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ここは人類最前線4 ~カーバンクルの狩り祭~  作者: 小林晴幸
エルフの迷宮(またの名をアスパラ地獄)
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25.グリーンアスパラマンの復讐3

 中ボス部屋を脱出する前に、私は煙を上げるアスパラの残骸に手を伸ばしました。

 アスパラが、アスパラの癖に着込んだ毛皮の奧。

 まさぐると、金色の鍵がぽろりと零れ落ちました。

「それは?」

 勇者様が、私に尋ねます。

「大ボスの部屋の鍵です」

「それが?」

「ええ、3つの中ボスの間、それぞれで待ち受ける中ボスを倒したら手に入る仕様で」

「仕様と言われると、途端にげんなりするのは何故だろう?」

「分かり切っている作業って、時に面倒に感じますよね」

「今更じゃない? 中ボスの間に入る為の鍵だって、宝箱開けて探さないとならないし?」

「その宝箱の8割がトラップなのも仕様なのか…?」

「置いてある宝箱の半分以上が魔物なのは、迷宮のマスコットがミミッ君だから」

「運営側の都合なのか…」

「まあまあ、魔物トラップでも、倒したらそれなりの品を落としてくれるんだし」

「そうだね。勇者様もそろそろ割り切ったら?」

「……そうそう簡単に割り切れたら、こんなに日々悩んではいないと思うんだ」

 勇者様は今日も、不条理な現実に振り回されているようでした。



 部屋を出て暫く、私達は中ボスに通じる鍵を隠された宝箱探し、あちこちに。

 ふらふら、ひらひら。

 迷宮という名前に偽りはなく、分かれ道も行き止まりも一杯です。

 そんな中で目的の宝箱を探すけれど…

 現在、6回連続で魔物(ハズレ)に当たっています。

 宝箱を開ける度の、あのげんなり感が凄まじい。

「あ、また宝箱」

 いつも室内に閉じこもって仕事をしている割に、目の良いむぅちゃんが新たな箱を発見!

 3人でスタスタ近寄って、気にせずがこっと箱を開けました。

 いや、最初は警戒してたけどね?

 魔物が出るかどうかとか、今更気にするのも馬鹿らしくなっちゃって。

 言ってみれば、アレです。慣れました。

 だから開けた宝箱が実は魔物でも、その対応も慣れたもの。

 開けた宝箱が、鳴きました。

「ろぶべをぼばば~!!」

 意味不明。

 これは魔物の言語? なのかな?

 だけど私達は、もう慌てることも騒ぐこともなく。

 こんな時の対応は、段々マニュアル化してきた感じです。

 流れ作業化するほど、魔物に遭遇したという事実に目も遠くなります。

 蓋を開けた途端に、食いついてこようとする宝箱。

 それに私は、

「ていっ」

 躊躇いなく、右手に準備していたタバスコの瓶を逆さにして中身叩っ込みました。

 

