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転生するならチートにしてくれ!─ご令嬢はシスコン兄貴─  作者: シギノロク
四章 十四歳、田舎生活謳歌してます。
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5.薔薇摘み

 さて、朝が来た。

 今日はミモザとジャムづくりをする。


 アントニスが大きな欠伸をしているのが見えた。

 無理もない。

 俺とミモザはいつもより随分と早起きをした。

 当然、護衛のアントニスもそれに合わせて早く目覚めなければならなかったのだから。


 何故、俺たちがこんなに早く起きなければならなかったのか。

 それは薔薇の花を摘むためだった。

 薔薇は早朝が一番匂いがいいと言われているらしい。

 この時間に摘んだらばっちり美味しいものができるはずだ。


 薄暗かった辺りは徐々に明るくなってくる。

 遠くを見ると、紗がかかったようにぼやけた輪郭の森が映った。朝靄だ。

 俺は手元に目を落とす。

 じっと目を凝らすと、黄色の薔薇が棘の一つ一つまで見える。

 作業は十分出来そうだ。


 薔薇の甘い香りに包まれながら、俺達は花を摘んだ。


「久しぶりに早起きをしたわ。お兄様はしょっちゅう早起きなんだけど……」

 ミモザは発色のよい鮮やかなピンクの薔薇を手に取りながら、呟く。


「嗚呼、そういえばリゲルは早起きらしいですね」

 俺は黄色の薔薇を選びながら花を摘む。

 同じものを作っても面白くない。

 どうせなら今回はほんの少しオレンジを入れて爽やかな味にしたいと考えていた。

 だから、色もオレンジに合わせて黄色っぽいものを選んでいるというわけ。


「そう。お兄様は毎朝、走るの。朝の散歩なんて言ってるけど、あれは散歩じゃなくでマラソンだわ」

「リゲルらしいですね」

「一度、興味があって一緒に行ってみたけど、早いのなんの。直ぐについていくのを諦めたわ」


 体力馬鹿のリゲルらしいエピソードだ。

 俺はくすりと笑う。


「お姉様も、体を鍛えるのがお好きなんでしょう?」

「わたくしの場合は病弱を克服するためのものなのでリゲルほどではありませんね」

「じゃあ、お姉様となら私もきっと散歩ができるわね」

「リゲル流の散歩? それとも普通の散歩?」

「どちらもよ! 私も誘拐事件があったから体を鍛えようと思って、普通の散歩からはじめてるの」

「そうですね。急に走ると膝に負担がかかるとか言われますもの。最初は散歩か軽いジョギングぐらいがいいのかもしれません」


 俺がそう言うと、ミモザはむっとした顔をする。

「そう、そうよね。でも……」

 何だか歯切れの悪い言い方だ。


「何かあるんですか?」

「いや、あの……お姉様と、一緒に散歩とかお出かけとか行けたらなぁって」

 ミモザはもじもじと下を向く。


 なるほど、今の会話はそういうことか。

 俺をお出かけに誘いたかったんだな。


「いいですよ」

 俺は頷く。


 俺があっさりと了承すると思っていなかったのか、ミモザは驚いたような表情をした。

「本当に?」

 そして、嬉しそうに破顔する。

 そんなに嬉しそうな顔をするなんてお前はどんだけ俺と仲良くなりたかったんだよ。

 俺はなんだか照れくさいような気持ちになる。


 でも、勘違いしてはいけない。

 ミモザが好きなのはアルファルドなのだから。


「そんなに嬉しいんですか?」

「ええ、勿論よ。 昨日、二人きりでたくさんお話したでしょう? あれがすごく楽しくて……他にも色々とやってみたいなって」

「それなら、お友だちと一緒に行けばいいでしょう?」

「お友だち?」

「ええ。ミモザ様の周りにはたくさんのご令嬢がいらっしゃるでしょう?」


 俺は参加してきた舞踏会や晩餐会、お茶会など様々なパーティを思い出す。

