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俺の考えたデタラメな都市伝説を信じる美少女後輩に懐かれてしまった  作者: 鹿ノ倉いるか


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17.大物を釣り上げろ

 土曜日の早朝、俺と雪緒は釣り場として地元で有名な港に来ていた。

 目的はもちろん『七つの試練』の一つ、三十センチ以上の魚を釣り上げることだ。


 まだ日が昇ってそれほどの時間が経っていない時刻なのに、既に多くの釣人が糸を垂らして朝日の照り返す水面を見詰めていた。


「私釣りするの初めてなんです。なんだかワクワクしますね」


 キャップにサングラスと格好だけは一人前な雪緒は、買ったばかりだという竿を鞄から取り出す。


「わざわざ『七つの試練』のためにそんな立派な道具揃えたのかよ?」


「もちろん買った目的は試練のためですけど、これでハマって釣りが趣味になるかもしれないじゃないですか」


「釣りはジッと待つのが基本だぞ。あんまり雪緒に向いているとは思えない」


「何ですか、その言い方。まるで私が落ち着きのない子みたいじゃないですか」


「『落ち着きのない子みたい』じゃなくて、落ち着きのない子そのものなんだよ」


「失礼ですね。こう見えても授業中とか静かに集中する方なんですよ」


 ツンっと俺から顔を背け、雪緒は仕掛けをセットする作業に取り掛かる。

 しかしサビキの仕掛けを袋から取り出すことにさえ苦戦して、さっそく糸をぐちゃぐちゃにしていた。


「ちょっと貸して」


 こんがらがった糸をほぐし、仕掛けを伸ばしていく。

 その様子を見て、雪緒は目を丸くしていた。


「すごい。手品みたいですね」


「やり方がわからないとそう見えるのかもな。別に大したことをしているわけじゃない」


「でも先輩、なんでこんな針がたくさんついている仕掛けを使うんですか? 普通釣りって魚の形をしたルアー? とかいうやつを使うんだと思ってました」


「あれはもっと大きな魚を釣るときに使うものだ。それにルアーで釣るのは難しい。初心者には向いてないんだ」


『七つの試練』では三十センチ以上の魚を釣り上げないといけない。

 そのクラスのサイズを狙うなら、雪緒の指摘通りサビキよりルアーのほうが向いている。

 しかし全く釣れなければ雪緒も張り合いがないと思い、あえてサビキ釣りにした。


 それに俺がこの試練をクリアしたのもサビキ釣りである。

 たくさん釣れれば一匹くらい運良く三十センチクラスのものも釣れるだろう。


 釣り糸を垂らして二十分。

 未だに釣れないはおろか、アタリすらない。

 子どもの頃は釣ってる時間より餌を付けている時間のほうが長いくらいに爆釣だったのが嘘のようだ。

 数年前とは潮の流れが変わって釣れなくなったのか、単に今日が良くないだけなのか分からないが、周りでも釣れてる人がいない。


 雪緒はなんの変化もない竿を握り、あくびを噛み殺していた。

 明らかにもう飽きている感じだが、俺に笑われないために集中するフリをしている。

 それにしても少し岸から離れすぎているな。

 海に落ちるのが怖くてバックしているのだろうか?

 まあ泉に落ちた前科があるので、いい心がけではある。


「先輩、どうでもいい話をしていいですか?」


「かまわないけど」


「私、猫の年齢って納得いかないんですよ」


「猫の年齢?」


「はい。よく猫の一歳は人間でいうと十八歳で、十歳だと人間でいうと五十歳代とか言うじゃないですか」


「ああ、たまに聞くな」


「生後二ヶ月の猫は人間でいえば三歳だそうです。でも人間の三歳があんなに早く走れますか? 机の上とか軽々とジャンプして上れますか? 無理ですよね。

 それに猫の知能は成猫でも人間の二〜三歳って言われてます。人間の年齢で言えば五十歳のおじさんでも三歳児並みの知能ですよ?」


「俺もよく知らないけど人間に換算した猫年齢って、骨格とか内臓機能とか寿命を元に考慮したものなんじゃないのか?」


「無理やり人間に換算するのが嫌なんです。別に猫の五歳は猫の五歳、十歳は十歳でいいじゃないですか。それなのにすぐ『この子は五歳。人間でいえば三十五歳くらいです』とか言いますよね」


 雪緒は不服そうに唇を尖らせる。


「別にいいだろ。なにか問題があるのか、それ?」


「ありますよ。なんか可愛くないじゃないですか」


「どうでもいいよ、そんなこと」


「だからどうでもいい話をしていいですかって最初に訊いたんです」


 その導入で本当にどうでもいい話をする奴ははじめて見た。


「暇なんだろ? もう飽きたか?」


「いいえ、全然。楽しいです」


 雪緒は表情を変えず竿を握って海と向き合っている。

 このままでは三十センチ超えの魚はおろか、小さなフグの一匹も釣り上げられなさそうだ。


 オキアミを掬い、撒き餌として海に投げる。

 焼け石に水だとは思うがしないよりはマシだ。

 三十センチの魚は無理でも、せめて魚を釣り上げる楽しさくらいは雪緒に体験させたい。


「あまり同じところばかりに投げないでたまには手前とかにも仕掛けを入れてみろ。案外岸の近くは魚がいるんだぞ」


 竿を持つ雪緒の手を握り、仕掛けを手前の岸ギリギリのところへ落とす。

 その瞬間、突然雪緒がふらっと身体を前のめりになり、そのまま地面に倒れた。


「雪緒っ!? 大丈夫か!?」


 慌てて雪緒を抱き起こす。

 しかし雪緒は何の反応をせず、気絶したように首も腕もだらんと脱力させていた。


「しっかりしろ、雪緒っ!」


 一体何が起きたのかさっぱりわからない。

 混乱した俺は叫びながら雪緒に呼びかける。

 周りの釣り人たちは何事かと驚いたように集まってきていた。


「救急車をっ! 誰か救急車を呼んでくださいっ!」


 俺は雪緒の上半身を抱きながら必死に叫んでいた。





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