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俺の考えたデタラメな都市伝説を信じる美少女後輩に懐かれてしまった  作者: 鹿ノ倉いるか


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6.お化け墓地の試練

────

──


今日も雪緒の投げた小石はぽちゃんと虚しく泉に波紋を広げる。


「あー、外れちゃいました」


「このままだと泉が小石で埋まりそうだな」


「あ、なるほど。泉が埋まったら近づけるから小石を三つ乗せるのも簡単ですね」


「嫌味が通じないくらいポジティブなのは雪緒の長所だな」


「ありがとうございます」


「褒めてねぇよ」


小石を泉に投げ入れたあとは、二人で神社の掃除をする。

罰当たりなことをしてるので、せめて善行を積み、プラマイゼロに持っていくためだ。


「そうだ、先輩。今夜暇ですか?」


「まぁ暇って言えば暇だけど」


「一緒にお化け墓地の試練をしませんか?」


「そう言えば今夜用事があったのを思い出した」


「絶対嘘ですよね?」


雪緒は疑わしそうに目を細めて俺を見る。


「いい加減諦めろって」


「いいえ。そうはいきません」


「そもそもお化け墓地の場所も知らないんだろ?」


そう訊ねると雪緒は不敵にニヤリと笑う。


「それが分かったんです。昨日公園にいた小学生に聞いたんです」


「高校生にもなってそんなことするな。恥ずかしい」


「願いを叶えてもらうためです。なりふり構っていられません」


雪緒は本気であんな伝説を信じているのだろうか?

いや、まさかそれはないだろう。

さすがにふざけて盛り上がっているだけだと信じたい。


「そもそもあの試練は一人でやるものだ。誰かと一緒では意味がない」


「お墓の前まででいいので一緒に来てくださいよぉ、先輩」


雪緒はウルウルした目で俺の腕を掴む。

まったく変な奴に懐かれてしまったものだ……



午後九時十分。

俺と雪緒は通称『お化け墓地』にやって来ていた。

こんな失礼な二つ名はもちろん小学生が考え、小学生たちの間のみで広まったものである。


誰かがここでお化けを見たと言い、後追いで色んな子どもが自分も見たと騒いだことでお化け墓地と呼ばれるようになったらしい。


恐らく初めにお化けを見た言った奴も、そこまでその蔑称が広がるとは思っていなかったのだろう。

そいつはきっと今もどこかで元気にやっていて、自分が広げた馬鹿げた流言が風化して消えてくれるのを願っていることだろう。俺と同じように。


「お化けって恨めしや系でしょうか? それとも襲いかかってくる系なんでしょうか?」


雪緒は俺の背後に隠れ、怯えた目をして暗闇に沈む墓地を見詰めていた。


「そりゃこんな和風の墓地なんだから恨めしや系じゃないのか? 知らないけど」


「そっち系は苦手なんですよね……」


「じゃあやめとけよ。罰当たりなことだし、無理してやることでもないだろ」


「いえ、やります」


雪緒は屈んで石を拾い、立ち上がる。


小石を墓地の一番奥にある木の下において帰ってくるというのがこのミッションだ。

正直他の試練に比べれば楽な方だろう。


「じゃあ行ってきます。あー、緊張するなぁ……」


「言っとくけど墓地は走るなよ。あと大きな声は出すな。周りに民家はないけど、非常識だから」


「分かってます。それより絶対先に帰らないでくださいよ、先輩」


「待っててやるよ。でも早くしろよ」


「了解です」


雪緒は懐中電灯片手に墓地へと入っていく。

あまりに怯えすぎて、ライトの灯りが人魂のように揺れていた。


俺の言いつけ通り、悲鳴は聞こえてこない。

しかし十分経っても雪緒は戻ってこなかった。

さほど広い墓地でもないので、ゆっくり歩いてももう帰ってきてるはずだ。

どこかで恐怖のあまり蹲っているのかもしれない。

でもそれにしては悲声も聞こえない。


「やれやれ……」


ルール違反だが探しに行ってやるか。

そう思って墓地に近づいた瞬間、雪緒が全速力で駆けてきた。


「きゃあああー!」


「ど、どうしたんだ!?」


「い、行きましょう、先輩! 帰りますよぉおお!」


雪緒は俺の手を握り、そのまま走る。


「お、おい、待てって」


雪緒は久々に散歩に連れて行ってもらう犬のようにグイグイと俺の手を引っ張り駆けていく。

墓地のある丘から降りきったところにある公園でようやく雪緒は止まった。

全速力で走ったから雪緒はぜぇぜぇと苦しそうに息を切らしていた。


「どうしたんだよ」


俺も息を切らしながら訊ねると、雪緒は真っ青な顔で首を横に振っていた。


「お化けが出たんです。ふわーって木の下に浮かんでました」


「それはたぶん木の枝だろ」


「そんなんじゃないですって。本当に幽霊がいたんですってば」


「はいはい。それで石は置いてきたのか?」


「それは何とかしてきました」


雪緒はゼェゼェ言いながら親指を立てる。


「それはよかったな」


「途中怖くて動けなくなってしゃがんでたんですけど、覚悟を決めて一番奥まで行きました」


なるほど。

それであんなに遅かったのか。


「ちょっと休憩しましょう」


雪緒はブランコに腰掛け、ゆらゆらしながら呼吸を整えていた。

俺も隣に座り、息を整えながら夜空を見上げる。

雪緒も俺につられるように夜空を見上げた。


「先輩って訊いてこないですよね」


「なにを?」


「何もかもです」


雪緒がブランコの揺れを止めると、キイッという錆びた金属音が鳴った。


「私がなぜこんな変な髪型なのかも、なんでパルクールがあんなに上手いのかも、どうして友達がいないのかも、なんの願いを叶えたくて七つの試練にチャレンジしているのかも。何もかも訊いてきません」


「まぁ友達がいないのは訊かなくても理由がわかるからな」


「なんですか、それ。ひどいです」


雪緒はムッとしながら俺を睨む。



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