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俺の考えたデタラメな都市伝説を信じる美少女後輩に懐かれてしまった  作者: 鹿ノ倉いるか


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26.夕日に隠された笑顔

「見て下さい! すごい釣れてます!」


 雪緒が釣り人を見ながら嬌声を上げる。

 今日は潮がいいのか、元々ここはかなり釣れるポイントなのか、みんなサビキに二匹、三匹と魚を吊るした竿を上げていた。

 それも大人だけじゃなく、子どもまでもが釣っていた。


 雪緒の左右非対称な髪はここでも目立っており、釣り人たちの視線を集めている。 

 雪緒はもちろんのこと、いつも一緒にいる俺もそんな視線は特に気にならなくなっていた。


「ここなら雪緒でも釣れそうだな」


「何ですか、その言い方。私は動画で釣りの研究をしてきたんですから。どっちの方が大物釣れるか勝負ですよ、先輩」


 雪緒はスポーティーなサングラスをかけ、挑発的な笑みを浮かべる。

 そんな洒落たものを持ってきていない俺は、裸眼で光る海原を眺めた。


 先客の邪魔にならない場所を選び、さっそく準備に取り掛かる。

 動画を観て勉強してきたというだけあって、雪緒は以前より手際よく仕掛けを結んでいた。


「皆さんは何を釣っているんでしょうか?」


「サバとかアジみたいだな。群れが来ているのかもしれない」


「へぇ、あれがアジなんですか。お刺身とかフライでしか見たことありませんでした」


 そう言いながら雪緒は餌のオキアミを針に刺していく。

 餌や魚が可哀想だとか痛そうだとか騒がないところに好感を覚えた。


 俺より先に準備が整った雪緒はさっそく仕掛けを投げる。するとすぐにアタリが来た。


「おおっ、せ、先輩、来ましたっ」


「竿を立て、落ち着いてリールを巻いていけ」


「了解ですっ」


 雪緒はおぼつかない様子でリールを巻き始める。

 しかしカリカリカリという音ばかりが響き、魚がなかなか上がってこない。


「これ、かなりの大物なんじゃないでしょうか? すごい引っ張るし、上がってきません」


 雪緒が緊張した顔で俺に助けを求める。


「あ、もしかしてドラグが緩いんじゃないのか?」


「何ですか、それ?」


「リールのテンションを調整するもんだ。緩いとなかなか巻き取れない」


 雪緒のリールを確認すると、やはりドラグがゆるゆるだった。

 キリキリっと音を立てて少し締めると、あっさりと魚が海面に現れる。


「二匹も釣れてます」


「そのままゆっくり上げて」


 かかっていたのは二匹ともサバで、それほど大きな個体ではなかった。


「すっごい大きい魚かと思ったら二匹釣れていたんですね」


 コンクリートの上で跳ね回るサバを掴み、針を抜いて水を張ったバケツに入れる。


「三十センチはないですね、どう見ても」


 そう言うと雪緒は魚を掴んで二匹とも海にリリースしてしまう。


「人生初の釣果だろ、いいのか?」


「はい。どうせ旅先では調理できませんし。あくまで三十センチ以上の魚を釣り上げるのが目的です」


 雪緒はしゃがんで再び針に餌を付けていた。


 その後も小さなサバやアジが面白いくらい簡単に釣れた。

 しかし目的の三十センチ超えのものは現れない。


「大物、なかなか釣れないですねー」


「恐らく若い魚の群れなんだろうな。でも三十センチ超えくらいならそのうち釣れるかもしれない」


 一時間くらい過ぎた頃から徐々にアタリが減ってきた。

 更に三十分ほど立つと、まるで釣れなくなった。

 恐らく群れが去ったのだろう。

 周りも我々と同じサビキ釣りをするファミリー層が多かったので、徐々に釣り人も減っていった。


 しかし雪緒はまるで諦める様子もなく、真剣な表情で竿先を見詰めていた。


「大丈夫か? 暇すぎて倒れるなよ?」


「今日は大丈夫だと思います。楽しいですし、気合も入ってますから」


「それならいいけど」


「それにほら、景色も綺麗ですし。なんか旅行してるって感じですよねー」


 釣り場は海と山が近いので、青と緑に囲まれている。

 更には海岸線に並ぶ漁港がのどかな印象を与えてくれていた。


「確かに旅に来たって感じの景色だな」


「来てよかったですか?」


 雪緒は俺の顔を見て微笑む。

 光の反射だけでは説明できない眩しさを感じ、俺は「まぁな」と適当に返事をして視線を水平線へと向けた。

 もし俺が雪緒と同じ病気ならば、きっとドキドキしすぎて発症していたに違いない。

 雪緒が俺のことを好きでもなんでもないことを願った。


 お昼は釣りを中断したくないという雪緒の主張で、コンビニで買ってきたもので済ませる。

 せっかく旅行に来てコンビニ飯とは味気ないが、海辺で食べるおにぎりは格別だった。


 昼過ぎからも時おりカサゴやフグなどが釣れたが、当然三十センチを超えるものは上がらない。

 日が傾きはじめ、水面が赤く照り返し始めても雪緒は釣りをやめようとはしなかった。

 サングラスをしていない俺は眩しすぎて釣りどころではなくなっていた。


「昨日はもう諦めて明日にしないか?」


 眩しさに目を細めながら雪緒に提案する。


「いいえ。まだ諦めません。先輩は先にホテルに行っててもらってもいいですよ」


 雪緒は水面に視線を落としたまま答える。

 サングラスをしている雪緒は、眩しさなんて感じいないのだろう。


「もう群れもいないし、難しいと思うぞ」


 雪緒を一人にするわけにもいかないので、穴釣り用の仕掛けを付けて隣に座る。


「夕暮れの中で釣りをするのも楽しいじゃないですか」


「今日一日ですっかり釣り好きになったな」


「こんな思いつきの旅に付き合ってくれてありがとうございます、先輩」


 雪緒は俺の方に顔を向け、頭を下げる。

 眩しさとサングラスでその表情はよく分からないが、声からして笑っていないことはわかった。


「いや。俺も楽しいよ。来てよかったなって思う」


「ホントですか? それならよかったです」


 今度は間違いなく笑っていると分かる、弾むような声だった。

 見えてないのに雪緒の笑顔が頭に浮かぶ。


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