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俺の考えたデタラメな都市伝説を信じる美少女後輩に懐かれてしまった  作者: 鹿ノ倉いるか


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25.温泉地へ

『娘のやりたいことなら何でもやらせてあげたい』と言っていた雪緒のご両親だが、まさか男子との二人旅も含まれていたとは思わなかった。

 ちなみにうちのお母さんにはニヤニヤ笑いながら「変なことはしないように」と釘を差されて許可されていた。

 ちなみにこれを機にうちのお母さんと雪緒のお母さんも連絡を取り合って交流が生まれていた。


「ほら、見て下さい。スカイツリーですよ、先輩っ!」


 車窓に現れたスカイツリーを指差して雪緒がはしゃぐ。


「朝からテンション高いな」


「だって旅行の朝ですよ。そりゃテンション上がりますって」


 満面の笑みを向けられ、俺は視線を逃がすために遠くで霞むスカイツリーに目を向ける。

 俺だって雪緒に負けず劣らずテンションは上がっていた。

 そりゃ好きな女の子と旅行に行けるとなれば、テンションも上がる。

 けれどそれを隠すため、適度に退屈そうなふりをしていた。

 恋愛感情を募らせてしまったら、結果的に雪緒の病状を悪化させる結果につながりかねないからだ。


「東京に住んでいたんだからスカイツリーなんて珍しくもないだろ」


「私が住んでいたのは世田谷区ですから見る機会がほとんどなかったんです」


 そう言いながら雪緒が海外製のグミを差し出してきたので一つ受け取って口に放り込む。


「しかし雪緒のご両親もよく許したよな」


「そりゃ先輩に揺るぎない信頼を寄せてますからね。私が倒れた時もすぐに救急車を呼んで対処してくれましたし」


「救急車呼んだだけだし、ずっとオロオロしてて役に立ってなかったけどな」


 今日駅まで送りに来てくれた雪緒のご両親のことを思い返す。

『娘をよろしく頼むよ』と言ったおじさんの顔は、いつもよりちょっとだけ怖かった。

 お父さんの方の信頼はまだ揺るぎないものではないのかもしれない。


「『あのとき椿本君ががいなかったらどうなっていたことか』ってうちの親はすごく感謝してました」


「それにしたって二人きりで旅行まで許すか?」


「私がやりたいことをやらせるっていうのが一番健康につながりますからね」


「まあ、そうだな。今日は体調いいのか?」


「はい。発症しそうな気配はありません。いたって健康ですよ」


「ならよかった。ヤバそうになったらいつでも言えよ」


「ありがとうございます、先輩」


 雪緒は少し照れくさそうに微笑んで頷く。

 その笑顔が可愛すぎ、不覚にもまた胸が弾んでしまう。

 気持ちを鎮めるために視線をスマホに落としてやり過ごした。


 東京が近づくたびに建物が密集し、高いビルが増えていく。

 当たり前だが俺たちの住む茨城北部の田舎町とは比べ物にならないほど都会だ。

 百数十キロしか離れていないが、まるで別世界のようである。


「相変わらずごちゃごちゃしてるなぁ、東京は」


 雪緒は眉毛を下げ、ため息混じりで街を見る。


「活気があっていいだろ。いろんな店もあるし、お洒落で華やかだ」


「そんなのうわべだけですよ。人が多すぎて醉うし、電車の乗り換えとか面倒だし、夏は嫌になる暑さだし、物価高いし、いいことなんてありません」


「そりゃ嫌なところもあるかもしれないけど、田舎みたいに退屈じゃなくていいだろ」


 そう反論すると雪緒はじぃっと俺の顔を見てきた。


「な、なんだよ?」


「もしかして先輩、卒業したら上京しようとか考えてます?」


 誰にも話していなかったことを言い当てられ、思わず動揺してしまう。


「なんで分かるんだよ?」


「都会に憧れる青年って顔してましたから」


 どんな顔だよと思ったが、言い当てられたんだからきっとそんな顔をしていたのだろう。


「まだ誰にも話してないからマナにも言うなよ」


「お母様にも?」


「まだ言ってない」


「先輩が家を出たらお母様一人きりになっちゃうじゃないですか」


「子どもなんていつか巣立つものだろ。それにお母さんにはお母さんの人生もあるだろうし」


「お母様の人生って……もしかして再婚されるんですか?」


「別に具体的に予定があるわけじゃない。でも俺みたいな大きな息子がいると、色々と障害になるかもしれないだろ」


「そうでしょうか? いずれにせよちゃんと一度しっかりと話し合ったほうがいいと思いますよ」


 雪緒の説教口調を遮るように東京到着のアナウンスが流れる。

 俺は救われた気持ちで棚から鞄を下ろし、降りる準備をはじめた。

 雪緒はまだ何か言いたそうだったが、無視をしておく。


 東京駅に来たのははじめてというわけではないが、かなりの複雑な構造に驚かされる。

 目的の温泉地へは新幹線に乗り、更にそこからローカル線に乗り継がなければいけなかった。


「こっちですよ、先輩」


 雪緒はさすが東京出身というだけあって、迷うことなく進んでいく。

 ものすごい人の流れで、進みたい方向に行くのも難しい。

 人混みに酔うと言っていたわりに雪緒はまるで苦にする様子もなく、スイスイと上手に進んでいった。


 各駅停車の新幹線に一時間ほど乗り、そこから海岸線を走るローカル線で三十分ほど揺られた先に目的の温泉地があった。


 名前は聞いたことがある有名な温泉地だが、駅前は意外と寂れている。

 俺たちは荷物と釣り道具を担ぎながら駅前のイチョウ並木の通りを海へ向かって歩いていった。


「シャッターが閉まってる店が多いな」


「私が小さい頃来たときはもっと賑やかだった印象なんですけどね」


 雪緒は寂しそうな目をしてシャッターの並ぶ通りを眺めていた。

 だが海岸通りまで来ると、雪緒は目を輝かせながら足取りが軽くなった。


「うわぁ、懐かしい」


 道路沿いには干物屋や海鮮が自慢の料理店が点在していた。

 青空の下に広がる海は日差しを反射して煌めいており、その眩しさに目を細めた。


「なんか大物が釣れそうな海だな」


「でしょ? さあ早く行きましょう!」


「落ち着け。まずは餌を買わなきゃ釣りができない」


「あ、そうでしたね」


 防波堤近くにあった釣具店で餌を購入し、釣り人が集まるポイントへと向かう。

 土曜日ということもあり、多くの家族連れの姿があった。




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