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俺の考えたデタラメな都市伝説を信じる美少女後輩に懐かれてしまった  作者: 鹿ノ倉いるか


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7.雪緒の挫折

「俺があれこれ訊かないのは、自分も聞かれたくないからだ。訊いたら絶対訊き返してくるだろ」


「自分のことを人に知られたくないってことですか?」


 そう訊かれ、俺は改めてなんでなんだろうと胸の中で自問してみた。


「うーん……まあ、知ってもらえるのはいいかな。けれど見当違いな解釈をされてレッテルを貼らるのは嫌だ。って、何言ってるのか分からないだろうけど」


「分かります。たとえば友達がいないと言っただけなのに、孤独で寂しい人と決めつけられるのが嫌ってことですよね」


 意外とこちらが言わんとすることを雪緒が理解していることに少し驚く。


「その通り。そういう意味だ。孤独が好きでわざと一人でいる場合もあるのにな」


「でもそのために話し合うんじゃないですか? ゆっくりと時間をかけて話せばそういった誤解もなくなると思います」


「めんどくさいだろ。なんでそこまでして他人と分かり合わなきゃいけないんだよ。一人ひとりと話し合って、全員と分かり合わなきゃいけないのか? それに時間をかけたって分かり合えない人もいる。孤独が好きと言ったところで強がってるだけと思う人とは、いくら話し合ったってわかり合えないだろ?」


 そう言うと雪緒は大きく頷いた。


「やっぱり先輩は私が期待した通りの人です。あれこれ訊いてこないので、気が合いそうだなって思ってました」


「えっ……そうなのか?」


 まさか関わりたくなくて無関心を貫いたことが懐かれた理由だとは思わなかった。

 雪緒と関わらなくするためには積極的に関わろうとすることが正解だったようだ。

 ってわかるかよ、そんなこと。初見殺しすぎるだろ。


「俺はちっとも気が合いそうだとは思わなかったけどな」


「そう。そんなところがいいんです」


「雪緒ってドM?」


「じゃあ今日は特別に私の秘密についてお話してあげましょう。ゆっくり話し合えばきっと分かり合えますよ、私たち」


 俺の言葉など無視して、雪緒は勝手に話し始める。

 本当にマイペースが過ぎる。


「私は中学まで東京で暮らしてました。父と母、そして私の三人家族です。身体を動かすことが好きな私は、幼いころから体操をしてました。親やコーチに褒められるのがうれしくて、どんどん上達していったんです」


 雪緒ほ再びキコキコと音を立てながらブランコを漕ぎ出す。


「ごめん。幼なじみから雪緒のことを聞いて、その辺のことは知ってる」


「へぇ、そうなんですか。ありがとうございます。私を『知りたい』って思ってくださったんですね」


 雪緒らしいポジティブさはあえて否定せず、あいまいに笑顔を作っておく。


「私は小学生に入学するころには前転やバク転まで出来るようになり、この子は天才なんじゃないかと親は喜びました。忙しい両親だったんですが、時間を作っては練習や大会に顔を出してくれて。それがうれしくてますます練習したんです。健気で可愛くないですか?」


「可愛いかどうかは聞く側が判断することだ」


「小学三年生になったら満を持して大会に出場したんです。でも世界は広いんですね。優勝どころか入賞の八位までにも入れなかったんです。ずっと天才だとか褒められてきたんで、ショックでした。帰り道はずっと泣いてましたね」


 自信があって、精一杯努力したが届かなかった。

 俺はそんな悔しさを経験したことがない。

 俺の知らない類の涙だと思った。


「でもそこで折れないのが私の長所です。更に練習を重ね、難しい技も覚え、一つひとつの動きもより丁寧に美しくなるように磨きました。おかげで大会での成績は目に見えて上がっていき、五年生で区の大会初優勝。そこから優勝することが多くなり、六年生の時には全国大会で優勝を果たしました」


「全国大会で優勝!? それは凄いな」


「まあ運も良かったんです。両親も喜んでくれて、将来はオリンピックだなんて騒いでました。もっともうちの両親は私が四歳ではじめて逆上がりしたときから『将来はオリンピックだ』とか言ってましたけど」


「全国大会で優勝したのなら実際オリンピックも夢物語じゃないだろ」


「小学生のジュニア選手権ですよ。オリンピックはまだまだ遠いです。中学に入ってからも体操漬けの毎日でした。二年生ながら私の演技は高く評価され、その年の優勝候補の一人に挙げられました。この勢いのまま優勝しなければと私も気合が入っていたんです。ところが」


 そこで雪緒は躊躇ったように一度言葉を切った。

 チラッとその横顔を見ると、彼女は慌てたように笑顔を作って俺を見た。


「平均台の競技の途中で落ちてしまったんです。その際足首を痛めてしまいまして。大会はそこで棄権しました。両親もコーチも慰めてくれましたが、私は大泣きしました。当然ながら大会は私が棄権したあとも続き、ずっと競っていたライバルの子が優勝しました。彼女は雑誌でインタビューを受け、ニューヒロイン誕生とか騒がれ、ほんの僅かですがテレビのニュースにも映りました」


 雪緒はオチのある話をしているかのようにニコニコとしていた。


「そのニュースを観ているとき、プツンと何かが心の中で切れたんですよね。友だちと遊ぶことを捨て、勉強もおろそかにして、ときには学校行事も犠牲にして体操をしてきたのに、大会本番でちょっとミスをしたら全て無駄になるんだって。それまでの人生のほぼすべてを捧げた結果がこれなのかって。悲しいを通り越して虚しくなってきました。で、もう体操なんて辞めようって急に思い立ったってわけです」


 雪緒はここが笑いどころと言わんばかりにおどけた声を出して俺を見る。

 その姿を見て、怒りと悲しみがこみ上げた。


「笑いながら話すなよ、そんなこと。俺は『努力は無駄にはならない』なんて知ったようなことは言えない。結果を求めてしてきたことが、一度の失敗で終わったんだから、少なくともある程度は無駄になったんだと思う。それは笑いながら人に話すことじゃない」


 そう言うと雪緒は笑みを消して、俺を見た。


「だって笑うしかないじゃないですか。悲しそうに話したら同情を強要してるみたいで」


 平静を装っているが、震える声が雪緒の感情の高ぶりを表していた。





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