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俺の考えたデタラメな都市伝説を信じる美少女後輩に懐かれてしまった  作者: 鹿ノ倉いるか


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41.物憂げな横顔

 いつ目覚めるのか分からない雪緒の隣で、おばさんは雪緒の幼い頃の話をしてくれた。

 はじめて歩いた日。

 サンタに妹をお願いしたこと。

 三歳で逆上がりをしたときのこと。

 スマホばかり弄ってるから叱った時のこと。

 一度聞いたことがあった話もあったが、雪緒の過去を聞けるのが嬉しくて静かに耳を傾けていた。


 当時の雪緒の姿が目に浮かんできて、自然と頬が緩む。

 けれどなんだか故人を偲ぶような感じがしてきて、少し胸がもやもやした。


 継続的に鳴るピッピッピッという電子音だけが雪緒が生きている証のようで、気持ちを落ち着かせてくれる。


「幼い頃はなかなか寝なくて困る子だったのに、こんなに寝る子になっちゃって……早く起きてくれないかな」


 おばさんは疲れた笑みを浮かべ、少し乱れていた雪緒の前髪を手ぐしで整える。

 おばさんの声は雪緒に届いているのだろうか?

 俺は祈るような気持ちで雪緒の横顔を見つめていた。


 だが俺たちの祈りも虚しく、雪緒は三日経っても目を醒さなかった。



 その間俺は、ひたすらスマートボール作りに専念した。

 そんなことをしてもなんにもならないことは分かっている。

『七つの試練』なんてものは俺がでっち上げたデマなのだから。

 それでも俺はそれがまるで唯一の解決法であるかのようにスマートボールを作っていた。

 あるいは現実を直視しないために、全集中をスマートボール作りに傾けていた。


 土曜日の朝も七時に起き、朝食を済ませてからすぐにスマートボール作りを始める。

 はじめた頃はまともにノコギリも使えず、カット面はぐねぐねと曲がっていた。

 それも今ではそれなりにまっすぐカットできるようになっていた。


 しかしスマートボール作りの一番の難しさは、どんな構造になっているのかを確認することである。

 作りはじめて知ったが、世の中にはスマートボールを自作しようという人はあまりいないらしい。


 この情報過多ともいえる世の中で、インターネット上にですらあまり情報がない。

 たまにあっても『百均で材料の買える段ボールスマートボールの作り方』などである。

 そんなものを作ろうものなら『先輩、こんなチープなものでは願いが叶えられません』と文句を言われるだろう。

 雪緒でも納得できるような、本当にお祭りの縁日で使っているようなものを作らねばならない。


 あれこれ検索した結果、ようやく木製の本格的なスマートボールを作成する動画を見つけた。

 俺の作ろうとしているものと全く同じというわけではないが、参考になる部分は多い。


 今日はスマートボール上部にある半円状のアーチを作る予定だ。

 ここは発射したボールが最初に当たる部分になる。

 これがないとボールの軌道が滑らかにならないので大切な個所だ。。

 もちろん都合良くサイズの合う半円状の板など売っているはずはないので自作しなければならなかった。


 まず薄い板を濡らし、丸い鍋に当てながらアイロンをかけていく。

 この工程を丁寧に何度も繰り返してアーチ状の板を作る。

 原理はそうなのだが、これが意外と難しい。

 うまく曲がらなかったり、逆に曲げすぎてしまったり。

 力を入れすぎて板を折ってしまうこともある。


「動画では簡単そうにやってたんだけどなぁ……」


 もう一度参考動画を観ようとスマホに手を伸ばしたとき、それに反応するかのようなタイミングで着信音が鳴った。


「えっ……?」


 ディスプレイを見て、頭が真っ白になった。

 電話をかけてきたのは雪緒だった。


「も、もしもしっ!」


 慌てて着信を受けて呼びかける。


「あ、先輩。おはようございます。今起きました」


 こちらの緊張も知らず、やけに明るい口調の雪緒の声が聞こえた。

 いや、こちらの心配はわかっているのだろう。

 その上で気を遣われたくないから敢えて惚けた感じで喋っているに違いない。

 それならばこちらもそれに応えなければならない。


「おはよう。って、もう九時前だぞ。休みの日だからってだらけすぎだ」


「あはははは。そうですよね」


 雪緒は嬉しそうに声を上げて笑っていた。


 雪緒は検査などがあるのですぐには帰れないらしい。

 本人はまた明日にでも会おうと言っていたが、俺はいてもたってもいられずに病院へと向かっていた。


 病室に着くと、雪緒はベッドに座って外を眺めていた。 その横顔は物憂げで、何か見てはいけないものを見てしまったような罪悪感に駆られる。


「よう、雪緒」


「先輩っ!? 来てくれたんですか?」


 先ほどまでの気配は消え、雪緒は満面の笑みで俺を迎えてくれた。


「これ、お見舞い。まだ店が開いてないからコンビニスイーツで申し訳ないんだけど」


「うわぁ、ありがとうございます。あ、ロールケーキある! ラッキー。私好きなんですよね」


 好きだという割に、雪緒はお見舞いを机の上に置く。

 いつもの雪緒ならすぐに食べそうなものなのに様子がおかしい。


「具合、悪いのか?」


「えー? そう見えます?」


「なんかいつもと様子が違うから」


「まいったなぁ。さすが先輩ですね」


 硬い笑顔を浮かべると、雪緒はスリッパを穿いてベッドから降りる。


「ねえ先輩。病院のお庭に行きましょう。ここは高台にあるから景色もきれいなんですよ」


 俺は黙って頷き、雪緒の後をついていく。



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