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俺の考えたデタラメな都市伝説を信じる美少女後輩に懐かれてしまった  作者: 鹿ノ倉いるか


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35.不甲斐ない俺に唯一出来ること

 俺たちはベッドのそばのパイプ椅子に腰かけ、雪緒が目覚めるのを待った。


 その間、おばさんは雪緒の幼少期のことを色々と話して聞かせてくれた。

 雪緒がはじめて鉄棒で逆上がりをしたときのこと。

 お菓子ばっかり食べてご飯を食べなくて困ったこと。

 おばさんが買ってきた服をダサいと言って、自分で服を選びはじめたときのこと。


 スマホに撮り溜めた写真や動画を交えながら話してくれるので、幼い頃の雪緒の像がより鮮明に俺の脳内に浮かび上がる。


「雪緒さんは昔から元気で活発な子だったんですね」


「ええ。それはもうおてんばで。椿本くんは驚くかもしれないけど、今の雪緒は昔に比べるとだいぶ落ち着いてくれた方なのよ」


「そうなんですか? それは驚きです。って雪緒さんが聞いていたら怒りそうですけど」


「怒って目を覚ましてくれたらいいのに」


 おばさんのひと言で俺たちは静かに笑った。


「椿本くんはどんな子だったの? きっと昔からしっかりしていたんじゃない?」


「いえ、全然。まあ多少しっかりしたとすれば五年生からですかね」


 俺は雪緒に話したように幼い頃の話をおばさんたちに話した。

 さすがに『俺を産んだ生物学上の母親』とは表現せず、『血の繋がった母』と言い換えて。


 二人とも驚いた様子だったけど、余計な同情の合いの手は入れずに静かに耳を傾けてくれていた。


「いいお母さんに育てられたから椿本くんはしっかりしたいい子なのね」


 おばさんは肩で顔を隠しながらハンカチで目を拭っていた。

 その第一声で、さすが雪緒のお母さんだと思わされる。

 変に同情されるのではなく、お母さんを褒めてもらえたことがとても嬉しかった。


「さあ、今日はもう遅い。そろそろ帰りなさい。送っていくよ」


 赤い目をしたおじさんが立ち上がる。


「雪緒さんが目を覚ますまでここにいさせて下さい」


 そう訴えるとおじさんは首を横に振る。


「君はこれからも雪緒を傍で支えてくれるんだろ? だったら帰りなさい。この子の看病は長く地道なものだ。今回目を醒ますだけでは終わらない。これからもずっと続いていく。はじめだけ気合を入れて無理をしても意味がないんだ。もし我々が疲れたとき、君が元気なら助けてもらえるしね」


「そうですね。分かりました」


 頷きながらも、この人たちが雪緒の看病で疲れることなどないのだろうと感じていた。


「それにあまり遅いと君のお母さんも心配する。そんな素敵なお母さんを心配させたら悪いからね」


 おじさんは微笑みながら俺の肩を軽く叩いた。

 その仕草は一段階親密さが上がったことを感じさせるものだった。



 雪緒が目を覚ましたという連絡を受けたのは翌日学校に登校して間もなくのことだった。

 雪緒本人からのメッセージで、『よかったら放課後に会いに来て下さい』と書かれてあった。

 学校を早退してすぐにでも会いに行きたかったが、その気持ちをぐっと堪えて『分かった』と返信する。


 授業が終わると俺は一目散に学校を出て雪緒の家へと向かった。

 インターフォンを押すと家の中でドタドタっと音がしてすぐにドアが開いた。


「いらっしゃい!」


 雪緒が目を輝かせながら飛び出してくる。

 元気そうな雪緒を見て、不覚にも目頭が熱くなった。

 涙強く手の甲をつねり、痛みで涙を押し止めた。


「髪、切ったんだ」


「そうなんですよ。遅刻でも学校行きたかったんですけどお母さんが大事を見て休みなさいって言うんで。暇だったから美容院に行ってきたんです」


 最近髪が伸びて左右の髪の長さの違いが以前より目立たなくなってきたが、またくっきりとミドルボブとショートヘアのアシンメトリーが際立つヘアスタイルになっていた。

 はじめてみたときは面食らったが、いまやそれが雪緒らしくて素敵なものにさえ感じる。


「さあ行きましょう」


 雪緒は意気揚々と歩き出す。


「行くってどこに?」


「妙泉神社に決まってるじゃないですか。早く試練を達成しないと」


「相変わらずだな」


 俺は苦笑しながら雪緒のあとに続く。


「先輩、昨夜病院に来てくださったんですよね? お母さんから聞きました」


「まぁな」


 一体おばさんからどこまで聞いているのか不安になりながら頷く。

 色々恥ずかしいことも言ってしまったので、そのあたりは割愛してくれていることを祈った。


「ありがとうございます。ご心配をおかけしてすいませんでした」


「気にするなよ。そんなに心配なんてしてないから。ただ寝てるだけなんだし」


「そうですよね。痛いとか苦しいとかないんで楽なものです」


 わざとなんでもないことのように笑い合うが、拭いきれない不安で白々しい空気が漂う。

 それでもそうせざるを得なかった。

 深刻に悩めば気持ちが沈み、また眠りに落ちてしまうかもしれないからだ。


「早く試練をクリアして悩みを解決しないとですね」


「あ、そうだ。スマートボールなんだけど俺が作ることにしたから」


「先輩が作る? どういうことですか?」


「俺が木材や釘を使って自作するってことだよ」


「えー? 先輩、そんなことできるんですか?」


「やったことはない。けどやってみる。頼れる先輩に任せておけ」


 笑いながら親指を立てると、雪緒もにっこりと笑う。


「さすがは先輩です。よろしくお願いします」


「任せておけ」


「あ、でもわざと簡単に入るように作らないで下さいよ。インチキじゃ意味がないので」


「分かった。めちゃくちゃ難しくしておく」


「めちゃくちゃ難しくはしなくていいんですって。ほどほどでお願いします」


 手に負えない病を見て見ぬふりをして、どうでもいいことで笑い合う。

 今の俺にできることはその程度のことしかないのが不甲斐なかった。




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