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俺の考えたデタラメな都市伝説を信じる美少女後輩に懐かれてしまった  作者: 鹿ノ倉いるか


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47.恥ずかしい話の代行

「それで買い物途中でどんなことを思いついたんだ?」


「はい。まずボールが左側、つまり奥の方へ弾かれることが多い気がするんです。だからまずは右側から狙っていこうかなと」


「なるほど。いいかもしれない」


「それとこのスマートボールは穴が十六個なので、ど真ん中というものがありません。斜めというのは偶然にできたらいいくらいで、基本は上から横ラインを狙っていく作戦です」


「ほうほう。いいんじゃないか」


 本当にいいのかは分からない。

 しかし作戦が良かったから揃ったということにしておけば、入りやすくなったこともバレづらいかもしれないと考えた。


 シュークリームを食べ終えた雪緒はさっそくスマートボールを開始する。

 俺の釘の調整がうまくいったらしく、先ほどよりは穴に入りやすくなっていた。

 とはいえ不自然なほど入るわけでもなく、一回目の挑戦では二ラインが揃うというところで終わった。


「あー、惜しかったです。シュークリームのパワー、エグいですね」


「そ、そうだろ」


「次こそは決めます」


「おっと。その前に恥ずかしい告白をしてもらおうか」


「えー? もうないですよ」


「自分で何かペナルティが欲しいって決めたルールだろ。守らないと」


「うーん……そうですねぇ」


 雪緒は視線を遠くに向けて思案顔になる。

「実は今好きな人がいるんです」などと言って遠回しに俺のことを言ってくれるような展開をちょっと期待していた。

 しかし雪緒の口から出てきたのは到底それとはほど遠い話だった。


「本当は病気が怖いんですよね、私。次いつ寝ちゃうんだろう、目を覚ませるのかなとか、本当はびくびくしてるんです。恥ずかしいですよね」


 雪緒は無理に笑顔を作りながらそう呟いた。


「それは……」


「はい、恥ずかしい話をしましたよ。球を貸してください」


「駄目だ。それは恥ずかしい話じゃない。当たり前の話だ」


「えー? 恥ずかしい話ですよ」


「仕方ない。じゃあ代わりに俺が恥ずかしい話をしてやる」


 俺はじっと雪緒の目を見詰める。

 この勢いで雪緒への思いを伝えてしまおうか。

 そんなことが頭を過ったが、それは違うと思い直した。


「俺ははじめ、スマートボールを買おうとしていた。けれど八万円くらいするから、自分で作ることにした。とはいえ素人には難しすぎて、何度も諦めかけたんだ」


 雪緒は黙って小さく頷く。


「だが投げ出さずに根気よく頑張れたんだ。何でだと思う?」


「かわいい後輩ちゃんのため?」


 雪緒はきょとんとした顔をしながら自らを指差して首を傾げる。


「それもあるけど。てか自分で可愛いとか言うな』


「じゃあなんで頑張れたんですか」


「もしかしたら本当に『七つの試練』をクリアしたら願いが叶うんじゃないかって、雪緒の病気が治るんじゃないかって、ちょっと期待したからだ。バカだろ。あの伝説にそんな力がないって、作成者の俺が一番分かっていることなのに」


「それが恥ずかしい話ですか?」


「自分で自分のデマを信じるなんて恥ずかしいだろ」


「全然恥ずかしくないです。むしろ感動的な話です」


「いいんだよ。恥ずかしいかそうでないかは球を貸す俺が決めるんだから」


 そう言いながら十六個の球を渡す。


「せっかく先輩が恥ずかしい思いをしてくれてまで貸してくれたボールですから、絶対成功させますね」


 雪緒の弾いたボールは一球目から右端の角の穴に入った。

 その後もボールは順調に入っていき、十発撃った段階で一番上と斜め方向の二ラインが揃った。

 しかしそこからが難しくなる。

 そもそもスマートボールとは入れれる穴が少なくなっていく後半の方が難しくなるシステムだ。

 それでも釘を甘くしたことと、雪緒自身もコツを掴んできたこともあり、残り1球で三ラインリーチまでこぎ着けた。


 右の一番下に入れれば成功となる運命の一球だ。


「緊張してきました……」


「リラックスだ。そんなに気負わず気楽にいけ。失敗してもまた挑戦すればいいんだから」


 ゲームの成功より緊張で『眠れる森の美少女』が発症することを恐れてリラックスさせる。


「そうですよね。リラックス、リラックス」


 雪緒はゆっくりと大きな呼吸をして自らを落ち着けていた。


 雪緒は発射台を三分の一ほど引き、軽めに発射する。

 撃ち出された球は上部の半球状アーチには当たらず、右端の釘に軽くぶつかり、右から四番目と三番目の穴の間を釘にぶつかりながら転がり落ちてくる。


「いい。いい感じ」


 球が三列目の穴に落ちかけたが通り過ぎ、その先の釘にぶつかり、勢いをつけて右端のラインへと戻ってくる。

 そして吸い込まれるように右端の列の一番下の穴にすぽっと入った。


「きゃっ!? やりました!」


 雪緒が喜びを爆発させ、抱きついてきた。


「よ、よかったな」


 筋肉質で細いながらも、雪緒の身体は柔らかかった。

 気まずさと嬉しさで身体が硬直してしまう。


「す、すみません」


 雪緒は慌てて俺を離して距離をとる。


「い、いや……」


 ちょっと気まずい空気になり、俺と雪緒はそれをやり過ごすかのように三ラインが揃ったスマートボールを見詰めていた。


「遂に六つ目の試練を達成したな。あとは妙泉神社だけか」


 そう言うと雪緒は「あっ!?」と小さく叫ぶ。




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