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俺の考えたデタラメな都市伝説を信じる美少女後輩に懐かれてしまった  作者: 鹿ノ倉いるか


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2.不思議ちゃんの気遣い

 家に戻ると風呂上がりの寒河江が、俺の服を着てドライヤーで髪を乾かしていた。

 左右で長さが違うと乾き方も違うんだろうな、なんてどうでもいいことを思った。


「ほら、買ってきたぞ」


 下着を渡すと寒河江は喜びながら開封する。


「ありがとうございます! わあ、可愛いレース付きです、ほら。コンビニ下着も侮れませんね」


「おい、そんなものを俺に見せるな」


 やはりこの子はアホなのだろう。


「見せるなって、先輩が選んで買ってきたんですよね?」


「いいから俺の部屋で早く着替えてこい」


「はーい。失礼しまーす」


 アイスコーヒーを淹れていると、着替えた寒河江がやって来る。

 俺の服を着た寒河江は、子どもがふざけて大人の服を着たかのような感じだった。


「先輩、本当に大きいんですね」


「悪いな、そんなものしかなくて」


「いえいえ。助かりました。ありがとうございます。あ、アイスコーヒー、淹れてくれたんですね。ありがとうございまーす」


 寒河江はアイスコーヒーをキューッと一気飲みすると、すごい勢いで帰っていってしまった。

 最初から最後まで変な奴だった。

 まあもう二度と関わることはないだろうけど。



 ──しかし俺の予想は裏切られることとなった。


 翌日の昼休み、寒河江雪緒はいきなり俺の教室にやってきた。

 髪を一つにくくっているので、左右非対称のいびつ感は隠されている。


「先輩、昨日はありがとうございました!」


「何の用だ?」


 俺のところに後輩の女子がやって来るという違和感に、クラスメイトの視線が集まりちょっと気まずい。 


「これ、お返ししようと思って」


 そう言って紙袋を渡してきた。

 中を見ると昨日貸した服と可愛くラッピングされた袋が入っていた。


「あ、一応コインランドリーで洗濯してますんで」


「わざわざいいのに」


「それでは失礼します」


 寒河江はニコっと笑うと、ジロジロと向けられる視線なんてまるでないかのように涼しい顔で教室を出ていく。

 その堂々とした態度に、俺は不覚にも好印象を持ってしまった。


 それにしてもお礼のお菓子でも入れてくれたのだろうか?

 意外と気の利くやつだな。

 少し浮かれながらラッピングされた小袋を手に取ると、その下に昨日買って渡した下着が入っていた。


「うわっ!?」


 慌てて紙袋を閉じ、机に押し込んだ。

 やっぱりバカだ、あいつ。



 帰宅途中、まさかと妙泉神社を覗くと、寒河江が泉の傍で石を拾っていた。

 昨日の失敗があるので、わざと足音を立てながらゆっくりと近付く。

 足音に気付いた寒河江が振り返り、俺の姿を確認してパッと華やいだ笑みを浮かべた。


「あ、先輩。こんにちは」


「こんにちはじゃない。もうやめろって言っただろ」


「そうはいきません。願い事があるんですから」


 寒河江は俺の忠告を無視し、小石を構える。


「貸してみろ」


 寒河江が持っていた石を受け取り、ふわっと投げて岩の上に着地させる。


「うわっ!? すごいですね、先輩」


「勢いよく投げたらダメなんだ。ふわっと置くように投げるのがコツだ」


「なるほど。勉強になります」


 寒河江は頷いたあと、またしゃがんで小石を選びはじめる。

 学校で見たときは括っていた髪を解き、相変わらずの左右非対称なヘアスタイルに戻ってきた。


「髪、括ってないんだな」


「髪を括ったほうが投げやすいんですか?」


「いや、そうじゃなくて。教室に来たときは括っていたから」


「あー、あれは先輩に迷惑をかけないためです」


「俺に迷惑?」


 意味がわからず寒河江を見る。


「変な髪型の女子の後輩が訪ねてきたら、何事かと注目を集めてしまうじゃないですか。括っておけばアシンメトリーさをごまかせるかなと思って」


 そんなに気を遣うタイプだとは思ってなかったので意外だった。

 というか──


「変な髪型って自覚はあったんだな」


「もちろんです」


 自覚があるのになぜそんなことをするのか気になったが、ややこしい事情があると面倒なのでスルーした。


 代わりに小石を拾い、もう一度岩の上へと投げ落とす。

 しかし久しぶりなのでコントロールが定まらず、小石は音を立てて泉に沈んでいった。


「まあ今のはちょっと手元が狂っただけだ。とにかくふわっと柔らかくな。やってみろ」


「はい」


 寒河江の投げた小石は一度は岩の上に乗ったが、跳ねてぽちゃんと泉に落ちる。


「あーっ! 惜しいっ」


 寒河江は悔しそうにギュッと拳を握った。


「少し勢いが強かったな。もっと柔らかく投げてみろ」


 投げやすそうな平べったい石を拾って渡したが、寒河江は首を振った。


「一日三回までと決まっているんです。だから今日はもう終わりです。そういうルールですから」


「なんだ、それ? 『七つの試練』は三回連続で乗せられたら成功ってだけで一日の制限回数はないぞ」


「それは亜流ですね。正式ルールでは一日三投だけです」


「いやいや。そんなルールないから」


 発案者の俺が言うのだから間違いない。

 しかし寒河江は口の端を上げ、せせら笑う。


「私のは綿密に調べた確かな情報ですから。先輩が言ってるのはあとから派生したローカルルールですね」


「……あっそ。まあいいけど」


 偽情報扱いされて柄にもなくムッとしてしまったが、こんなくだらないことで言い争っても仕方ない。

 ましてや『七つの試練』の発案者が自分だなんて、間違ってもカミングアウトしたくなかった。


「そんなことより寒河江。服を洗って返してくれるのはいいけど、下着まで返してくるな」


「なんでですか? 借りたものは返さないと」


「あれは貸したんじゃなくてあげたんだ。そもそも自分が穿いた下着なんてよく男に返せるな」


「ちゃんと洗濯してあるから大丈夫です。洗ってない下着なら私だって恥ずかしいですけど、洗濯乾燥済みなら問題なくないですか?」


「そういうもんなのかなぁ?」


 俺が意識しすぎただけなのだろうか?


「まあいずれにせよ俺が持ってても仕方ないから寒河江にやるよ」


「彼女さんにあげたらいいじゃないですか」


「彼女はいない。ていうかいたとしてもあげられないだろ」


「洗濯してても?」


「洗濯しててもだ。てかさすがにそれは俺をからかってるんだろ?」


「バレましたか?」


 寒河江は悪びれた様子もなく笑う。

 何が楽しいのかはしらないが、寒河江はいつだって笑顔だ。

 きっと悩みなんて何もないのだろう。


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