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俺の考えたデタラメな都市伝説を信じる美少女後輩に懐かれてしまった  作者: 鹿ノ倉いるか


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19.関わる決意

「大丈夫?」


 おばさんが心配そうに俺の目を覗く。


「すいません。大丈夫です」


 本当は全然大丈夫なんかではなかったが、俺なんかよりご両親や雪緒本人の方がよほどショックのはずだと堪える。


「事情も知らず巻き込んでしまって申し訳なかったね」


「いえ……そんなことなかなか言い出せないという雪緒さんの気持ちも分かりますから」


「この子は普通の生活をすることが難しい。もちろん病気が発症してないときは何の不自由もないが、いつどこで発症するか分からない」


 おじさんは慈しむように雪緒を見下ろし、少しズレていた布団を直す。


「君にも必ず迷惑をかけることとなるだろう。だから申し訳ないが娘とはこれ以上関わらないで欲しいんだ」


「迷惑だなんて、そんな」


「君がとても優しい子だということは分かる。いっときの同情じゃなく、本気で娘を心配してくれているのも伝わってきている。しかしだからこそ君の人生を狂わせる前に言っているんだ」


 おじさんは申し訳なさそうに頭を下げた。


「いや、俺は──」


「んんっ……」


 反論しかけたとき、雪緒がベッドの中で声を上げ、目を擦る。


「雪緒っ……」


 慌てて駆け寄ると雪緒は驚いた顔で俺を見た。


「先輩っ……お父さん、お母さんも……」


 雪緒は辺りを見回し、ここが病院であることに気付いたようだった。


「あー、もしかして私、先輩の前でやっちゃいましたか?」


 雪緒はあっけらかんとした調子でチロッと舌を出して微笑む。


「ああ、盛大にな。ビビったぞ、マジで。いきなり倒れるんだからな」


 本当はかなり落ち込んでいるのかもしれない。

しかし軽く流そうとする雪緒の意思を尊重し、俺も笑いながら返す。


「雪緒」


 おじさんが何か言おうとしたのをおばさんが腕を掴んで止める。


「病気があるなら言っておけよ。ビックリするだろ」


「バレちゃいましたか。すいません。嫌われるかなって思って」


 雪緒は申し訳なさそうに俯く。


「ふざけんな。そんなことで嫌うかよ」


「ありがとうございます」


 雪緒はペコっとお辞儀をし、その反動でミドルボブの髪の方だけ揺れる。


「魚釣りの試練はまた今度な。体調のいい日に再チャレンジだ」


「え、いいんですか?」


「当たり前だろ。せっかく釣り道具一式買ったんだろ」


「はいっ!」


 雪緒は元気よく頷く。

 その姿を見ておじさんは俺に小さく頭を下げていた。


「あれ、ところで先輩、釣り竿とかどうしたんですか?」


「あ、やべ。全部置いてきた」


「えー!? 買ったばかりなのに」


「仕方ないだろ。それどころじゃなかったんだよ。すぐ取りに行くから大丈夫だ」


「じゃあ私も行きます」


「いや、無理だろさすがに」


 病気のことは分からないが、起きたばかりなのにすぐ動くなんて無茶な気がした。


「大丈夫よ。目覚めたら普通だから。むしろ起きたばかりの今が一番体調いいくらいなの」


 お母さんが笑いながら雪緒の靴をベッドのそばに置く。

 雪緒は喜びながらベッドから降りて靴を履いていた。

 俺に見せるのとはまた違う、娘としての雪緒の顔だ。


 病院を出た俺たちはおばさんの運転する車で釣り道具を忘れた港まで送ってもらった。

 二人とも自転車で来ていたので、帰りは自転車に乗って帰るとご両親に伝える。


 今日はまるで釣れない日のためか、釣り人たちの大半はいなくなっていた。

 俺たちの釣り道具は何ひとつ欠けることなく放置されていた。

 改めて日本の治安の良さに感謝する。


「少しその辺りをブラブラしてから帰るか」


 釣り道具を詰めた鞄を持ち上げながら提案すると、雪緒は「はい」と控え目に頷く。

 いつも無駄なくらいに元気な雪緒だが、今はかなり沈んでいる。

 さすがに病気のことが俺にバレて落ち込んでいるのだろうか。


「すいません、先輩。ご迷惑をおかけして」


 申し訳なさそうに謝る雪緒を見て、俺は思わず吹き出してしまった。


「なんで笑うんですか?」


「それ、今さら言うことか? 迷惑なんて泉に落ちたあの時からずーっとかけられっぱなしだ」


「ひど。先輩、私のこと、ずっと迷惑だって感じてたんですか?」


 雪緒はムッとした顔になり、ペチッと俺の二の腕を叩く。


「そりゃそうだ。だから今さら迷惑だとか思うな」


「なんか納得いきませんけどありがとうございます」


 雪緒は不服そうにお礼を述べて、防波堤に腰掛ける。

 俺は手が触れない程度の間隔を開けてその隣に座った。

 女の子と並んで座って夏の終わりの海を見るなんて、実に俺らしくない行動だ。


「病気のこと、訊いても大丈夫か?」


「はい。いいですよ」


「中二のときにはじめて発症したってお父さんから聞いたんだけど」


「そうです。今から約二年前ですね」


「もしかして体操の大会のときに発症したんじゃないのか?」


「え、そうです。なんで分かったんですか?」


 雪緒は驚いた顔で俺を見る。


「やっぱり。実は雪緒の体操の大会の動画をビューキューブで観たんだ。そこでちょっと違和感を覚えて」


「違和感?」


「平均台から落ちるとき、何でもないようなところで急にふらっと落ちただろ。まるで気を失ったかのように」


「何でもないところとは失礼ですね。技を決めたあと態勢を整えるのって難しいんですよ」


「そうなのか。それは悪かった。でもそれ以上に違和感があったのは、落ちたあとだ。急に慌てた様子で大人が駆け寄ってきただろ。普通落ちてもまたすぐ起き上がって平均台に上るんじゃないのか? それなのにいきなり人が起こしに来るのは変だなって」


 そう告げると雪緒は俺の顔を見て感心したように頷いた。


「へぇ。先輩って実は鋭い観察眼を持ってるんですね。驚きました。その通りです」


「そんな大層なものじゃない。俺だって初見のときはちょっと違和感があっただけだ。雪緒の病気のことを聞いてそれが繋がっただけだから」


「いやいや、なかなか鋭い推理です」


 辛い過去の話なのに雪緒はパチパチと拍手をしておどける。



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