 男にモテるミラや、何となく遠巻きに見られている俺と対照的に、どれもミモザの周りには同じ年頃のご令嬢がたくさんいたはずだった。


「あれを友だちと呼べるのかしら?」

 ミモザは渋い顔をして、真っ赤な薔薇の首を鋏で落とす。

 冷ややかな音が響いた。


「違うんですか?」

「お兄様に近づきたくて仕方ないくせに私にやり込められるのが怖くて媚びへつらうようなあれをお友だちと呼んでもいいのならね」

 俺から目を背け、薔薇を見つめるミモザの瞳には敵意が宿っていた。


 なるほど、と俺は頷く。


 お兄様ことリゲルはジェード侯爵の長男であるのに婚約者がいない。

 ミモザが徹底的に叩きのめしたからだ。


 若く、顔もよく、今後が約束された彼の婚約者になりたいと思うご令嬢も多いはず。

 しかし、それにはミモザと言う壁が大きく立ち塞がる。

 臆することなく立ち向かう者もいるらしいが、未だミモザに勝ったご令嬢はいない。

 どうにかミモザを懐柔し、上手くリゲルに近づこうとするご令嬢がいてもおかしくはないだろう。


「それじゃあ、あの方たちはお友だちではないということですか?」

「そうね。ある意味、同志だけど、お友だちではないわ」

「同志?」


「そう。お兄様を害虫から守る同志。でも、お兄様を狙う害虫にもなりかねないの。信用ならないわ」

 ミモザはそう言うと、また薔薇の首を落とした。


「それなのに、ミモザ様はよくわたくしを信頼してくださいますね。あんなに毛嫌いしていたのに」


 俺はリゲルの家に行き始めたころのミモザを思い出していた。

 あのころのミモザは俺を「阿婆擦れ」と呼んでいた。

 それを巡って、リゲルとミモザが喧嘩をしたり、ミモザと俺がバトルになったりした。

 あのころを考えると、ミモザはよく俺に懐いてくれていると思う。


「それは!」

 ミモザは顔を上げた。


「それは?」


 ミモザは少しばつが悪いような表情をする。

 が、頭を振った。


「お姉様が私に怒ったことがあったでしょう?」

「嗚呼、レグルス様に不敬を働くのはやめなさいとか、ジェード家に泥を塗るような発言は差し控えなさいとか言ったような記憶があります」

「その後に、自分の気持ちに正直になって、ちゃんとお兄様に伝えなさいって言ってくれたでしょう?」


 俺は首を傾げた。

 そんなこと言ったんだっけ?


「最初はあれが引っかかったの。今まで色々なお兄様の婚約者候補やお兄様の女友だちを排除してきたわ。どんな人でも最後には泣いて喚いて私やお兄様のことを罵った。でも、あんなことを言う人いなかった。なんで、私の不安な気持ちが分かるのって思った。でも、絶対、お姉様のことを認めたくなかったの。認めたら、お兄様が離れてしまう気がして……」


「リゲルはミモザ様から離れたりしません! 兄は妹を嫌いになれないんです!」

 特に俺やリゲルのようなシスコンは絶対に妹を見放したりしない。

 どんなに悪いことをしていても、叱ることはあっても、絶対に妹を守ろうとするはずだ。


「そう、それ。決定的だったのは、私が誘拐されたとき。お姉様はそう言って抱きしめてくれた。それから、不安な気持ちを伝えようってもう一回言ってくれた。それだけですごく安心したの。お姉様を信頼するのはその辺が理由かしら」

 ミモザは笑う。

 

「そんなことで?」

「そんなことでも私は感動したのよ。もう、私に友だちがいないことはどうでもいいでしょ? 早くお出かけの計画を立てましょう」

 ミモザは顔を膨らました。


「そうでした」

 俺は本題を忘れるところだった。


 俺は自分の籠に目を落とす。

 薔薇でいっぱいになりつつある。

 これだけあれば十分だろう。


 ミモザの籠の方も赤やピンクの薔薇でいっぱいだ。


「じゃあ、お出かけの計画はジャムを作りながらでもしましょう?」


 俺に言葉にミモザは頷いた。

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