16.友達の距離感
「羨ましいって……雪緒もおままごとしたいのか?」
「そうじゃありません。幼なじみって羨ましいなぁって思いまして」
ぼそっと呟く雪緒を見て、マナがなぜか勝ち誇ったようににやりと笑う。
「そりゃここは私の地元だからね。でも寒河江さんも東京に幼なじみくらいいるでしょ」
「いえ。いません」
「は? いやいや……普通いるでしょ。幼なじみだよ?」
マナの問い掛けに雪緒はゆるゆると首を横に振る。
「いないんですよ、それが。私にはそもそも友達がいなかったので」
「えっ……そう、なんだ。へぇ……」
マナは気まずそうに笑みを消し、チラッと雪緒の左右非対称の髪を見てから目を伏せた。
絶対勘違いしてるな、マナのやつ。
「雪緒に友達がいないのは変な髪型とか変わった性格が理由じゃない。毎日体操の練習をしていたからだ」
勘違いしたままだとよくないと思い、余計なお世話なのかもしれないが雪緒の生い立ちをマナに聞かせる。
はじめはつまらなさそうに聞いていたが、次第に申し訳なさそうに目を伏せていった。
最近はやや冷めていて他人に厳しいように見えるマナだが、根の優しさは昔のままだったようだ。
「ごめん、寒河江さん。友達がいないって言われて、変わってるからなのかなとか失礼なこと想像しちゃってた」
「いえ。気にしないでください。これまで一人も友達がいないなんて聞いたら、誰だってそんな風に思っちゃいますから」
「まあ変わってるというのも、友達が出来なかった要因の一つだとは思うけど」
「ひどいです、先輩。せっかく感動的な流れだったのに」
雪緒は少し拗ねた顔で俺を睨む。
「まあ寒河江さんの友達のハードルが高い気もするよね。普通クラスで仲良くしてたら友達って認識だし」
「そうなんですか? じゃあ私とマナさんも友達ですね」
「いやいや……うちらはクラスでも会話してないし」
「たまに私から話しかけてるじゃないですか」
「その程度では友達とは呼ばないから」
「じゃあどこからが友達なんですか? 十回会話したらですか? 一緒にお昼を食べたらですか?」
雪緒にぐいっと顔を寄せられ、マナはたじろぐ。
「そんな具体的な基準はないけど……」
「じゃあ私たちは友達です。同じクラスでたまに会話するんですから」
マナは「なんとかしてっ!」という顔で俺を見る。
すっかり雪緒のペースに巻き込まれたようだな。
「別にいいだろ、友達で」
俺がそう言うと雪緒が頷く。
「先輩の言う通りです。別にいいじゃないですか。減るもんじゃありませんし。むしろ友達が増えるんですよ」
「そりゃまぁ……別にいいって言えば、いいけど……」
勢いに押されてマナが頷くと、雪緒は満面の笑みを浮かべる。
「ありがとうございます、マナさん。じゃあ『寒河江さん』なんて堅苦しい呼び方をやめて、これからは私のことは『雪緒ちゃん』って呼んでください」
「そういうのって自然となっていくものなの。ルールみたいに決めるもんじゃないから」
「えっ、そうなんですか!? てっきりはじめに呼び方を決めているんだと思いました」
友達初心者の雪緒は心底驚いた顔をする。
その顔を見て、マナがプッと吹き出した。
「なんで笑うんですか?」
「ごめん。本当に友達いないんだなぁって思って」
強引に友達にさせられたが、それほど悪い雰囲気ではなかった。
もしかすると雪緒が言う通り、この二人は本当に相性がいいのかもしれない。
「じゃあ友達になったし、これからは一緒に『七つの試練』にチャレンジ出来ますね」
「いやそれは無理。私、放課後は部活で忙しいし」
「えー? そうなんですか。残念」
「試練はもう一人の友達と頑張ってね」
マナは俺の背中をポンポンと叩いて笑った。
「おい、面倒なことだけ俺に押し付けるな」
「そうですね。夢に向かって頑張りましょう、先輩」
「そういうセリフはもっと具体的な目標に向かって努力するときに言うものだ」
相変わらず変わってるし、マイペースだし、人の話を聞かない奴だ。
しかしなんだか放っておけない魅力を感じる。




