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俺の考えたデタラメな都市伝説を信じる美少女後輩に懐かれてしまった  作者: 鹿ノ倉いるか


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46.羞恥のペナルティ

「よし、そんなにリスクがないのが嫌なら名案がある」


「なんでしょう?」


「一ゲームするたびに恥ずかしいことや黒歴史を告白するってルールだ」


 我ながら名案だと思ったのだが、雪緒に白い目を向けられる。


「な、なんだよ?」


「先輩のえっち。そんなの嫌です」


「誰もエロいことを言えなんて言ってないだろ。テストで0点取ったとかそういうのでいいんだよ」


「もー……仕方ないですね」


 雪緒は俺から顔を背ける。


「中学二年生までぬいぐるみを抱かないと寝られませんでした」


 ショートヘア側から覗く耳を真っ赤にさせながらポツリと呟く。


「は? なにそれ? その程度なのか?」


「十分恥ずかしいです。最初の一回はこのあたりですから。ほら、早く球をくださいよ」


「はいはい」


 仕方なく球を十六発渡す。

 しかし雪緒はその球もあっという間に使い果たしてしまった。


「階段の踊り場って最近までダンスフロアだと思ってました」


「小三の頃、半年くらい語尾を『ござる』にしてたら皆に引かれました」


「小学四年生の二学期までたまにお父さんとお風呂に入ってました」


「SNSに裏垢作って推しキャラについて延々と独り言のように語ってます」


 このままでは雪緒の秘密のすべてを握ってしまいそうな勢いだった。

 雪緒は羞恥心で顔を真っ赤に染め、心ここにあらずといった感じで球を弾いている。


「あー、また駄目でした……もうちょっとで二ライン揃いそうだったのに」


 雪緒は魂が抜けたようにガクッとうなだれる。


「今日はもうやめておくか?」


「いえ、そうはいきません。あとちょっとでコツが掴めそうなんです」


 雪緒はガバっと起き上がり、続行の意思を告げる。


「じゃあ何か一つ恥ずかしい話を」


「きょ、今日の下──休みの日はパジャマで一日中過ごす日もあります」


 なんだかとんでもないことを口走りかけ、慌てて激弱エピソードに切り替えてきた。


「なんだ、それ。普通だろ」


「普通じゃありません。だらしなくて恥ずかしいエピソードです」


「うーん……それじゃ五個くらいしか貸せないなぁ」


「えー? ひどいですよ。そもそも五個じゃ三ライン揃えるのは不可能です」


 雪緒は不服そうに訴える。


「仕方ないな。じゃあコンビニに行ってシュークリーム買ってきてくれ。それであと十一個貸してあげるから」


「パシリじゃないですか」


「先輩というのは後輩をパシらせるものだ」


 雪緒の分とお母さんの分も合わせた三個分のお金を渡す。


「じゃあ帰ってきたら再開ですからね」


「あんまり慌てていくなよ。危ないから」


「分かってます。子どもじゃないんですから」


 雪緒は面倒くさそうに部屋を出ていく。


「カスタードとホイップのダブルシューな。一番近くのコンビニには売ってないから、駅前の方に行くんだぞ」


「はいはい」


 玄関の扉が閉まるのを確認してから、俺は大慌てで金槌を手に取る。

 雪緒が帰って来るまでに釘の調整を行わねばならない。


 球を入りやすくするだけならば穴の上の釘を『ハ』の逆さま型にすればいい。

 しかしあからさまにやれば「不正です」だの「バチがあたる」とか言われるのは間違いない。

 分からないようにひっそりと釘を開ける。

 簡単ではない作業だ。

 しかも雪緒がいつ帰ってくるか分からない。


 釘を軽くコンコンコンと叩いてゆっくりと開き、球を転がして入りやすいかを確認する。

 雪緒がプレイしていた時に流れやすかったコースの釘も調整した。

 テストプレイでは気づかなかったが中央の方には球が流れづらい。

 弾いていた原因の釘を抜いてしまいたいが、そこまでしたら確実にバレるだろう。


「ただいまです」


 雪緒の声と玄関のドアが開く音がして慌てて金槌をベッドの下に隠す。

 なんか疚しいことをしてる最中に親が帰ってきたかのようなリアクションだ。


「あらー、ありがとうね雪緒ちゃん」


 お母さんの喜ぶ声が聞こえてくる。

 俺の部屋に戻る前にお母さんにシュークリームを届けてくれたようだ。


「ただいまです」


「おう、お帰り。早かったな」


「さ、続きをします」


 雪緒はすぐにスマートボールの前に座る。


「おいおい。まずはシュークリームを食べろ」


「買い物行ってる最中にコツが分かった気がするんです。だから早くやりたくて」


「俺がただのワガママで雪緒にシュークリームを買いに行かせたと思ってるのか?」


 その問いかけに雪緒はきょとんとして球を置く。


「どういう意味ですか?」


「スマートボールっていうのは意外と頭を使うものなんだ。糖分を摂って脳の働きをよくしたほうが成功しやすい」


 もちろんデタラメだ。 

 なぜこんなことを言ったかといえば、もちろん雪緒を騙すためである。


 買い物から帰ってきていきなり入りやすくなったら、いくらなんでもバレてしまう。

 だから入りやすくなったのには何かしらの理由が必要だ。

 そのために考えたバカみたいな嘘である。


「なるほど。確かに頭使いますし、糖分を欲してる気がします」


 驚くべきことに雪緒は疑うこともなく俺のデタラメを信じてシュークリームに齧りつく。

 こんなに信じやすいから『七つの試練』なんかに挑戦してしまうのだろう。

 なんだか愛おしきバカだ。




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