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俺の考えたデタラメな都市伝説を信じる美少女後輩に懐かれてしまった  作者: 鹿ノ倉いるか


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44.夜明けの電話

「楽しみにしてるって……まさかあいつ来たのか?」


「ええ、お昼すぎに。休学したから時間があるのね。今日はなんだかひらひらしたお姫様みたいな可愛らしい服で来たわよ」


 どうやら我が家にもロリータ服で来たらしい。


「何しに来たんだよ」


「なにって私と話をするために遊びに来てくれたのよ」


 友達の親と世間話をしに来る女子高生なんて聞いたことないが、雪緒ならあり得る話だ。


「まさかスマートボール見せてないよな?」


 未完成の中途半端なものを見られるのは、なんだか嫌だった。


「私が見せようと思ったんだけど、『できるまでのお楽しみです』って言って見るのを拒否したの」


 拒否する雪緒の姿が目に浮かび、思わず口元が緩む。


「ほんとにいい子ね、雪緒ちゃん」


「変な奴だけどね」


「雪緒ちゃんのためにもスマートボール作り、頑張りなさい」


 お母さんは少し真面目な顔でそう言った。


「そりゃ頑張るけど……結局『七つの試練』なんてデタラメな伝説だからなぁ」


「そんなことないわよ。『鰯の頭も信心から』っていうでしょ」


「まあそうだけど……」


 鰯の頭に霊的なものは感じないが、それでも他人が作った信仰なら俺の作った伝説よりまだワンチャンの希望が持てる気がした。


「ほら、ぼさっとしてないで開始して。今月中には仕上げるのよ」


「今月中? あと二週間もないんだけど」


「それだけあれば十分でしょ。間に合わなければ私も手伝うから」


 お母さんの目は真剣だった。

 伝説が本当か嘘かということより、思う気持ちが大切なんだと訴えるような瞳だった。


「わかった。今月中には仕上げるよ」


「頑張ってね」


 俺の力ではどうにもならないことは分かっている。

 だけど雪緒に平穏な毎日を送って欲しいと願う気持ちは伝えたかった。

 それがせめてもの俺の愛の伝え方だ。



 俺は学校が終わると雪緒の家に直行し、その日あった出来事を話すという生活を続けた。

 電話やメッセージアプリでも出来ることだが、俺は直接会って伝えるということに重きを置いた。


 俺の身の回りに起こったことだけでなく、学校全体での出来事も伝えた。

 とはいえもちろん毎日が平凡でこれといったハプニングもない。

 それでも雪緒に楽しんでもらうため、俺は出来るだけ面白い出来事を探すようにしたし、喋り方も面白くなるように心掛けた。

 そのおかげで会話が少し上手くなってきた気さえする。


 一日の出来事を話したあとは妙泉神社に行き、恒例の石投げチャレンジとなる。

 相変わらず成功はしないのだが、以前よりはコントロールが良くなってきている。


 それが終わると家に帰り、夜中遅くまでスマートボール作りに励んだ。

 いい加減なものでは雪緒が満足しないのは目に見えているので、文句のつけようがないものを目指していた。


 毎日製作を続けた賜物か、それとも愛の力のなせる技なのか、その理由はよくわからないが、日に日に俺のスキルも上がっていった。


 そして遂に十月最終週を前にスマートボールが完成した。

 最後の仕上げをしているときは興奮しすぎて、結局徹夜をしてしまっていた。


 カーテンを開けると朝日がやけに眩しく感じられる。

 伸びをしながら窓の外を眺めると、いつもと何も変わらない秋の朝の景色が佇んでいた。


 時計に目をやると、午前六時半を回っている。

 少し悩んだがギリギリ非常識にならない時間と判断して、雪緒に電話をかけた。


「おはようございます、先輩。どうしたんですかこんな朝早くに」


「完成したんだよ、スマートボール」


「ほんとですか!? やったぁ! ありがとうございます」


 笑顔を声にしたらこうなるのだろうというくらいに弾んだ声だった。

 徹夜の疲れも吹き飛ぶような気持ちになる。


「今から挑戦しよう。うちに来てくれ」


「なに言ってるんですか。先輩学校じゃないですか」


「いいよ、そんなもん。有給消化だよ」


「学生にそんな制度はありません。駄目ですよ、ちゃんと学校に行ってください」


 休学しているやつにそんなこと言われる筋合いはないと思ったが、彼女は行きたくても行けないのだと思い直す。


「じゃあ帰ってきたらスマートボールの試練だからな。言っとくけどスマートボールは難しい。一日一回とかはないからな。俺も何回もチャレンジしてようやく成功したんだ」


「はい。了解です。それでは夕方、先輩のお家に伺いますんで」


 電話を終えたあと、試しに一発玉を撃ってみる。

 ガラスの玉は釘にポンポンとぶつかり、どの穴にも入らず下まで落ちてしまう。


「ちょっと難しすぎたか?」


 釘を調整して入りやすくしようとハンマーを手に取り、思い留まる。

 あまり簡単にしてしまうと「ヤラセです」と雪緒が怒りかねない。

 ここは少し難しくても3ライン揃えられたという達成感を優先すべきだ。

 どうせ回数無制限で遊べるのだから。


 それに作製にこれだけ苦労したのだから秒で達成されるのも癪に障る。




 その日は一日中落ち着かず、時間が過ぎるのはこんなに遅いのかとヤキモキした。

 永遠に感じる授業が終わり、俺は慌てて学校を飛び出す。

 スマートボールを観て喜ぶ雪緒の顔が頭に浮かんだ。


 駅前の交差点で信号に捕まり、ヤキモキしてしまう。

 車も来ないし信号無視してしまおうかと考えたところでポケットの中のスマホが震えた。


 雪緒からのメッセージだった。

 まさか何かあったのかと一瞬肝が冷える。

 震える手でメッセージを開いた。


『そろそろ学校が終わった頃ですね!すでに先輩のお家にお邪魔してます!慌てず帰ってきてくださいね』


 雪緒とお母さんが笑いながらピースをしている写真も添付されていた。


「なんだよ、驚かせやがって」


 うっすらと汗をかいていた手のひらをズボンで拭う。

 雪緒と付き合っていくというのは、こんな不安の連続なのだろう。

 おじさんやおばさんはずっとこんな気持ちだったのかと改めて思い知らされた。




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