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俺の考えたデタラメな都市伝説を信じる美少女後輩に懐かれてしまった  作者: 鹿ノ倉いるか


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20.真実を告げる

「推理ついでにもう一つ。もしかして幽霊墓地の試練の途中で発症したんじゃないのか?」


「すごっ!? なんで分かったんですか?」


「あのとき十分ほど帰ってこなかっただろ。だけど雪緒の悲鳴は聞こえなかった。病気のことを知って、もしかしたらって思ったんだ」


「なるほどー。さすが名探偵の先輩です。実はあの時も軽い症状が出て、数分寝ちゃったんですよ」


 その言い方だとなんだか名探偵を後輩に持つ奴みたいだが、どうでもいいのでスルーした。


「そんな短い時もあるんだ」


「まちまちですね。でもたいていは数分です。長い場合でも一時間くらいですね。今日のは結構長い方でしたよ」


「あんなにいきなり発症するとなると大変だな。学校にいるときに起こったら大変だろ?」


「まあ数分なら居眠りってことで誤魔化せるんじゃないですか。いつも変なことばかりしてるから、授業中居眠りしてても『あの子ならそんなもんか』と思われるでしょうし」


「イジってくる友達もいないしな」


「余計なお世話です」


「でもクラスメイトはともかく、先生は居眠りなんてしていたら怒るだろ」


「そこは心配ありません。学校には病気のことを伝えてありますから」


 雪緒は脚をブラブラさせ、海面に浮かぶ鳥を眺めながら答えた。


「なんかごめん。無神経にあれこれ質問しちゃって」


「いえ、全然いいです。他にも聞きたいことがあったら何でも聞いて下さい。どうせバレたんですから何でも話しますよ。先輩には全部知って欲しいですから」


 これからも雪緒の試練やら動画撮影の協力をするためには、病気について詳しい方がいい。

 俺は遠慮なく質問を続けた。


「発症するきっかけとかはあるのか?」


「はっきりとは分かってないんですけど、緊張すると起きやすいです。でも逆に退屈すぎてもたまに起こりますね。怒ったり、悲しんだりしても発症することもあります」


「色々ダメなんだな。厄介だ」


 だから肝試し的な幽霊墓地でも、全く当たりのない退屈な釣りでも起きたのかと納得する。


「だから私は好きなことを思いっきりやって過ごしてるんです。そうすれば退屈することもないですから。嫌なことは極力しないので、あまり怒ったり、緊張する場面もありませんし」


「あー、なるほど。そういうことだったのか」


 雪緒の能天気なまでの明るさには切実な問題があったと知り、少し切なくなる。


「そういえば病気のことを他に知ってる人はいるの?」


「いません。先輩だけです」


「東京にも?」


「はい。そもそも友達がいないんで言う相手もいませんでしたし」


 俺にイジられたら怒るくせに、自分で『友達がいない』という自虐ネタを言うのは好きなようだ。


「でもさ、よく考えたらそんな難病なら東京の大きな病院で診てもらっていた方がよかったんじゃないのか? なんでわざわざこんな田舎に」


「治療法はおろか原因も分からない病気ですよ。大きな病院に行ったところで検査ばかりで意味もないですから」


「でもいつか治療法も見つかるかもしれないし」


「見通しがない『いつか』を待ってこれ以上人生を費やすのも勿体ないじゃないですか。それなら私のことを誰も知らない土地で、元気な時に好きなことやろうと想いまして。そもそも命には別状ないんですし。お医者さんものんびり気楽に過ごせる環境で生活するのが一番だと言ってくれました」


「それはそうだけど……」


 この口振りだといつか二度と目覚めなくなるかもしれないということは、雪緒本人には伏せられているのかもしれない。

 余計なことを口走らないよう、俺は会話を切って視線を海へと向けた。


「聞きたいことは以上ですか?」


「もしかして『七つの試練』に挑んでいるのは病気を直して欲しいという目的のためか?」


「あ、やっぱり気付きましたか? 正解です。まあそれ以外にも叶えたい夢もあるんで、迷い中ですけど」


 雪緒はにっこりと笑って頷く。

 その曇りない笑顔を見て、胸が痛んだ。


 あんな試練なんて俺の考えた嘘っぱちだ。

 まるで何の効果もないことをこれ以上させ、時間を無駄にさせたくない。

 それに願いが叶わなかったことで失望もさせたくなかった。


「実はな、雪緒。あの『七つの試練』っていうのは俺が小学生の頃に考えて広めたものなんだ。何の意味もないデタラメな伝説だ。だからあんなものを達成したところで夢なんか叶わない」


「ええー!? 先輩が!?」


 雪緒は目がこぼれ落ちそうなくらい見開いて驚いていた。


「ごめんな。だからもうやめておけ」


「いや、私はやめません。それに夢は叶うかもしれませんし」


「えっ……俺の話聞いてたのか? 小学生の頃の俺が考えたデマだぞ」


「そんなこと言ったら伝説だとかおまじないだとか、だいたい誰かが考えたデマですよ。まあ本当のものもあるかもしれませんけど」


「身も蓋もない言い方するな」


「どこの誰かわからない人が考えたデマより、知ってる先輩の考えたデマの方がマシな気がします。私、先輩のこと信頼してますから」


「どういう理論だよ」


「それに七つの試練でお金持ちになる夢を叶えた人もいるって噂ですし」


「雪緒ってネットに書かれた都市伝説とか全部信じそうだな」


「とにかくここまで来たら私は七つの試練を乗り越えるつもりです」


 どうやら意志は固いようだ。

 まあ俺の考えたデマだということは伝えたから、そんなに本気にはしてないだろうけど。


 俺も本当のことが言えて、なんだか胸の重りが取れて心が軽くなった気がした。



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