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俺の考えたデタラメな都市伝説を信じる美少女後輩に懐かれてしまった  作者: 鹿ノ倉いるか


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8.悪くない回答

「別に同情を求めてもいいだろ? お前の中では一応俺は友達なんだろ? 友達には取り繕わずに素の姿を見せればいいんだよ」


「その言い方だと先輩は私のことを友達だと思ってないんですね?」


 雪緒は不服そうに俺を睨む。


「分かった分かった。俺も友達だと思ってるよ、面倒くさい奴だな」


 友情の押し売りをされ、仕方なく友達と認める。


「そっか。友達かぁ。えへへ」


 雪緒は照れくさそうに笑い出す。


「なんだよ、急に笑って。気持ち悪い」


「はじめての友達なんで、うれしくて」


「はじめての友達!? 嘘だろ。あ、茨城に引っ越してからって意味か」


「違いますよ。人生初の友達です」


「そんなわけあるか。十五年間何してたんだよ」


「だから体操してたんですよ。放課後はほぼ毎日練習してましたから、遊ぶ時間なんてありませんでした」


「放課後じゃなくても学校で友達と遊ぶだろ」


「そうですけど、それって友達というよりクラスメイトって感じじゃないですか? それにあんまりゲームとか動画を観ることもなかったんで話題についていけなかったですし」


 雪緒の中で友達っていうのはなかなかハードルが高いようだ。

 俺はなんとなく学校で会話している奴らも全て友達とカウントしていた。


「だったら体操教室の仲間がいるだろ。その子たちとは放課後毎日のように会っていたんだから友達だ。話題も体操のことで合うんだろうし」


「体操教室の子たちなんてもっとも友達から遠い存在です。体操は個人競技だからみんなライバルです。切磋琢磨しあいますが、心から仲良くするなんてあり得ません。ましてや弱みなんて見せられるわけがありません」


「そんなこと言ったって、一人くらいはいただろ、友達」


「もうっ。なんで先輩はそんなに私の初の友達になるのが嫌なんですか? 名誉ある友達第一号なんですから喜んで受け入れてください」


「はいはい。分かったよ。雪緒様のはじめての友人で感謝します」


 恭しく頭を下げる。

 俺の対応に満足したのか雪緒は「よろしい」と頷く。


「そんなわけでこれまでの人生が虚しくなった私は、体操をきっぱり辞めたんです。せっかくここまで頑張ってきたのにと引き留めるコーチや、体操辞めるなんてもったいないという知り合いが面倒くさくて、知り合いがいないこっちへ引っ越してきたってわけです」


「ずいぶんと思い切ったな。せっかくこれまでやってきたのに辞めなくてもいいんじゃないのか?」


「そんなこといって続けて、また大切なところで全て無駄になったら嫌じゃないですか。片手間でやるんじゃないんですよ。人生をフルベットしてやるわけですから」


「まあ、それもそうか。しかしそんなに簡単に引っ越せるものなのか? 親の仕事とかあるだろ」


「ここは父の故郷なんです。実家が商売してまして、前から跡を継ぐために引っ越そうって話になっていました。ただ私の学校や体操のことを考えて、なかなか引っ越せなかったっていう事情があったんです」


「へぇ。なるほどな」


「せっかく体操を辞めたんだから、これからはこの土地でやりたいことをやりたいようにやろうって決めました」


「やりたいことってその左がミドルボブで右がショートカットっていう不思議な髪型のことか?」


 部活が終わったら髪を伸ばしたいとかカラーリングしたいっていうのは女子の定番だ。

 まあこんな変な髪型にしたいって人はいないだろうけど。


「いえ、これはいわばバリアというか予告というか」 


「どういう意味?」


「好きなことを好きなようにやる個性的な人ですよーってアピールです。タトゥー入れて怖い人ですよーってみんなにアピールするのと同じ原理ですね」


「別にタトゥーはそんな威嚇目的じゃなくてファッションで入れてる人も多いだろ」


 まあ失礼な例え話は置いておいて、言わんとしてることは少し理解できる。

 実際俺もはじめて見たときは髪型からして絶対変わった子なんだろうって思った。


「まあそんな理由で始めたんですけど、今は意外と気に入ってるんですよね、このヘアスタイル」


 雪緒は笑いながら頭をブンブンとする。

 左側のミドルボブだけがワサワサと揺れていた。


「まあ雪緒が変わっている理由は分かった。それで七つの試練に挑んで叶えたい夢っていうのは?」


「気になります?」


 雪緒はブランコのチェーンを握り、身を乗り出し気味にして俺の目を見る。


「別に気にはならない。訊いて欲しそうだったから訊いただけだ」


「今日はここまで。続きは次の機会です」


 そう言うと雪緒はキコキコと緩やかにブランコを漕ぎ、月を見上げる。


「私が話したんだから次は先輩も自分のことについて話してください」


「はあ? お前が勝手に話したんだろ?」


「少しだけでもいいですから。教えてくださいよ。友達なんですから」


「名前は椿本凛之介だ」


「それは知ってます。他のをお願いします」


「面倒くさいなぁ……そうだなぁ。家族は俺とお母さんの二人暮らしだ」


 俺は雪緒を試すためにそう伝えた。

「お父さんはいないんですか?」とか無神経なことを言ったり、「立ち入ったこと聞いてしまってすいませんでした」とか腫れ物に触れたようなリアクションをしたら二度と雪緒とは関わらないつもりだった。


 雪緒は驚いたように一瞬ピクッと目を大きくした。


「どうした?」


「ひとりっ子だったなんて意外です。絶対年の離れた妹さんがいると思ってました」


「え? なんで?」


 意外過ぎる反応に俺のほうが驚く。


「だって優しいし、なんか『お兄ちゃん』って感じですから」


「そうかな?」


 悔しいが悪くない反応だった。

 仕方ないからもう少し雪緒と付き合ってやるか、と心の中でため息をつく。





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