「○××△×◇……ッッ」


 そのまま即座に蓋を閉め、左右に控えていた勇者様とむぅちゃんが、

「そっち抑えろ、そっち!」

「こっちのロープの端、おねがい」

 強引に宝箱を縛り上げ、蓋が開かない様に抑え込みました。

 そのまま、箱とは思えぬ暴れぶりで身悶える魔物。

 5分、10分と待っていると、宝箱は憔悴した様に大人しくなりました。

 閉められた宝箱の端から、紫色の煙が…

「そろそろ良いかな?」

「リアンカ、そんなこてって首傾げても、今は可愛く見えない」

「あんな諸々の後だしな…」

「別に可愛さを狙うほど、あざといつもりはありませんよ?」

 雑談を口にしながら、宝箱のロープを解き、蓋を開けると…

 宝箱は虫の息。

 そのままろくな抵抗もできないまま、箱は天に召されました。

 後に残るのは、箱の残骸。

 中身の消えた箱。

 その中に手をずいっと突っ込み、中身をがさがさ漁りました。

 この箱魔物は、光り物や魔力を帯びた物を呑み込み、溜め込む習性があります。

 別に消化はされないので、死んだ後に漁ると手に入るという。

「あ、何か発見!」

「何があった?」

 出てきた物は、首飾りでした。

 何か物っ凄い禍々しい感じの。

「おおぅ…これは……」

「何か独特の空気発してるけど、誰か装備してみる?」

「いや、それはどう考えても装備できる物じゃないだろう…」

「どう見ても、呪いのアイテムだよね」

「そーですね。勇者様は特性的に無理っぽいかな?」

「ああ、勇者様って光属性だっけ」

「むぅちゃんはどう?」

「………僕を殺す気? 死ねって思ってる?」

「ううん、魔族の血を引くむぅちゃんなら大丈夫かなって」

「それ、偏見だからね?」

 禍々しい首飾りは、皆に敬遠されています。

 それでも何かに使えることもあるだろうと、持っていくことにしました。

 ただし、勇者様もむぅちゃんも凄まじく拒否ったので、私の荷物に仕舞い込みます。

 こんな感じで私の荷物には、どんどん使い道の解らない変な物が溜まっている訳ですが。

 …落ち着いたら、呪われたアイテム専門店に売り飛ばそうっと。

 脳裏に古い知り合いの営む個性的な店を思い浮かべ、1人うんうんと頷いていました。

 その時は分け前を勇者様やむぅちゃんにも渡さないと。

 でもただ金銭を渡すのも味気ないし、どうしようかな?

