使する犬耳魔族さんです。

 彼の襟首を、まぁちゃんが掴む。

 そして


「こうなった状況の一端はお前にもあるんだから、責任取ってこーい」


 まぁちゃんに、突き飛ばされた。

 その足が、思わず場の真ん中へと来るように。


 こうして、プロキオンさんが3人の騎士に対峙した。

 まるでラーラお姉ちゃんを背に庇うように。

 もしくは、人間達の前に立ちはだかるように。

 加えて、まぁちゃんがついでとばかりに何人かを蹴り飛ばす。

 加減していたからかダメージはないみたいだけど。

 それでも勢いを殺しきれずに、多々良を踏んで躍り出てくる魔族達。

 3人の前に、4人の魔族将校。

 プロキオンさんとよく連んでいる人達だよね、あれ。

 どうやら4人がかりで3人の騎士を足止めすることに方針を定めたみたい。

 やけくそ気味にプロキオンさんが声を張り上げ、大音声。


「身の程知らずの人間共めっ お前等なんぞを相手にヴェラ様が出るまでもない! お前達の様な矮小な雑魚は、代わって俺達が叩き潰してくれる!」

「く…っ 新手か!」

「手応え的に、もう少しの気がしたというのに!」

「ふん…ヴェラ様が手加減して遊んでいたことも分からないとは。これだから小手先しか知らぬ人間という奴は愚かしい」


 そう言って、毅然とした顔でさり気なく格好良いポーズを決める。

 彼なりに、空気を読んだらしい。

 ちょっと、ノリノリ過ぎるけど。アレ絶対、内心で面白がってるよ。

 でも即興の言葉だからか、ちょっと文脈がおかしい。

 だけどそのおかしさも、その場の勢いで乗り切るつもりか。

 言葉のおかしな印象も吹っ飛ばす様な、凶悪な武器を取り出した。

 その武器、どっから出したの?

 成り行きを困惑の顔で見ていた勇者様も、ぽかーんと。

 呆けてしまうぐらいに、突拍子もなくおかしい。

 だってプロキオンさんが握っている武器…全長3.5mくらいのハンマーなんだもん。

 本当に、どこから出したの?

 どこからともなく取り出した大きなハンマーに、兵士B達がたじろぐのが分かった。

 強者の余裕ですか? 空気で威圧する、笑顔の魔族。

 獰猛な笑みは、狡猾な狐の様にも見えた。



 見事な前座ぶりを発揮してくださったプロキオンさん。

 彼の前に進み出て、魔族の1人が背を示す。

「乗れよ。蹴散らしてやろうぜ!」

 彼の下半身は、牡鹿のそれ。

 腰から上は人間のそれに見えるのに、腰から下には牡鹿の胴体。

 そして4つの足はクマのそれ。

 猛々しい体を身震いさせて、戦いの予兆に興奮を表す。

 プロキオンさんは彼の意を汲むと、是非もないのかひらりと牡鹿の背に跨った。

 牡鹿の魔族さんは、両手に1本ずつダガーを握っているけれど。

 本命武器は、肩口から前に生えた鹿の角と見た。

 今にも蹂躙しようという、正直ドン引きの強威力タッグ。

 その両脇を固める残りの2人は、それぞれハルバートと包丁で武装している。

 ………包丁?

 物言いたげな、何とも言えない視線が包丁人に殺到した。

「………お前、いつものは?」

 代表して口を開いたプロキオンさんに、包丁人はてへっと笑う。

「寝坊してさー…慌ててたから、武器忘れて来ちゃった☆」

「何という武人としてあるまじき! でも、それでこそお前って感じがするのは何故だろう!?」

 …ああ、その人、そういうキャラなんですか。

 勇者様が、物凄く何か言いたそうな目で凝視していますよ?

 でもツッコミなんて入れたら馴れ合ってるのがバレちゃうから、自重してるんですね?

 勇者様、偉いです。魔族は全く自重しないのに。

 そして自重しない魔族であるところのプロキオンさん達。

 彼等は、こうなったからにはと気合い充分の顔を見せる。

 …多分、きっと、何となくですけど。

 兵士Bが魔族の波を突っ切って此処まで突撃かましてからの、あの猛攻。

 あれを見て、多分うずうずしてたんじゃないかな、プロキオンさん達。

 魔族は基本、強い相手と戦うのが大好きだから。

 少しでも手応えがありそうだと思うと、ちょっかいを出したくなるものらしい。

 わらわらわらわら群がる魔族の足止め。

 それを振り切って此処までこれるくらいの技量を、兵士B達は持っているみたいだから。

 …意外なこと、この上ありませんけど。

 きっと、好戦的な魔族さん達は戦ってみたくてわくわくしてたんでしょう。

 そこを、まぁちゃんからおおっぴらに相手して良いとお墨付きを貰って。

 腹をくくったというのもあるんでしょう、プロキオンさん達はとっても晴れやかな顔をしていた。

 この場の状況、設定からすると少々不自然なくらいに。

 そぐわない! その顔は中ボスの親衛隊設定にそぐわないよ!

