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7.ひのき

 (エサ)で釣っておいて引っかかったら蹴散らすという、悪質な魔族の遊び『狩り祭り』。

 それってむしろ狩りというより釣りの様な気がしないでもないけど。

 今回はなんと!

 魔族の中でも幸運の獣と呼ばれるカーバンクルの親子3人が捕獲されてしまったそうです。

 わあ、まぁちゃん超大変!

 どうやって取り戻すの!?

 …と、思ったけれど。

 何となく割と簡単に取り戻しそうな気がする。

 それも相手の多大な被害と引き替えに。

 そんな先が見えているので、あまり気分も盛り上がらない。

 何より、当事者一族の族長が平然としているから、尚更に。

 族長さんは、後何日かは余裕だって言います。

 根拠は?


「人間の兵士に捕まってしまいはしましたが、何せまだ相手国の領域内には入っていませんからねぇ。明後日には到着しそうですが。急げば護送中に奪還できますし、万一間に合わなくても到着とほぼ同時に行われるでしょう自慢と見栄の渦巻くお披露目の宴を襲撃すれば大丈夫でしょう」

「……………」

 どうやら捕まったカーバンクル3人の護送は、まだ完了していないみたい。

 でもこのまったりのんびり感はなんだろう。

 族長さん、自分の一族もっと必死になって守らないで良いの?

 疑問に思うけれど、口で責めてもこのゆったり感は改めないんでしょう。

 なんとなく、そんな気がしました。





 額の紅玉に、揃いの深紅の双眸。

 紅玉と長く垂れる耳が無ければ、エルフによく似ている。

 色白美人が多く、外見は草食動物のようなイメージがつきまとう。

 獣の姿であればなお小柄で。

 一見して大人しく臆病な獣と見間違えそうになる。

 優しく繊細な、その姿。

 だけど、彼らはカーバンクル。

 例えどんなに柔らかく、どんなに美しく、どんなに可愛らしくても。

 彼らは魔族の中の、一部族。

 額の紅玉と見目麗しさを狙った乱獲によって、数を減らし。

 元々の繁殖能力の低さで、魔族の中でも少数部族とならざるを得なかった。

 そんな彼らだけど。


 魔族の中でも珍しく儚げで、弱々しく虐げられる側。

 そんな風に、見えてしまうけれど。


 それでもやっぱり、彼らは魔族。

 根っからの戦闘好きの、戦闘民族に名を連ねている。

 彼らもまた戦士なのだと、私達はすぐに知ることとなりました。


 視覚的に。


「ふふふ。私達は見目麗しく幸運を呼ぶ希少種なので、密漁を狙う痴れ者がよく襲撃してくるのですよ。自衛手段はばっちりです」


 そう言って僅かに目を細める、えっちゃん。

 彼が指示して集めたという、カーバンクル一族の精鋭は…


 何というか、とても個性的な武装をしていた。


 カーバンクルの戦士の皆さんは、みんな何処かで見たようなシンプルな武装で。

 手に持つのはいずれも長い木製の物体。

 むしろ枝。

 荒削りなそれは、小枝を落としただけの枝にも見える。

 大きさは個人でそれぞれだけど。

 全ての木刀は一様に檜の良い匂いを漂わせていた。


 勇者様の渾身のツッコミが、石化の呪縛を破って飛び出した。

 あまりのその姿に、固まったままだった勇者様も耐えられなかったみたいで。


「何で全員、(ひのき)木刀(ぼう)装備なんだよっ!」


 うん、私もそこが気になった。


 そう、檜。檜の木刀。

 うん、本当になんだかすっごく見覚えがある。

 具体的に言うなら、なんだか昔から定期的に見てきたような…

 実例を挙げるのなら、ご先祖の廟で。

 

 中には物珍しくも殺傷力を上げる為にでしょうか。

 中途半端な深さで沢山の釘を打ちっぱなしにした物もあったけど。

 概ね全て、ご先祖の愛用武器に良く似せて作られていた。

 いや、木刀に似せるも何もないんですけどね?


「なんでみんな何の違和感も無さそうな顔で、その姿?」

 勇者様に真顔で詰め寄られ、同じく真顔の族長さんが断言する。

「何が問題だというのですか? これは魔境では伝統的な武装として、古くから魔族に愛されてきた武器ですよ。伝説の檜武人フラン・アルディークに(あやか)るこの武器が、魔境では超クールと大人気なのですから」

 族長さんは、真顔だった。

 脆く崩れそうな顔で、勇者様がぐりっと振り向く。

 その揺れる視線は、まぁちゃんに問いかけていた。

「…まぁ殿?」

「うん、マジ」

 こっくりと頷く、まぁちゃん。

 確かに、嘘じゃなかった。

 嘘じゃなかった、けど。

 実際、ネタ武器として魔境では時たま目にするけれど。

 それでも一族の戦士全体がコレ装備とか、初めて見るんですけど。

 恐るべし、カーバンクル。彼らはどこまで本気なんだろう。

 理解できないと感じたのか、勇者様の顔はどこか泣きそうだった。

「まあ勇者の気持ちもわからんではない。けど奴らは本気だ」

 諦めろとまぁちゃんが言うと、勇者様が頭を抱えてしまった。

 自分の配下の巫山戯(ふざけ)具合。

 まぁちゃんも流石に居心地が悪くなってきたのか。

 それとも勇者様を不憫に思ったのか。

 苦く笑って、フォローを入れ始めた。

「彼奴ら、いざってなると獣姿になることがあるからさ。先にも言ったが、彼奴ら獣姿の方が素早くってよ。だけど前足じゃ武器は掴めねーだろ? だから使い捨てできる気軽な武器が好きなんだと。ひのきのぼうだったら、その辺に投げ捨てても心痛まねーだろ」

「そんな事情が…」

「奴らは武器に執着しない。だから武器はあれで良い。わかるな?」

「確かに、値の張る武器だったらいざという時に捨て置くにも躊躇いが出るな。そうか、そう言う考え方なのか…」

 あーあ、勇者様が言いくるめられた。

 まぁちゃん、巧いこと言ってるけど…。

 でも、私は知ってるよ?

 獣人や魔族がよく使う、個人専用に誂えた魔法の武器のこと。

 獣になろうが変型しようが、その時その時の姿に合わせて勝手に自動調整。

 時と場合に応じて、勝手に主に合わせて姿を変えてくれる武器があるってこと…!

 これ多分、カーバンクルの人達が面倒がってるだけでしょ。

 自動でサイズや形状が変わる武器を作るの面倒だっただけでしょ。

 それでも何にしたって、檜の木刀とか投げ槍すぎだと思います。


 心の叫びを声にしたい。

 そんな欲求も湧き上がったけれど。

 折角勇者様が納得しているんだからと。

 私は苦しい思いで心の叫びを飲み込んだ。

 なんだか、大きなビー玉でも飲み込んだ気がした。


 


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