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俺の考えたデタラメな都市伝説を信じる美少女後輩に懐かれてしまった  作者: 鹿ノ倉いるか


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14.約束の地

『約束の地』は電車で一駅移動した駅前の『ふれあい通り』にある。

『ふれあい通り』とはこの街のかつてのメインストリートなのだが、その名称とは裏腹に通りを歩いてもあまり人に触れ合うことはない。

 人口流出が止まらず寂れた街は、経営不振の遊園地のように閑散としていた。


「レトロな感じがして素敵な街ですね」


「それって住んでる人からすると結構失礼な言葉だと思うぞ」


「そうなんですか。じゃあ昭和の情緒を感じる文化遺産って感じです」


 余計ひどくなった気がしないでもないが、スルーしておく。

 まぁ東京から来た人の目にはそんな風に映るのだろう。


「この近くにその『約束の地』はあるんですか?」


「ああ、すぐそこだ」


 ふれあい通りをしばらく歩いたところにある駐車場の前で俺は立ち止まる。


「ここだ」


「えっ……この駐車場が約束の地なんですか?」


 雪緒は目を丸くして驚く。

 そりゃこんなどこにでもある屋根もない駐車場が『約束の地』と言われても困惑するだろう。


「正確には『約束の地』の跡地だ」


「へ? なんですか、それ」


「ここには元々小さなショッピングモールがあった。そのショッピングモールのフードコートが約束の地だったんだ。『七つの試練』をクリアした後、フードコートで願いが叶うという内容だ。しかし三年前に潰れて、今は見ての通り駐車場になっている」


 広い割に大して車に止まっていない駐車場を見ながらそう告げた。


「そんな……じゃあ七つの試練をクリアしても……」


「そう。願いを叶えてくれる『約束の地』は既にない。つまり試練をしたところで意味がないんだ」


 唖然とした様子だった雪緒だが、ハッと何かひらめいたような顔をして俺を見た


「ショッピングモールはなくなっても、この場所で願いを叶えてもらえるんじゃないでしょうか?」


「は? いやいや。それはないだろ。フードコートっていうのがルールなんだから」


「フードコートが大切なわけじゃないんです。この場所が重要なんですってば。力が宿っている土地なんです」


 雪緒は『一時間二百円』という駅前にしては安い料金の書かれた看板を指差して力説する。


 この場所……

 ここで待っていれば……


 嫌な過去がフラッシュバックし、慌てて振り払う。


「あっそ。人がせっかく親切で教えてやったのに。勝手にしろ」


「はい。勝手にしますね」


 雪緒を諦めさせるのは不可能なようだ。

 俺はため息をつきながら駅へと歩き出す。


「どこ行くんですか?」


「帰るんだよ」


「せっかく来たんですからこの街を探検していきましょうよ」


「こんなとこ、別に見て回るほどのものはない」


「ほら、あっちの方にお洒落な喫茶店がありますよ」


 雪緒が指差す先に昭和の時代からタイムスリップしたような喫茶店があった。

『エーゲ海』という店名がかろうじて読める程度のボロボロな看板は、レトロを通り越してホラー感を醸し出している。

 これを『お洒落な喫茶店』と言える雪緒のセンスを疑ってしまう。


「少し休憩していきましょうよ、先輩」


「ふざけんな。せめてもう少しまともなとこに行くぞ。駅の反対側にはなんかチェーン店の喫茶店があったはずだ」


「そんなもの興味ありません。私は一人でも行きますからね」


 そう言いながら雪緒は俺の腕を引っ張る。


「引っ張るな。一人で行くんだろ。言ってることとやってることが真逆だぞ」


「ほら、行きますよ」


 ため息をつきながら雪緒と『エーゲ海』のドアを開ける。

 廃墟じみた外観に反し、店内は清潔感のある落ち着い空間だった。

 しかも老夫婦が趣味程度に経営しているのかと思いきや、四十代くらいの髭面のマスターと大学生らしきウェイトレスさんが働いていた。

 店内にはちらほらと客の姿もあり、珈琲豆の芳ばしい香りやバターの焦げる甘い香りが漂っている。

 何もかもが想像していたものと違った。


「へぇ、なかなかいい店だな」


「でしょ? 外観だけに惑わされてはいけません」


 雪緒は澄ました顔で勝ち誇っていた。


 アイスコーヒーを注文すると雪緒は鞄からスケジュールノートを取り出し、メモをし始める。


「何を書いてるんだ?」


「素敵な店や景色のきれいなところを見つけたらメモするようにしてるんです」


「わざわざ手書きで? スマホ使えばいいだろ。写真も残せるんだし」


「スマホのデータとか動画って、結局あまり見返さなくないですか? 見返すのにも時間がかかるし。それに勉強と同じで、手書きにすると記憶にも残りやすいんです」


 見るとスケジュール帳はずいぶん使い込んでいる感がある。

 こうして色んなものを書き留めているのだろう。


「ところでそのショッピングモールってどんなところだったんですか?」


「どんなって……別にどこの田舎にもあるようなもんだ。安い服の店や、ちょっと高いコーヒーやら輸入菓子を売ってる店があったり。一階にある宝くじ売り場がよく当たるって言われてて、年末とかは混んでたな」


「フードコートはどんな感じでしたか?」


「よくあるチェーン店ばっかり入った特徴のないフードコートだ。オムライスとかラーメンとかたこ焼きとか、そんなもんが売ってたな」


 フードコートの風景を思い出しながら話していると、なんだか心がモヤモヤしてきた。


「ふぅん……なんでそんなところが約束の地なんでしょう?」


「さあな」


「フードコートって賑やかで楽しい雰囲気ですけど、聖なる場所って印象は皆無じゃないですか。たとえばあの湧き水がある妙泉神社とかの方がずっと厳かで『約束の地』って感じがするんですよね」


 そんなつもりはないんだろうが、雪緒は俺の考えた設定に文句をいうような目を向けてきた。


「俺に文句を言うなよ」


「別に文句なんて言ってません。なんか不思議だなって思っただけです」


 雪緒は首を傾げながらスケジュールノートに記した『七つの試練』に視線を落としていた。






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