結婚式当日
幸せ最高潮の中、今そこに俺はいる。
純白のドレスを着たリリアナが、まるで二人が初めて会った日のように美しい花をたくさん頭に飾りつけ、こちらを見て微笑んでいる。
リリアナはそうっと右手を伸ばして俺の頬に触れた、指先が少し冷たい。
「レイ、きっと私にはわからないことが沢山あったんだと思ってる、レイが私のために何かしてくれていること、なぜだかとても守られているような気がずっとしてた。今日を迎えられて本当にうれしい……愛してるわ」
そう言い終えると、もう片方の手を伸ばし、俺の両頬をしっかりと包んで口づけをした。
リリアナの唇はとても柔らかく、花の香りがした。
おぉぉぉぉーー今日は格好よくいこうと決めていたが、もう無理だ!!
俺だって抱きしめてキスしてもいいんだよな、なんてったって結婚式だ!
「リリ……」
「はいそこまでですレイナード様」
いつもよりさらにイケメンに磨きがかかった執事が、後ろから肩を掴んだ。
「おい、やめろ」
「それはこちらのセリフですよ、さっきの勢いで抱きついたらリリアナ様の衣装がめちゃくちゃになってしまいます」
そうですよー!とブーケを用意しながら加勢するステラ。
リリアナが嬉しそうに笑っている。
「ふたりとも小さい頃から変わらず仲が良くて羨ましい、本当の兄弟みたいな二人の関係にずっと憧れてたのよ」
リリアナは少しだけ悲しそうな顔をした後、肩をすくめて笑って見せた。
「リリアナお嬢様にはわたくしが居ます! それに会場ではメアリーさんも待っています」
そう、リリアナに三年以上仕えていた侍女のメアリー、父親の事故で急に里帰りをしたが、やはりそれもミレイアに仕組まれたものだった。
メアリーの父親もミレイアの嘘を信じて、二度とフォルティス家に戻さないと決めていたようだが、今回誤解を解くことができたので結婚式に間に合うように戻ってきたのだ。
「ありがとうステラ、大好きよ、早くメアリーに会いたいしあなたを紹介したいわ」
「リリアナお嬢様ー」
ステラがリリアナに抱きついている、リリアナも優しくステラの背中を抱き寄せた。
「えー俺が駄目でステラがいいとか、おかしいんじゃないか」
「はいはい、レイナード様、こちらへどうぞ」
手招きをするクロードに近寄ると、突然全力で抱きしめられた。
クロードから抱き着いてくるなんて子供の頃以来だ、少し動揺してしまい言葉が出てこない。
これは背中に手をまわしていいものか、自分からやるのと違ってなんだか気恥ずかしいな。
少しだけ体を捻じらせると、抱き着いたままクロードが呟いた。
「レイナード、良かったな」
「あ、うん」
「お前が、俺一度死んだんだ! なんて言い始めた時、正直困ったよ」
「まあ、そうだよな……」
「でも、お前がずっとリリアナのことを好きなのは知ってたから……」
クロードの声が少し鼻声に聞こえる。
「クロード、もしかして泣いてるのか?」
「泣くかよ! とにかくお前が死んでしまわなくてよかった、そして今日を迎えられてよかった」
「ありがとう、クロードが居なければ、もし俺一人で悩んでいたらと思うと……」
「ふっ、俺のおかげだな」
そう言ってクロードは、俺の背中をポンポンっと叩いた後、腕を離した。
今日は眼鏡をかけていない男前の目元が、少し赤くなっているように見える。
「本当にありがとう」
あらためて礼を言ったが、クロードはそんなことを全く気にしない様子で、ステラからブートニアを受け取り、俺の胸元に飾り付けた。
いつの間にかリリアナも準備が終わり、扉の前へ移動しているところだった。
「さあレイナード様、リリアナ様、馬車が待っていますよ」
ステラとクロードが、二人で扉を開けた。
屋敷の前には、式場に向かう為に用意された真っ白な馬車がそこにあった。
冬の訪れを感じるような木々の香りと、少しひんやりとした空気を吸い込む。
ああ、とても幸せな気持ちで全身が満たされている。
前の大馬鹿な俺、最後の最後に後悔した俺、馬鹿だけどそこで気づいてよかったよ、そうじゃなければ、今のこの幸せな時は存在しなかった。
俺は、紋章が現れた耳の後ろにそっと触れてみた。
やっぱり触れただけではわからないな、またクロードに見てもらおう。
そんなことを考えながら馬車へ進んでいると、突然リリアナが空を仰いだ。
「レイ、空から羽が……」
リリアナの言葉に空を見上げると、透き通った青空が広がっていた。
そしてどこから降ってくるのか、真っ白な羽がひらひらと降り注いでいる。
まるで、この世界のすべてが二人を祝福しているようだった。
ー 完 -
無事に最終回を迎えました
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群青
*後日談に関しては5月3日の活動報告を参照ください。