 そうだ、2人に何か贈り物をしよう。

 自分の思いつきに、にんまり笑って未来に楽しみが広がりました。

 鞄に叩き込んだ呪われた荷物の重さも気になりません。

 むしろ荷物が軽くなった様に感じて、足取りも軽くなります。

 多分傍目には怪しく見えたのでしょう。

 勇者様とむぅちゃんが、私のことを動揺の眼差しで見ていました。



 もうすぐ今日も終わってしまいそうな刻限。

 あれから更に1度、中ボス部屋へと挑みました。

 夜の散策は危険なので、程々にして野営しようかとも思いますが。

 簡易休憩所が、見当たりません。

「どうする? 休憩所があるところまで引き返すか?」

「でも、進行速度のペース的に、そろそろ次の休憩所があるかもだよ」

「ここで進むか戻るかの選択を迫られるとは思いませんでしたね」

 夕暮れに日は落ちて、私達の足下も段々暗くなっていきます。

 このまま此処で立ち往生という訳にもいきませんんし。

 私達は試しに、もうちょっと進んでみることにしました。

「まあ、最悪夜通し探索しても構いはしないけど」

「むぅちゃん、むぅちゃん、その場合インドア派のむぅちゃんが体力的に死ぬかも」

「リアンカ、半分魔族の僕を侮ってない? 僕よりもむしろリアンカが心配でしょ」

「どちらにしろ、俺としてはお前達が夜通し動くことに賛成しかねるんだが…」

「「勇者様、心配性ー」」

 私達は仲良く、日暮れ時であることも忘れてさっさか歩きます。

 焦っているのは勇者様のみ。

 田舎者の体力を舐めて貰っては困ります。

 まあ、非常時にそれを適応させて、後々困らないとも限らないですけど。

 先々に何が起こるか解らないので、きっと勇者様の懸念の方が正しいのでしょう。

 それでも勇者様にしてみれば、非常時こそが日常の私達ですから。

 結構楽観的に、何とかなる気がしていました。


 そんな私達の目の前に、立ち塞がる陰。

 無心で歩いている内に、気付けば結構奥まったところに来ていた様で。

 大きな陰の向こうに、金ぴかの立派な宝箱が輝いている。

 まるで内側から光る様な、輝き。

 あれは…

「…絶対、良い物が入ってるよね」

「うん。絶対」

 私とむぅちゃんが頷く横で、勇者様ががっくりと膝をついて脱力していました。

 驚愕の表情から次いで膝をつく一連の動作は流れる様な見事さで。

 そして勇者様に脱力させた元凶は、相も変わらず私達の前に立ち塞がっていて。

 立ち位置的に、彼等は宝箱の番人として此処に配置されているのでしょう。

 定位置から離れることなく、宝箱に近づく者を問答無用で追い払う為に。

 その為だけに、私達の前に立ち塞がったのは…

 ………どこかで見たような姿をしていました。

 あれは、そう、あの立派な巨体は。

 見間違えるはずがありません。


「………巨豚三兄弟か…!」


 3匹の巨豚が、そこにいました。


 まるでそう決まっているかの様な配置で、仁王立ちの巨豚。

 ええ、あれを見間違える人はいないでしょう。

 トンカツ・トンチキ・チキンカツの名を授かるポーク三兄弟がいるわけで。

 勇者様にしてみれば、ついこの間、試合ったばかりの相手でしょう。

 カーラスティンの双子が可愛がる、大きな魔獣の豚さん達です。

「なんで、なんで此処に来て此奴等が…!」

 余程驚いたのか、身の内に湧き上がる何かがあるのか。

 勇者様は膝をついたまま、がつがつと地面を殴っておいでです。

 言葉にできない何かを、地面にでもぶつけないとやっていられないのでしょう。

 巨豚三兄弟の額には、黒く太く「かーらすてぃん」の文字が書かれていました。

 これは誤って殺されない様、カーラスティンから出向している魔獣に共通で書かれた証です。

「なあ、リアンカ。なんで奴らが此処にいるんだろうな…」

 ああ、勇者様が真っ白です。

 だけど私は率直に、思ったままを言いました。

「運動不足の解消と餌代の節約兼ねた出稼ぎじゃないかな? 他の魔獣と同じく」

「確か魔獣達って迷宮内の魔物、食べて良いんだよね…?」

「エルフとの契約で、程々なら許可されているって」

「………元気、だね」

「ええ、元気そうですね、ポーク三兄弟」

 暑苦しい巨体の豚共は、ぷぎぷぎ鳴きながら体を揺らして威嚇してきます。

 それを目にして、ゆらりと勇者様が立ち上がりました。

「勇者様…?」

「ふふっ…相手をして貰いたいのなら、してやろうじゃないか」

 目が据わっていました。


 いきなり目の前に現れた、ポーク三兄弟。

 因縁と言うほどではないけれど、まあ因縁めいた物のある相手です。

 かつて殴り合った豚共との予想外の再会に、勇者様の何かがキレた様で。

 何がそんなに琴線に触れたのか。

 勇者様は剣を手に取り、豚を睨み付けます。

 その剣が鞘に入ったままであることを見るに、冷静さは残っているようです。

 だったら、まあ、問題はないかな?

「…一応、援護はしようか」

「いざとなったら勇者様を止める必要もありそうだしね」

 私とむぅちゃんも、ちょっと覚悟を決めて。

 どの道、中ボスに挑む為にも宝箱があればソレを確認する必要がある訳で。

 そして豚が宝箱を守っているのなら、豚を倒す必要もある訳で。

 私達は、豚を殴り倒す決意を固めました。



 まあ、それでも。

 勇者様にとっては1度は降した相手である訳で。

 その勝負の行方は、今から分かり切ったような物。

 最初に中ボス共と戦った時ほどの時間をかけず、勇者様は豚を沈めました。


 そうして開けた宝箱。

 中から出てきたのは…


「……鍵じゃない!」

「これ、なに?」


 真っ赤な宝玉の嵌った、銀の鏡が中から出てきました。

 鍵を期待していた私達は、ちょっとがっくり。

 だけどその鏡は神聖な気配を纏っていて…どこか、勇者様の気配にも似ていて。

 そのことから勇者様の保管となり、今日の探索は終わりました。




11/19 誤字訂正。

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