 でもそんな声を上げるわけにはいかないし。

 プロキオンさん達は、終始不気味に良い笑顔。

 そのあまりにも晴れやかすぎる笑顔に、兵士B達は引いていた。

「それでは、いざ尋常に!」

 声と共に、牡鹿がスタートを切る。

 いや、尋常にーとか言う空気でもないし。

 本気で戸惑っている兵士B達は、ちょっと状況について行けていない。

 それでも本能か、それとも体が勝手に闘気にでも反応したのか。

 咄嗟に尽きだした両手剣が、危ういところで辛うじて牡鹿さんの角を受け止める。

 だけど、受け止めただけじゃ終わらない。

 その頭上から、プロキオンさんがハンマーを振りかぶって…

「あ、あっぶねぇ…!」

 間一髪のところで、横合いからAがBを突き飛ばして難を逃れた。

 だけど敵は、プロキオンさんコンビだけじゃない。

 ハルバートと包丁の2人が、抜き身の刃物をぎらつかせて襲いかかる。

 血に濡れたようにゆらゆら、ぬらぬらと。

 包丁が不気味な輝きを見せる。

「…流石、怨念の染みついた包丁は扱いが難い」

 苦々しげな声と共に振るわれた包丁が、大地に根差した岩を、易々と切り裂いた。

「「「……………」」」

 あれ、包丁だよね?


 見た目に寄らない威力を発揮する包丁に、誰もが目を奪われた。

 その、隙に。

 私達…私と、ラーラお姉ちゃんに接触してくる影。

「おーい、大丈夫か?」

 まぁちゃんだ。

 呑気な顔で、呑気な声で。

 私達に接触してくる。

 気にかけてくれるのは嬉しいけど、まぁちゃん、良いの?

 目撃されて、後々で面倒くさいことになるんじゃ…

「問題ないぜ。俺の隠形の技は確かだ」

 ぐっと親指を立ててそう言うんだから、その言葉を信じようかな。

 でもね。

 まぁちゃんの言葉を信じても、安心はできない。

 だって今の私が1番案じているのは、この我が身。

 私は私が1番可愛いんだよ。

 本当に、どうしよう。どうなるの、まぁちゃん。

「安心しろ。もう勇者とは打ち合わせしてきてあるからよ」

「いつの間に…仕事が早いね、まぁちゃん」

「ああ、いつもこうなら、リーヴィルに追い回されることもないんだろーが、なあ………」

「いつもは興が乗らないから、どうしたって遅くなっちゃうんでしょ」

「本気出せば片付かないこともないんだぞ?」

「それでも、それよりさぼって遊ぶ方が楽しい、と」

「否定はしない」

「私も毎日面白おかしく楽しく暮らしたいタイプだから、責めたりはしないけどねー」

 所詮私達は幼少のみぎりから一緒に育った従兄弟同士。

 肝心なところで、似たもの同士だった。

「それでまぁちゃん、そんなに余裕綽々って事は何か計画あるんだよね? 筋書きの軌道修正に、何か指示があるんでしょ」

「話が早いな。勇者とは、もう仕方がないから正面突破の王道力業で行こうかというところに話が落ち着いたわけだが」

「それって私はもれなく爆死ということですよね? そういう展開ですよね…!?」

 聞き捨てなら無いものを察知して、ラーラお姉ちゃんが戦いた。

 興奮に鼻息荒く気が立っていた精神も、正気を取り戻して会話に加わってきます。

 進退に関わるお話なので、頭が沸騰していても、頑張って話を聞こうというものです。

「取り敢えず落ち着け。俺だって可愛い部下を爆死させたりはしねーよ。何のリターンも無しに」

「身に返るものがあればするんですか!?」

「しまったな。言葉の綾だ」

「しまったって…!」

 ああ、またまぁちゃんがラーラお姉ちゃんで遊んでる。

 話が進まないから、私はまぁちゃんの袖をちょいちょいと引いて注意した。

「まぁちゃん、続きが聞きたい」

「あ、そうだな。だけど基本設定は先刻プロキオンも言っていただろ?」

「え?」

「今のままだと中ボスはただの人間に押されるような軟弱者だ。それは具合が良くねえ」

「まあ、そうだよね…面目立たないよねぇ」

「すみません…」

 ラーラお姉ちゃんの巨体が、目に見えてがっくりした。

 下がってる下がってる、肩が!

「駄目だよ、ラーラお姉ちゃん! 中ボスがそんなことしたら目立っちゃう!」

「うぅ…」

「まあ、今のままじゃ立つ瀬がないってのはその通りだ。そこでプロキオンの案通り、今までの中ボスは遊んでいて本気じゃなかったアピールをまずするぞ」

「「え?」」

 え、どうやって?

 見上げるとラーラお姉ちゃんの山羊顔も、私と同じような疑問に染まっている。

「ばーか。あるだろ、お手軽簡単にアピールできる奥の手」

 そう言って、ぴしっとラーラお姉ちゃんを指差すまぁちゃん。

 そして無情にも、魔王陛下は巨大な山羊へと告げた。

「ラヴェラーラ、第4形態」

「ッ!!?」

 あ、ラーラお姉ちゃんが固まった…。



 こうして、ラーラお姉ちゃんがすっごい嫌がっていた第4形態ご披露が決定した。






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