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転生するならチートにしてくれ!─ご令嬢はシスコン兄貴─  作者: シギノロク
四章 十四歳、田舎生活謳歌してます。
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26.広場に戻ると

 広場に戻るとそこは人で溢れ返っていた。

 人が多すぎてなかなか前に進まない。

 気づけば憲兵たちとも離れ離れになってしまったようだ。


 とりあえず、まだ何も起きていないようだ。

 今はとにかく、アントニスと合流しよう。

 話はそれからだ。

 アントニスはいいとしても、ミラとミモザの安否が気になった。

 俺は焦る気持ちを押さえながら、辺りを見回した。


 クソ。こんなときに限ってなかなか見つからない。

 アントニスの奴、体が大きいからすぐに見つかると思ったのに。

 何処にあの巨体を隠した、アントニス!


「アル!」

 アルファルドの声がした。

 振り返ると、揉みくちゃになりながら俺のドレスの裾を必死で掴むアルファルドの姿があった。

 一つに結んでいたはずの綺麗な銀の長髪は解け、ぐちゃぐちゃになっている。


「すごい人混みだな。何か催し物でもあるのかい?」

 アルファルドの後ろの方からレグルスの声がした。

 呑気な奴だ。

 あの叫び声を聞いていなかったのか?

 俺は呆れてため息を吐いた。


 人出が多いに越したことはない。

 説明してやるか。

 しかし、ここは騒がしくて話すのにはふさわしくない。

 俺は辺りを見回した。


「二人に話したいことがあります」

 俺はそう言うとアルファルドの手を掴んだ。

 引っ張ると、ずるっと芋づる式にレグルスと護衛のディオンとエリックがくっついてくる。

 お前ら男同士で仲良くお手手を繋いでいたのかよ。

 確かに迷子にならないようにするのには効果的だろうが、それは恥ずかしいだろ。


 俺は笑いを堪えながら足早に場所を移動する。

 人混みを避けながら、やっとのことで話ができそうな、比較的人がいない場所に辿り着く。


「で、話したいことってなんだい?」

 レグルスの言葉にアルファルドが頷く。

 レグルスたちの後ろに立っていたディオンとエリックは話についていけないようで、きょとんと首を傾げた。


「大変なんです。野盗が紛れ込んでいるんです」

 俺は声を低くしてそう言った。


「野盗!?」

 ディオンが大声を出す。


「馬鹿!」

 俺が突っ込むより早く、エリックがディオンの頭を思い切り殴った。

 痛そうだが、エリックの判断は間違っていない。

 態々声を低くした意味がないじゃないか。

 俺は舌打ちしそうになるのを堪える。


「そうです。野盗がこの中に民のふりをして紛れ込んでいるのです。しかし、彼らも元はこの国の、レグルス様たちの庇護を受けてきた民なのです。わたくしは彼らを救いたい。これ以上罪を重ねるようなことをさせない為に止めたいんです」

 俺は早口でそう言った。


 時間がない。

 いつ、アイツらが行動に出るか分からない。

 いや、もしかしたら、気づいていないだけで、もう何人も襲われているかもしれない。


「そうか。分かった」

 レグルスは即答した。


「何をしたらいい?」

 アルファルドも頷く。


 何をしたらいいか。

 難しい質問だ。

 敵はどんな恰好をしているかも分からない。

 どうやって見つけ出したらいいんだ。


「この人混みだ。おそらく、相手も動きにくいはず。となれば、まずは今の俺たちみたいに動きやすいところに行くはずだ。それから、奴らはあの化け物の着ぐるみ連中と一緒だったわけだから、匂いが頼りになると思う。もっとも、この人混みだから匂いは薄れている可能性もあるけど」

「匂い?」

「ええ、野盗の仲間はとっても臭い匂いの毛皮を纏っていました。あの匂いは強烈で、腐った肉の匂いがしました。そういう方と一緒にいたわけですからきっとその匂いがするはずです。もしも、腐った肉の匂いがしたら、間違いなく野盗です。捕まえてやってください!」


「そうですか。分かりました」

「では、手始めに広場の端や物陰になりそうなところから攻めましょうか」

 エリックとディオンは頷く。

 ディオンの奴、漸くお仕事モードになったようだ。

 真面目な顔で地図を取り出す。


 俺たちは地図を広げると、物陰になりそうな部分を指摘し合う。


「それから、誰か高いところに登ってくれないかな?」

 リゲルは空を指す。


「なるほど、上からも怪しい奴を探すということか」

 レグルスは頷くと、一人一人の顔を見た。

 どうやら、誰を高いところに登らせるか考えているらしい。


「アルが一番適切」

「そうだな。下で動き回るよりは危なくないだろうし、ここの土地はわたしたちよりアルキオーネの方がよく知ってるはずだ。怪しい奴もすぐに見つけられそうだ」

「じゃあ、アルキオーネ、お願いするね」

 どうやら男三人は俺をご指名のようだ。


 俺だって男で動けるのに。

 そう思うが、心は男でも体は女だ。

 しかも、元は病弱なご令嬢。

 三人が心配してそう言うのも無理はない。


「分かりました。それなら、わたくし、花火のようなものを打ち上げる魔法を覚えたばかりなんです。それを使って下に指示を出します」

「よろしく頼むよ」

 リゲルは頷く。


 でも、それをやる前に気になることがある。

 アントニスたちはまだ見つかっていないのだ。

 先に安否を確認したい。


「あの、その前にミラとミモザの安否を確認してもいいですか? アントニスのことだから大丈夫だと思いますが、ミモザは……」

 はっとして口を抑える。


 俺は「ミモザは以前、捕まったことがあるから心配だ」と言いかけたところだった。

 まずい。これはバレちゃいけないことだった。

 レグルスに隠していたことがバレたら何か言われるに違いない。

 それにお母様やメリーナにバレるリスクが高くなる。

 何とか隠さなければならない。


「あ、嗚呼! ミモザはやんちゃだからね、木登りしたり、家出したり、普通のご令嬢とは少し違うものね。心配だよね!」

 リゲルもヤバいと思ったのか、慌ててフォローをしてくれる。

 この中で一番俺の秘密を知っているのはリゲルだった。

 流石はリゲル。お前が友で本当によかった。


「そう、そうなんです。ミモザといえば、わたくしにとっては妹のような存在です。心配なんです!」

 俺も首振り人形さながらに首を何度も振った。


「アルキオーネは本当に優しいな」

 レグルスは感心したようにしみじみと呟く。

 よし、レグルスはごまかせたようだ。


 しかし、アルファルドは訝しむように俺たちをじっと見つめた。

 お前はもう少しレグルスのように素直になってもいいんじゃないかな?

 俺は冷や汗をかきながら唾を飲み込む。


「あ、アルキオーネ! ミモザのことなら上から見た方が見つけやすいと思うんだ! 心配なら早く言った方がいいよ」

 リゲルは俺の背中を押した。


「そ、そうですね! 確かにその方が効率がいいかもしれません」


「怪しい……」

 アルファルドが呟く。


「では、皆様、よろしくお願いしますよ!」

 俺はそう叫ぶと、皆が声を発する前に走り出した。


 高いところ、高いところ。

 広場の全てが見渡れそうなところがいいよな。

 空を見上げながら高いところを探す。


 あれだ!

 俺は広場の中心に建てられた櫓に向かって走り出した。

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