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俺の考えたデタラメな都市伝説を信じる美少女後輩に懐かれてしまった  作者: 鹿ノ倉いるか


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33.暗雲

 温泉地から家に戻ったのは翌日の夕方だった。

 ドアを開けて帰宅を告げるとお母さんがいそいそと小走りで玄関まで迎えに来てくれた。


「おかえり、凛ちゃん。楽しかった?」


「うん、まあ。海は綺麗だったし、温泉も料理もよかったよ」


「それはよかったわね」


 お母さんは話の続きを待つような視線で俺の目を見る。

『そんなことより雪緒ちゃんとはどうだったの?』と言いたそうな気配を無視してお土産を渡す。


「お土産? いいのに、そんなもの」


「息子からお母さんへの日頃の感謝の気持ちだよ」


 初めの頃はお互いちょっとぎこちなさや不自然さはあったが、今は『お母さん』と呼ぶのも呼ばれるのも何の違和感もない。


 ただ俺たち親子の間で、俺の生物学上の母の会話をすることはなくなっていた。


「あら、優しいのね」


 リビングに移動するとお母さんはお茶を入れてくれた。


「それでどうだったのよ。雪緒ちゃんと」


 焦れったくなったのか、回りくどい詮索をやめて直接訊ねてくる。


「それがスマートボールをやりに行ったのにタイプが違うもので出来なかったんだよ。雪緒らしいだろ」


「そういえば『七つの試練』のために旅行したんだったけね。雪緒ちゃんも本気で信じてるのかしら。二人っきりで旅行したい口実なんじゃないの?」


 お母さんはニヤニヤしながらからかってきた。

 親というのは子どもの恋愛に興味津々な生き物である。


「それが結構本気で信じてるんだよね。絶対叶うわけないのに」


「それは分からないわよ。雪緒ちゃんの病気も治す効果があると信じましょう」


「さすがにそれはないだろ」


「分からないわよ。愛の力というのは偉大だから」


「さっきからちょいちょい恋愛要素を無理やり捩じ込んできてるけど、俺と雪緒はそういう関係じゃないからな」


 遠回しの言い方が面倒くさくなって、直接否定する。


「だってただの先輩と後輩の関係でお泊り旅行なんて行かないでしょ」


「そうやってなんでも恋愛にしたがるのは昭和脳だよ」


「失礼ね。私は昭和なんて物心つく前に終わってるの」


 軽口を叩き、お母さんの恋愛話をやめさせる。

 俺だって出来れば雪緒と恋をしてみたいとは思う。

 しかしそれは雪緒の健康を害する恐れがある。

 こみ上げる気持ちを抑えることこそが、雪緒を本当に愛するということだ。



 その日の夜、俺はスマホで撮影した写真を見ながら温泉旅行のことを思い出していた。

 雪緒は写真慣れしているのか、カメラを向けるとすぐにすました顔になるか、逆にふざけた顔をする。

 そうした表情もいいが、いつもの自然な感じの雪緒も撮りたかった。

 だから時おり風景を撮るふりをしてこっそり雪緒を撮影した。

 バレたら怒られるかもしれないので、それらの写真は雪緒と共有していない。


 スマートボールが出来なくて落ち込んでいる写真もそんな隠し撮りの中の一枚である。

 肩の力が抜け、表情にも覇気がない。

 雪緒はきっと嫌がるだろうが、俺にとってはなかなかお気に入りの一枚である。


「あっ、そういえば……」


 落ち込む雪緒に『スマートボールは俺がなんとかする』と約束をしたことを思い出した。

 あのときは雪緒を励ますためにあんなことを言ったものの、特にあてがあるわけでもない。


 とりあえずスマホで『スマートボール』『縦横斜め』と検索してみる。

 するとたくさんの検索結果がヒットした。

 画像を見るとあのお祭りでやった昔懐かしいものである。

 しかもネットで買えるということまで判明した。


「なんだ。買えばいいんじゃないか」


 ホッとしたのも束の間、その値段を見て驚いた。

 どれも最新のゲーム機本体を買うのと大差ない値段だったからだ。


「まじかよ」


 貯金を使えば買えないことはない。

 しかしそこまでして買うのも躊躇われた。

 もちろんこれを買えば雪緒の奇病『眠れる森の美少女症候群』が完治するなら迷わず買う。

 しかしそんな保証はないどころか、ほぼ間違いなく効果はない。

 そんなもののために大金を叩く勇気は起きなかった。


 プラスチック製の小さなおもちゃなら千円程度で買えるものも見つかったが、これで雪緒が納得するとも思えない。


「そうだ、自分で作ったらいいんじゃないか?」


『スマートボール』『作り方』で検索するとたくさんの検索結果がヒットした。


「よし、作るか。雪緒がやるものだし、手伝わせないとな」


 明日からさっそく始めようと決め、喜ぶ雪緒の顔が頭に浮かぶ。

 しかし実際にその笑顔を見ることは出来なかった。



 翌日、雪緒は学校を休んだ。

 スマホにメッセージを送るが、夜になってもその返信も届かなかった。

 嫌な予感がして夕食後に雪緒の家に向かうと、ちょうどご両親が家から出てきたとこだった。

 俺を見たおじさんとおばさんは少し戸惑ったように微笑んでいた。


「雪緒さん、今日お休みだったみたいですけど、どうされたんですか?」


「実は今朝方にまた例の病が発症してね。いま病院にいるんだ」


「えっ!? まだ寝てるんですか?」


 驚いてスマホで時間を確認すると夜の八時を回っていた。

 朝に発症したとなると既に半日も寝ていることになる。




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