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俺の考えたデタラメな都市伝説を信じる美少女後輩に懐かれてしまった  作者: 鹿ノ倉いるか


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34.両親への覚悟

「そんなに寝ることもあるんですか?」


「いや。これまでは長くて三時間くらいだった。中学生の頃はどんなに長くても一時間もすれば目を覚ましていたんだけど」


「どんどん長くなってきている……っていうことですか?」


「……そうみたいだね、残念ながら」


 衝撃的な事実を聞かされ、心臓が怯えたように震えだした。


 おじさんは表情を崩さず話しているが、心中を表すように握った拳が震えていた。


「今から病院に行かれるんですか?」


「こんなに長引くと思ってなかったから何も持たずに病院に行ってたの。一応着替えやブラシとかティッシュみたいな生活用品を今から持っていくのよ」


 おばさんは無理に笑ってそう言った。

 深刻な顔をしていると悪いことが起きると言わんばかりの引き攣った笑顔だった。


「俺もお見舞いに行かせて頂けないでしょうか? お願いします」


「気持ちは嬉しいが、今日はもう遅い。目を覚ましたら椿本くんのことは伝えておくよ」


「いいじゃない、あなた。椿本くんも心配してくれているの。目を覚ましたときに椿本くんがいてくれた方が雪緒も喜ぶわ」


「ありがとうございます」


 渋るお父さんには申し訳ないが、俺は半ば強引に同行させてもらった。


 夜の病院はとても静かで、薄暗く、独特の雰囲気だった。

 雪緒はベッドの上で穏やかな表情で眠っていた。

 ただ身体に色んなコードを付けられており、モニターには俺が見てもよく分からないデータが並んでいた。

 特に頭にはたくさんのコードが繋がっており、なにか重篤な状態なのではないかと不安に駆られる。


「心拍数や脳波をモニターしてるんだ。ただ眠っているだけだから心配はないんだけど、念の為にね」


 俺の不安を察したのか、おじさんがそう教えてくれる。


「雪緒……」


 ベッドの隣に立ち、雪緒を見詰める。

 モニター機器から出る光のせいか、心配する気持ちのせいなのか、雪緒の白い肌がより一層白く感じた。


 普段は元気過ぎて病気のことなど一切感じさせないが、病は確実に彼女を侵食している。

 その現実が恐ろしくなり、不覚にも俺の身体は震えていた。


 目を覚まして欲しくて、祈るような気持ちで雪緒の頰に触れる。


「椿本くんとの旅行がよほど楽しかったみたいで、雪緒はずっと旅の思い出を話してたわ。大きな魚が釣れたとか、スマートボールは思っていたものと全然違ったとか。ずっと笑顔で話してたの」


 おばさんが笑うので、俺も無理に笑顔を作った。


「そうなんですよ。お祭りの時のスマートボールって穴が縦横四列づつ空いているものなんですけど、あの温泉地にあったのは全然違う形でして。それを見た雪緒さんは目をまん丸にして愕然とした表情で膝から崩れ落ちまして──」


 あの時の雪緒を思い出していると涙が込み上げてきて、言葉が続かなくなる。

 声を出そうとしても嗚咽しかでず、おばさんが俺の背中を擦って落ち着けてくれた。


「ありがとう、椿本くん。でももういいんだ」


 おじさんは俺の目を見て微笑む。


「雪緒は見ての通り、難病を抱えてる。治療法はおろか、原因も分からない難病だ。高校生の君には受け止めきれない。これ以上関われば、もしかしたら君をもっと苦しめることになってしまうかもしれない。だからもう、雪緒と関わらないで欲しいんだ。申し訳ない」


 おじさんは俺に深々と頭を下げる。


「そんなことは無理です」


 ベッドに横たわる雪緒を見ながら俺は即答した。


「雪緒さんは俺といることを楽しんでくれている。もしそんな俺が急によそよそしくなったら、きっと悲しむと思います。そうなれば雪緒さんの健康状態を悪化させてしまうことになります」


「ありがとう。しかし大人として、雪緒のために若い君を傷つけてしまうわけにはいかないんだ」


 諭すようなおじさんの目を見て、首を横に振る。


「雪緒さんの健康のためなんてカッコつけましたが、一番の理由は違います。俺自身が雪緒さんのそばにいたいんです。だからお願いします。これからも雪緒さんのそばにいさせて下さい」


 俺は身体を半分に折りたたむ勢いで頭を下げた。


「雪緒に寄り添うというのは、そんなに楽なことじゃない。いつどこで眠りに落ちるかわからない。常に気を付けておかなければならないし、冷静さを保っていなくてはいけない。ときには自分の生活を犠牲にしなければならない時だってある」


「それでも構いません。どうかお願いします」


「しかし……」


 おじさんは戸惑いながらおばさんを見る。


「いいじゃないの。椿本くんがそばにいてくれたら、雪緒はいつも笑顔になれるんだから。椿本くんに甘えましょう」


 おばさんは迷うことなくそう言ってくれた。


「そんな簡単に言うなよ」


「簡単じゃない。椿本くんが望んでいて、雪緒のためにもなる。私たちがあれこれ言うことじゃないわ。若い二人に任せましょう。雪緒ももう子どもじゃないのよ」


 柔らかな声だが強い意志を感じさせる言葉だった。

 おじさんは雪緒を見て、それから俺を見た。


「……そうだな。椿本くん、申し訳ないがこれからも娘を頼みます。もちろん無理のない程度というのが大前提だよ」


「ありがとうございますっ!」


 結婚を許してもらったかのような高揚感を感じながら二人に頭を下げる。

 とはいえ花嫁の方はそんな俺の気持ちなど知る由もなく、気持ちよさそうに寝ていたけれど。



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