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34.太陽に顔を上げ

 すっかり勇者様に懐いた三本足のカラス。

 親を慕うように勇者様に擦り寄ります。

 だけど傍目には、滑稽なまでに勇者様が腹話術芸人に見える。

 本人は気付いていませんけれど。

 

 だけど光属性の獣(最強クラスの竜と神獣)を従えちゃって、まあ。

 そんな元から光特化なのに、より光属性強化しちゃってどうするんですか。

 能力的にも重なるところの多い下僕が複数いても、潰しがきかない気がするんですけど…。


 光は、生物にとって問答無用で慕わしいもの。

 強すぎる光には、正邪関わらず様々な者が寄り集う。

 さて、私が何を言いたいかと言いますと。


 カラスを配下に加えて、心なしか勇者様の光が強まった気がします。

 あまりに強すぎて、空気中に小さく煌めきを放っているんですが…。

 なんて言うんでしたっけ、キラキラ効果? ←(いわゆるエフェクト効果)

 それを素で発生させているのに、気付こう勇者様!


 ………なんだか今後一層、勇者様に女性が集まりそうな気が。

 女難ドンマイ、勇者様☆ ←笑い事ではないが、笑うしかない。



 

 無事にカラスを捕獲した私達。

 カラスは持参した鳥籠にカラスを押し込め、サッチー&ポロの店に凱旋しました。

「たっだぃまぁー」

「おう、おっかえりぃ………って、うぉ!?」

 お店の方で薬草棚を漁っていたさっちゃんが、私達を見て仰け反りました。

 あれ、ナシェレットさん(蜥蜴人間タイプ)に驚いたのかな?


 …と思ったら、さっちゃんの目は勇者様の肩に釘付けでした。

 正確には、そこにいる三本足のカラスに。


「おいおい、マジで捕獲できたのか!?」

「いや、貴方が捕まえてこいって言ったんでしょう」

「言ったけどさぁ…無理だと思ってたのに。あちゃー…エリクサー、タダにしねぇと」

「聞き捨てならないんだけど、最初から不可能だと思ってお使い頼んだの…?」

「だって陛下ならともかく。そこの兄さんが何者か知らねぇが、できるなんて思うまいさ」

「うわー…高をくくってたんだねぇ。ざまぁ」

「り、リアンカ! 口が悪い!」

「おや、お育ちのよろしい兄さんだねぇ」

「だって勇者様、お国では王子育ちだもん」

「へえ?」

 器用に片眉を上げて感心してみせるけれど…

 次の瞬間、さっちゃんの顔が壊れた。

「って、『勇者』ぁ!? なんてもんと行動一緒にしてんの!」

 ああ、すっごい驚いてる。

 さっきカラスの存在確認したときより、ずっと驚いてる。

 その驚き狼狽えぶりに溜飲が下がり、ちょっとすっとした。

「このこと、陛下は知ってんの!?」

「知ってるどころか、行動を共にすることもままありますが」

「陛下なにやってんの!? いや、魔王って酔狂な生き物だけど!」

「なぁに騒いでるの? 気が散るんだけど…」

「サッチー、材料補充にいつまでかけてるのさー」

 驚き騒ぐさっちゃんに気付いたのか、奥の作業室から他の2人もこんばんは!

 狭っ苦しい程に、お店の中は人口過密状態。

 原因は勿論、無駄に図体のでかいナシェレットさんだと断言してみる。

「ルミ! ルミっ!」

「どうしたのよ、サッチー」

「勇者だって!!」

「!!?」

 ずびしぃっと勇者様を指差すさっちゃん。

 固まるルミちゃん。

 感心したようにへぇと呟くポロおじさん。

 おおう、混沌。

 エルフは一種の勇者崇拝…というより、勇者宗教状態に陥っていますからね。

 いきなりすぎる生き神様(笑)の登場にルミちゃんも凍り付いて当然ですよ。

 だけど(エルフにしては)若いお姉さんは精神も柔軟だったのか、直ぐさま気を取り直し…

「ね、ねえっ 魔法弾打ち込んでみても良いですか!?」

 勢い込んで、勇者様に物騒発言をかましました。


 若干上気した頬が、一層異様で混沌を加速させている。

 頬を染めたルミちゃんは、色っぽくて変な雰囲気纏ってたけど。

 それが殊更、発言内容とはちぐはぐすぎて。

 なんとも言い難い、微妙な沈黙が場を支配しました。


 勇者様は、危ない人を見たと言わんばかりにそっと目を逸らしました。

「すまないが、遠慮してもらえないか…?」

「えぇ…!?」

 本気でショックを受けるルミちゃんに、こっちも本気で驚きます。

 え、攻撃して当然みたいな、その反応って一体…。

 なんでそんなに残念そうなの?

 『勇者』は尊崇の対象じゃなかったの?

