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俺の考えたデタラメな都市伝説を信じる美少女後輩に懐かれてしまった  作者: 鹿ノ倉いるか


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3.親バレ

「どうでもいいけれど寒河江は他の試練はクリアしたのか?」


「いえ。まだです。始めたのも夏休みの終わり頃からですし、まず手始めにこの泉の試練からやろうと思いまして」


 そう言いながら寒河江はメモ帳を開く。

 そこには女の子らしい丸くて可愛らしい字で『七つの試練』が記載されていた。

 ●妙泉神社の湧き水池の岩に石を連続で三つ乗せる

 ●地獄雲梯を渡り切る

 ●足をつかず垂直坂を自転車で登り切る

 ●三十センチ以上の魚を釣り上げる

 ●スマートボールで三列以上並べる

 ●目隠しをしてカミナリ竹林を一分以内に抜ける

 ●深夜0時にお化け墓場の一番奥にあるお墓に石を置いてくる


 久しぶりに見たが、我ながら本当に子供っぽくて恥ずかしい内容だ。


「なんで妙泉神社の試練から始めたんだ? もう少し簡単なものもあるだろ」


「一番分かりやすかったからです。地獄雲梯とかカミナリ竹林とかどこにあるのかさっぱり分からなかったので」


「綿密に調べたんじゃなかったのかよ」


「小学生から聞いたんです。あ、もちろん一人じゃなくて何人かから聞きましたよ。でも誰も地獄雲梯とかカミナリ竹林がどこなのか知らないって」


 六年の間に子どもたちのトレンドも変わり、地獄雲梯とかカミナリ竹林の知名度も下がったのだろう。

 それにしてもよくその程度の情報で発案者である俺に亜流だとか難癖をつけられたものだ。


「先輩はどこのことだか分かるんですか?」


「……さあな」


「あ、絶対知ってる顔です」


「知ってても教えるか。馬鹿げた伝説なんてやめておけ」


「教えてくださいよぉ。場所さえ分かれば地獄雲梯なんて絶対余裕なんですから」


 軽々しく言う寒河江に思わずかちんと来た。


「はあ? 地獄雲梯舐めんなよ」


 小学生の頃、あの雲梯を渡りきれたのは数えるほどしかいなかった。

 渡りきれたものは英雄として崇められたものだ。


「雲梯なんて余裕ですって」


「ほう。それじゃやってみろよ」


 寒河江の細い腕を見ながらニヤリと笑った。



 寒河江を連れてやって来たのは、海沿いにある寂れた公園だ。

 雑草が好き放題伸びおり、遊んでいる子どももいない。

 公園の奥には元は何色だったのかも分からない錆びついた雲梯があった。


「これが地獄雲梯だ。カーブも含め、全長十五メートルはある」


 寒河江はポカンと口を開けて地獄雲梯を見ていた。

 相当ビビっているようだ。

 と思いきや──


「これが地獄雲梯なんですか? ずいぶんと可愛らしい地獄ですね」


「は? 侮るなよ。かなり長いしカーブが急で難しいんだ。更には普通の雲梯にはない高低差まである。特にあそこの第二カーブは──」


 俺が説明している間に寒河江はスタートしてしまう。

 身体をブンブンと綺麗に振りながら猿のようにスイスイと進む。

 一番低くなるところは高校生ならば足を持ち上げて進まねばならないのだが、寒河江は当たり前のように体をL字にして通過していく。


「ゴール!」


 寒河江は身体を大きくスイングしてジャンプをし、華麗に着地まで決めてみせた。


「ウソだろ……」


 設計ミスとまで言われた地獄雲梯を、いとも容易く渡り切るとは……


 試しに俺もやってみたが体重が重くなったためか、腕の筋肉が落ちてしまったのか、第二カーブで落ちてしまった。


「これで七つの試練、一つクリアですね」


「寒河江はなんでそんなに上手いんだよ」


「その寒河江って呼ぶのやめてください。サザエさんみたいでなんか嫌なんです。これからは雪緒って呼んでください」


 そう言うと寒河江改め雪緒はまた地獄雲梯を渡り始める。

 しかも今度は途中で身体を反転させ、バックまでする舐めプぶりだ。

 あんな細い体のどこにそんな力が隠されているんだろうか?


「じゃあ先輩、また明日」


 雪緒はぴょんと雲梯から飛び降りると、そのまま勢いよく走って帰っていく。

 垂直坂やカミナリ竹林についても聞かれるのかと思っていたから、拍子抜けした。

 本当に掴みどころのない奴である。



 家に帰ると珍しくお母さんが早い時間に帰宅していて、料理を作っていた。

 お母さんは俺の顔を見ると急にニヤニヤしだす。


「なに?」


「凛ちゃん、昨日彼女を家に呼んだでしょ?」


「えっ……?」


 唐突に言い当てられ、俺は肯定したも同然のリアクションをしてしまう。

 いや彼女じゃなくてただの後輩なんだけど、驚きが勝ってしまい返事に窮してしまっていた。


「やっぱりかー。凛ちゃんが彼女を連れてくる日が来るなんてねぇ」


 お母さんは感慨深そうな顔でウンウンと小さく頷いていた。


「彼女じゃないって。マナだよ、マナ」


 俺は咄嗟に幼なじみの名前を挙げた。

 マナこと小圷真菜はうちのアパートの隣に立つ一軒家に住んでいる一つ年下の幼なじみだ。

 しかし余計まずい返答だったらしく、お母さんは目をまん丸にした。


「凛ちゃん、マナちゃんとお風呂に入る仲になったの!?」


「ふ、風呂!? そんなわけないだろ」


「だって昨日お風呂場の排水口が綺麗になってたのよ。シャンプーやリンスのボトルもきれいに並べられていたし」


 どうやら雪緒のやつ、シャワーを浴びた時に掃除をしたようだ。

 余計なことしやがって。


「それは、あれだって……あんまりにも汚いからってマナが勝手に掃除したんだよ。もちろん服を着たまま」


「マナちゃんがお風呂掃除を? ふぅん……」


 確実に信じてない顔で俺を見てくるが、知らんぷりをして冷蔵庫を開け、飲みたくもない麦茶を取り出す。

 お母さんは推理物のドラマを観ている影響なのか、妙に勘が鋭く、やたらあれこれ考察し始める悪癖がある。


「まあなんでもいいけど、女の子を泣かせるようなことをしちゃダメよ」


「んなことするか」


 やけに嬉しそうなお母さんから逃れるように俺は自室へと向かった。


 流れで名前を出してしまったマナのことを思い出す。


「そういえばマナって、俺と同じ高校に通ってたな」


 だとすれば寒河江雪緒と同じ学年だから、何か知っているかもしれない。

 あいつが何者なのかマナに聞いてみるか。





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