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俺の考えたデタラメな都市伝説を信じる美少女後輩に懐かれてしまった  作者: 鹿ノ倉いるか


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27.反則まがいの達成

 夕方になるにつれて潮が満ちてきたらしく、波に揺られて仕掛けが流される。

 根掛かりしたら面倒なので竿を上げようとしたら、重い感触が手に伝わった。


「うわ、最悪。根掛かりした」


 竿を右へ左へと振りながら荒っぽくリールを巻く。

 この釣り場は手前にテトラポットがあるので、すでに何度も根掛かりをしていた。

 そのため対応も手慣れたものになってきていた。

 しかし今回はなかなか仕掛けが外れない。


「えっ……」


 水面を見て息が止まった。

 なんとクロダイが浮上してきたからだ。


「せ、先輩っ! すごいの釣れてますよ!」


 雪緒も気付き、クロダイを指差して叫ぶ。


「よし、雪緒が釣り上げろ」


 俺は雪緒に竿を渡し、代わりに雪緒の竿を受け取る。


「え、は? む、無理っ! 無理ですって!」


「落ち着いてリールを巻け。大丈夫。釣り上げられる」


「は、はいっ……」


 クロダイは慌てて海の底へ潜ろうと暴れていた。

 しかし針がしっかり食い込んでいるらしく、仕掛けは外れない。


「慌てるな。慎重に」


「お願い、逃げないで」


 はじめは抵抗していたクロダイも、やがて力負けしたように海から浮上する。

 網など持っていなかったので急いで巻き上げて陸に上げた。

 測るまでもなく、三十センチを超えている。


「やったぁー!」


 雪緒は飛び跳ねながら喜び、そのままの勢いで俺に抱きついてきた。

 いきなりの行動に俺は固まってしまう。


 投げ出された竿の先でクロダイが仕掛けを絡めながらビチビチと暴れていた。


「よかったな」


 すぐに離れるのが惜しくなり、抱きつかれた姿勢のまま雪緒の頭を撫でる。


「はい! ありがとうございます」


 雪緒は満面の笑みで顔を上げる。

 俺と雪緒の顔の距離はかなり近かった。

 ほんの二秒ほどその距離で見つめ合ってから、雪緒は慌てて俺から離れる。


「す、すいません」


 ちょっと気まずい空気が流れた。


「これで試練達成だな」


 そんな気まずさなんてなかったかのように俺は笑い流す。


「えー、でもこれって先輩が釣ったことになるんじゃないですか?」


 俺の意図を汲んでくれたように雪緒も軽い口調で返してきた。


「ヒットさせたのは俺だけど釣り上げたのは雪緒だから問題ない」


「そうでしょうか?」


「『七つの試練』の発案者が言うんだから間違いない」


「そうですね。そういうことにしておきましょう」


「記念撮影するから竿ごと魚を持ち上げて」


 ビチビチと暴れるクロダイを持ち上げてポーズを取る。

 逆光で顔も魚もよく見えないけど、俺はシャッターを押して記念撮影をした。


「それじゃあね。バイバイ」


 雪緒は針を外したクロダイをそのまま海へとリリースする。


「え、それもリリースするの?」


「そりゃそうです。あの子は『七つの試練』をクリアさせるためにやって来てくれた神の使いですよ。食べるなんて罰当たりなことできません」


 海に戻ったクロダイは逃げるように大急ぎで海の底へと潜っていき、すぐに見えなくなってしまう。

 俺たちは夕日を浴びながら魚の消えていった黄金色の水面をしばらく眺めていた。



 魚釣りを終えた俺たちは宿泊先のホテルへと向かう。

 意外と距離があることと、一日中釣りをしていた疲れから、移動はタクシーにした。


 ホテルは潮風の影響なのか所々サビも見られ、お世辞にも外観は美しくなかった。

 しかしロビーに入り、その立派さに驚かされた。


「うわっ……なんかすごいな」


 広いロビーの床には踏み心地のいい絨毯が敷き詰められ、天井からはシャンデリアが吊るされている。

 フロント前には様々な形のソファーが置かれており、その奥のバーカウンターには多種多様な種類のお酒の瓶が並んでいた。

 昭和の時代に建てられたリゾートホテルといった趣きである。


 正直俺なんかがこんなところに泊まっていいのだろうかと気後れした。

 汚い格好で釣り竿を担いだ自分が急に見窄らしいものに思えてくる。

 少なくとも家族旅行でこんな立派なホテルに泊まったことはなかった。


「素敵なとこですよね。お料理も美味しいんですよ」


 雪緒はちっとも気後れした様子はなく、慣れた様子でフロントで受付を済ませる。

 案内された部屋は七階で、広い窓からは海が見えた。


「なんか二人で泊まるには広すぎる部屋だな」


 窓辺に置かれた椅子に座り、海辺の温泉街を見下ろす。

 夕日はすでに沈みかける寸前で、空の高いところではすでに夜が始まりかけていた。


「家族で泊まれる部屋ですからね。はいどうぞ」


 雪緒はお茶をテーブルに置き、俺の向かいの椅子に腰かけた。


「ありがとう」


 お茶を飲みながら海に目をやると、先ほどまで釣りをしていた防波堤が遠くに見える。

 先ほど逃がしたクロダイも、あの海の下で九死に一生を得た安堵を感じながら泳いでいるのだろうか。


「ひと休憩したら次はスマートボールですよ」


「そうだったな。すっかり忘れてた」


「忘れないでくださいよ。そのためにここに来たんですから」


「わざわざスマートボールするためにここに来る人なんて他にいないだろうな」


「夕食は八時までに八階にあるレストランに行けばいいんで、まずは試練をクリアしちゃいましょう」


 今日一日で少し日に焼けた雪緒が笑う。


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