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俺の考えたデタラメな都市伝説を信じる美少女後輩に懐かれてしまった  作者: 鹿ノ倉いるか


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4.タイムスリッパ―

 ──

 ────



「寒河江雪緒? 左と右で髪型違う子でしょ。知ってるよ、同じクラスだもん」


 マナは眠そうな顔で面倒くさそうに答える。

 同じ高校に通っているが、マナと登校するのははじめてだ。


「どんな奴なの?」


「んー……まあ、変わってるよね。授業中に歌い出したり、勝手に学級新聞を一人で作って教室に貼り出したり」


「それはなかなか個性的だな」


「授業中寝てる時もあるよ。ほんの数分だけどガチで寝てるの。まあ居眠りくらいは私もあるけど」


「お前もあるんかい」


 軽くツッコむとマナはわざとおちゃらけた顔で笑う。

 このあたりのやり取りは小学生の頃と変わっておらず、なんだか少しホッとした。


「まあそんなわけで、見た目が可愛いからはじめは男子から人気があったけど、二週間くらいで誰も近寄らなくなったね」


 放課後だけ変な奴というわけではなく、常日頃から変な奴なようだ。


「なに、凛ちゃん。寒河江さんに興味あるの?」


 マナはにたーっと笑いながら俺を見る。


「んなわけないだろ。ちょっと知り合いになったからどんな奴なのかなって気になっただけ」


「なんか中学まで東京にいたらしいよ」


 こんな田舎にはいないタイプだとは思っていたので妙に納得してしまう。


「へぇ。本人から聞いたのか?」


「ううん。クラスの体操部の男子が言ってた」


「なんで体操部の男子が知ってるんだ?」


「寒河江さん、中学まで体操やってんだって。しかも全国大会で優勝したこともあるらしくて、将来が期待されてたみたい。変わった名前だし顔も可愛いから、その男子が寒河江さんのこと覚えてたの」


 なるほど。

 だから地獄雲梯もあんなに余裕だったのか。


「うちの学校の体操部ってそんなに強かったっけ?」


「ううん。全然。部員も六人くらいしかいないし、器具も全然そろってないらしいよ」


「じゃあなんでわざわざ引っ越ししてまでうちの高校に来たんだ?」


「知らない。そもそも寒河江さんは体操部に入部してないし」


「えっ、そうなんだ?」


「誘ったんだけど『体操みたいなしんどいだけのダサいスポーツはもうやらない』って断られたらしいよ」


「へぇ……」


 その話になんか違和感を感じた。

 確かに雪緒は変わった奴ではあるが、そんな失礼なことを言うような奴には思えなかったからだ。


「凛ちゃんも寒河江さんに興味を持つのはいいけど、あんまり深入りしないほうがいいよ。とにかく変わってるから、あの子」


「だからそういうのじゃないって」


 言われなくても雪緒に深入りなんてしない。

 いや雪緒だけじゃなく、俺は誰とも関わろうとはしていなかった。

 だからずっと一人でいることを選んでいる。

 まだ誰にも話していないが、俺は卒業したらすぐ東京に行くつもりだ。

 だから今さらこの土地で友だちを作るつもりなんてなかった。



 もう雪緒に関わるのはやめよう。

 そう思っていたのに、つい今日も帰り道に妙泉神社を覗いてしまう。

 昨日の帰り際に笑顔で「また明日」と言われたことも多少影響していた。


 今日もまた雪緒は泉のところにいた。

 しかしなぜか制服ではなく、スーツを着て眼鏡をかけている。

 それに辺りをキョロキョロしていて様子もおかしい。


「どうしたんだ、雪緒」


「あ、先輩っ!」


 俺を見つけるなり、雪緒は勢いよく駆け寄ってくる。


「何かあったのか?」と訊く前に雪緒は俺に訊ねてきた。


「いま、西暦何年ですか?」


「は? 今年は二〇二五年だろ」


 当たり前の事を答えると、雪緒は目を大きく見開いた。


「二〇二五年っ!? 二〇四〇年じゃなくて?」


「何言ってんだ、お前……」


「てか先輩、若い。まだ子どもじゃないですか、可愛い!」


 そう言う雪緒も昨日とまるで同じ顔立ちだ。

 スーツを着て眼鏡をかけたら大人に見えるとでも思っているのだろうか?

 そもそも服装はスーツだが、足元は通学用のローファーのままだし、髪型もアシンメトリーのままだ。


「……もしかしてタイムスリップしたっていう冗談か?」


「そうね。まるで悪い冗談のようだわ」


 雪緒は外国人のように肩を竦めて大袈裟に首を振る。

 二〇四〇年の日本では古臭いアメリカ映画のようなボディランゲージが流行しているという設定なのだろうか?


「馬鹿馬鹿しい。俺は帰るからな」


「ま、待ってください。十五年後の未来から来たんですよ? なにか訊きたいこととかないんですか?」


「面倒くさいな……じゃあ二〇四〇年の俺は何をしてるんだ?」


「先輩は友だちと一緒に下駄の会社を設立しました。インバウンドの影響で意外と人気が出て経営も軌道に乗っていたんですが、パートナーである友人がお金を持ち逃げして多額の借金を抱えてますね」


「なんだよ、その最低な設定。そもそも下駄の会社なんて流行るわけないだろ」


「事実なんだから仕方ないじゃないですか。他に聞きたいことは?」


 雪緒は眼鏡をクイッと上げ、得意げな顔をしている。


「雪緒は七つの試練をクリア出来たのか?」


「もちろん! しっかりと願い事も叶えてもらいましたよ」


「そうか。そりゃよかったな。じゃあな。気をつけて未来に帰ってくれよ」


「ちょっと待ってくださいよ。全然信じてないじゃないですか」


「そりゃそうだろ。信じるほうがおかしい」


「もうっ」と怒りながら雪緒は低い植木の枝に隠してあったスマートフォンを取り出す。


「なんでそんなところにスマホを隠してたんだ?」


「タイムスリップドッキリをして驚く先輩の顔を撮りたかったんです」


「それなら成功だ。驚いた俺の顔が映っているはずだからな。なにせ高校生にもなってこんなイタズラするやつがいるのかと驚いたから」


「そういうのじゃないんですってば、もう」


 雪緒は本気で悔しそうな顔をしながら、録画した動画をチェックしていた。



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