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俺の考えたデタラメな都市伝説を信じる美少女後輩に懐かれてしまった  作者: 鹿ノ倉いるか


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36.勇気

 妙泉神社に到着すると雪緒はさっそく石を拾い、泉の中ほどにある岩へと投げる。

 相変わらず小石は岩にかすることもなく泉に波紋を作って消えていった。


「雪緒のコントロールは壊滅的だな」


 神社内のゴミを拾いながら雪緒をからかう。


「言わないで下さい。自分でもよく分かってますから」


「なんで運動神経いいのにコントロールはそんなに悪いんだ」


「子どもの頃キャッチボールとかドッジボールとかしてこなかったからだと思います。なんせ友だちゼロですから」


 雪緒はペットボトルのキャップを拾い、こちらに投げてパスしてくる。

 しかしキャップは俺から大きく逸れていった。 

 一度岩に乗りかける惜しいときあったけど、あれはまぐれだったようだ。

 俺は大げさにため息をついてキャップを拾う。


「あ、賢太くん」


 雪緒が俺の背後に向かって手を振る。

 振り返ると賢太がムスッとした顔をして立っていた。


「よう、少年。どうした浮かない顔をして」


 賢太は玉砂利を蹴るようにジャリジャリと鳴らしながら近付いてくる。


「なんでお前はいつも姉ちゃんと一緒にいるんだ。やっぱりカレシなんだろ?」


「生意気なこと言うな、ガキ。俺はただ雪緒の試練を手伝ってるだけだ」


「絶対だな? 嘘じゃないだろうな?」


「しつこいぞ。違うって言ってるだろ」


 賢太は俺の顔をじぃーっと見て、にやりと笑った。


「あとから後悔するなよ?」


 俺だけに聞こえるようにそう言うと、雪緒の方へと向かっていった。


「姉ちゃん。これ」


 賢太はその辺でちぎってきたような雑草の花を雪緒に渡す。

 ぶっきらぼうな感じで雪緒の鼻先に差し出すの仕草が、不覚にもちょっと可愛らしかった。


「わあ、可愛いお花。くれるの? ありがとう」


「ね、ねねね姉ちゃんは……」


「ん?」


 雪緒はもらった花をショートヘア側の耳にかけながら首を傾げる。


「ね、姉ちゃんはカレシとか、いる?」


「いないよー。今はフリー」


 さも頻繁に恋人がいたかのような言い回しに笑いそうになる。


「じゃ、じゃあ、さ。俺の彼女になってよっ。俺、姉ちゃんのこと好きだし」


 賢太は顔を赤くし、うつむきながらコクっていた。

 雪緒は一瞬驚いたように目を見開いてから、目を細めて静かに微笑む。


「ありがとう。でもごめんね。賢太くんとは付き合えないの」


「なんでだよ。俺が子どもだからか? 今はガキだけど来年は中学だし、すぐに大人になる。父ちゃん背が高いから絶対俺も背が高くなるし」


 賢太はムキになって雪緒に詰め寄った。


「実は私、年上の人にしか興味ないの。賢太くんが大人になっても、私は更に大人になってる。だから賢太くんと付き合うのは無理なんだ。ごめんね」


「なんだよ、それ。ズルだ!」


「ズルって言われてもお姉ちゃんの趣味だから仕方ないでしょ」


 なかなか上手な断り方だと俺は感心していた。

 相手が子どもだからと断るのではなく、『年上じゃないと無理』と断れば相手はどうすることも出来ない。

 それにその理由であれば、それほど相手を傷つけることもないだろう。


「じゃあもう『七つの試練』の手伝いしてやらないからな」


「えー。仕方ないなぁ。じゃああとは自分で頑張るよ」


「じゃあな!」


 賢太は俺をギロッと睨んでから駆けていった。


「いきなりの告白だったな。せめて二人きりの状況ですればいいのに」


「勇気があっていいじゃないですか。かっこいいですよ」


 雪緒は賢太が消えていった方を見たまま微笑む。

 そんなつもりはないのだろうが、なんとなく告白してこない俺への当てつけのように感じてしまった。


 俺は雪緒の健康を理由に恋人になることを避けている。

 しかしそんなのは自分への言い訳なのかもしれない。

 誰かを愛したり、愛されたり、その愛を失ったり。

 本当はそれが怖くて行動に移せないだけのような気がしてしまう。


「さあ次は久々にビューキューブ動画を撮りましょう。最近更新をサボり気味で登録者数が増えてませんから」


「試練はいいのか? まだ垂直坂のが残っていただろ」


「そっちは別に急ぎません。どうせ先輩のスマートボールが完成しなければ試練達成出来ないんですから」


 雪緒は神社を出ると公園とは逆の方へと歩き出した。

 国道を渡り、住宅街の細い道を進んでいく。


「どこ行くんだ?」


「海ですよ。ここからすぐそこですから」


「海でパルクールをするのか?」


 季節外れの砂浜には人気がなく、ただ波の音音だけが響いている。


「砂浜で走ったりジャンプするつもりか?」


「パルクール撮影はこっちですよ」


 雪緒は砂浜を通り過ぎ、遊泳禁止のエリアに向かう。

 そこは潮の流れが速く、波も高い。

 そのため波打ち際にはテトラポットが置かれ、更にその先に二メートルほどの防潮堤がある。


「ここで撮るんです」


「こんなところで? どうやるんだ?」


「こうです。見てて下さい」


 雪緒が砂を蹴って走り出すのを見て、俺は慌ててスマホを構えて動画撮影をスタートする。

 雪緒はテトラポットではなく、防潮提に向かっていた。


 防潮提は垂直ではなく湾曲している。

 その壁面を駆け上り、中ほどで大きくジャンプしてくるんとバク転を決めた。


「おおっ!」


 あまりに見事な転回に、思わず声を上げてしまう。

 あとから音声を消してBGMを入れるとはいえ、あまり撮影者の声を入れるのはよくない。




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