 疑惑は深まるばかりでした。


 後に発覚しましたけれど。

 ルミちゃんの反応は昔の勇者様に起因したものだそうで。

 人間に弾圧され、虐げられていた亜人・獣人を魔境に導いた勇者のお話ですが。

 彼がエルフ達を保護した際、警戒心を高めたエルフが、彼を攻撃したことがあったそうです。

 そのエルフは現在では魔境アルフヘイムの長老に名を連ねる方です。

 魔境でも実力者に名を連ねているような人ですが。

 そんな人の魔法攻撃(全力)を。

 勇者は、片手(素手)で弾いたらしい。

 ……………どこのバケモノ?


 しかしそのことを切欠に勇者の救済はエルフ達の心に染み渡り、エルフが勇者と打ち解ける、心温まる名場面として現在に伝わっています。

 バケモノぶりを発揮して何故に打ち解けるのかと、不可解一杯ですが。

 エルフさん達は「こんな超人なら自分達のことなど、どうでもできる。そこを助けようというのだから、裏など無いに違いない」と思ったそうです。

 問答無用の強さは、時に何よりの説得力を持ちます。

 まぁちゃんとかもそんな感じだし、それは私にだってわかりますよ。

 確かに魔法を素手で弾くような超人に、エルフを騙す必要はないでしょう。

 若く、当時を知らないエルフの間には、その光景を見てみたい。

 無理なら再現してみたいという願望があるらしく。

 それが先の物騒発言に繋がるようです。

 ……魔境アルフヘイムを訪れる『勇者』な人達、ますます大変。

 命が幾つあっても足りない系の試練が、此処には多すぎる気がします。


 肩書きがばれて、勇者様への待遇がグレードアップしました。

 現在はルミちゃんが入れた香草茶と温かな夕食でもてなされています。

 休憩の頃合いだったとのことで、根を詰めて疲れていた薬屋さん達も一緒です。

 温かな夕食、じんわり身に染みますねー…

「しかし本気の本当に、神獣連れてくるなんてな」

「いや、貴方達が連れてこいって…!」

「確かに言ったけど、全身丸ごとじゃなくっても、羽根3枚で事足りたよね~?」

 ポロおじさんの声で、私の笑顔が引きつりました。

「さっちゃん?」

「…………………………ごめん」

 勇者様なんて、自分を犠牲にして魔力まで啄まれたのに!

 薬瓶、何本も消費する羽目になったのに!

 ナシェレットさんの面白語尾、撤回する羽目になったのに!

 (→特に3番目が重要)

 私は不満も露わに、さっちゃんの脇腹を小突きました。

 貫き手で。

 悶絶し、くずおれるさっちゃんなんて、知ったことですか!



 太陽の強い力を宿した、ヤタガラスの羽根。

 宿すにしても、その力はあまりに強い。

 なんたって神獣ですからね。

 そんなイキモノの羽根を何に使うと言うんでしょ。

 聞いたら、こう返ってきました。

「この間、吸血鬼の不良グループに頼まれてさぁ」

「え、それって一番太陽と縁遠いグループじゃ」

「せめて一回だけでもお天道さん拝んでみたいんだと」

「初日の出なら尚良し、って言ってたよね~」

 呑気な声でポロおじさんも付け加えるけれど、

「「それって自殺?」」

 私とむぅちゃんの声が、見事に揃いました。

 私もむぅちゃんも勇者様も微妙な顔です。

 何て健全、真っ当な望み…。

 でもソレを望むのが吸血鬼となれば、最高難易度のお願いですね。

 たった一つの命と引き替えにしたものか、私には分かりませんけれど。

 蘇生を望むにも、屋外だと灰が散っちゃうかもしれないし。

 そこでこの薬屋さんに、彼等は依頼したそうな。


 たった一度でも構わない。

 吸血鬼が日を拝める体にしてくれって!


「なんたる無茶ぶり」

「僕らのとこに依頼に来なくて良かったね」

「来てたら、馬鹿なことは考えるなってまぁちゃんに説教して貰ってたかも」

「ああ、それ必要だね。早まるなって誰か言ってあげた方が良いよ」

 同じ薬に関わる身として、私とむぅちゃんは他人事とは思えません。

 (たま)にいるんですよね、無茶なお願いしてくる人って。

 それは薬じゃ無理ですって言っても、聞く耳持ってくれないし。

 望むにしても、望まれた方が困るよ。

 私達にそんなお願いが来たら、どうしたら良いかな。

 薬だけで何とかできるとは、到底思えないんだけど…。

「それで、どうなったの?」

 真顔で聞いてみたら、さっちゃんも真顔で返してくれました。

「試しに試薬作ってみたら、見事に失敗した」

「ああ、やっぱり…」


「失敗して、『お天道様に顔向けできないことができなくなる薬』ができた」


「それこそ一体どうやって!?」


 吃驚と書いて、びっくりと読みます。

 脳裏でそんなことを確認してしまうくらい、驚きました。

 何その驚異の薬、どうやってそんな物が作れたの…?




どこのバケモノかって?

リアンカちゃん、あなたのとこの御先祖ですよ~(笑)

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