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【祝9万PV】転生式異世界武器物語 〜剣闘士に転生して武器に詳しくなるメソッド〜[月水金17:30更新・第二部完結保証]  作者: 尾白景
奴隷剣闘士編

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52話 ティミドゥスの護衛任務

「ティミドゥス、800セステ」

 若旦那の執務室の前で報奨金の支払いが行われる。

 規律正しく並びながらも喜びと好奇心を隠せない先輩剣闘士達に交じって、俺も誇らしい気持ちで並んでいた。


 ちなみにヘリオンさんはパトロヌスと打ち合わせ、カサンドラさんは治療院で療養中との事だ。

 報奨を授かる喜びを一緒に分かち合えないのが残念でならない。


 若旦那がリストをチェックして旦那様がセステリウス硬貨の詰まった皮袋を渡してくれる。

 こんなにたっぷりの報奨をいただくのは初めてだ!


「はい!旦那様、若旦那、初めて勝つ事ができました。ありがとうございます!」

「うむ、見事な槍捌きだった。見直したぞ!」


 山のように大きな魔獣と対峙したのは昨日の事。

 俺はカサンドラさんに怒鳴られながら訓練で習った動作をひたすら繰り返して戦った。

 恐怖と興奮のせいか詳細はろくに覚えていないが…


 最後はグラディウスをカルキノスに突き刺して全力で逃げた。

 俺とすれ違うようにしてヘリオンさんがカルキノスに突っ込んで行くと、突然後ろで大爆発が起きて闘技場の端まで吹き飛ばされて気を失ったんだ。


 これを勝ったと誇っていいのか正直微妙だと自分でも思うが、親身になって俺を鍛えてくれたヘリオンさんとザビア訓練士長、俺を戦力として扱ってくれたカサンドラさんに報いる事ができるように、これからもっと強くなって勝ち星を増やすと決めた。

 もっともっと、頑張るぞ!


「ティミドゥスよ、すまないが私と一緒に来てくれ。話がある」

「え?あ、はい、旦那様!かしこまりました!」

 どうしよう…昨日の試合でなにかまずい失態があったのか?


 それとも、このまま魔獣闘士にされてしまうのでは……これから強くなろうと誓った決意は、あっという間にしゅんしゅんと萎んでいった。



 旦那様は俺を連れだって客間へと入る。

 そこで待っていたのは身なりの良い貴族の少女。


 礼儀作法をしっかり身につけているのだろう。

 少し緊張しているようだが口元には穏やかな笑みを湛え、あまり日に晒されていない透き通った白い肌、明るい栗色の豊かな髪は艷やかで丁寧な三つ編みに結われている。


 小さな顔と整った顔立ちは年齢を少し高く見せるが、三日月型のお守りである“ルヌラ”を首から下げているのは、彼女がまだ幼い童女である証だ。


 こんなに綺麗な女の子がこの世にいるなんて!

 ティミドゥスには眼前の少女がとても同じ人間とは思えなかった。

 もしかして俺を買いに来たのかな?

 彼女に仕える事になったらどんなに嬉しいだろう。

 そんな事を夢想している間に、旦那様と少女は和やかに会話を始めた。


「ティミドゥス、彼女はオドリー。ヘリオンの側仕えだ」

「え?は、はじめまして!ティミドゥスと言います」

 ヘリオンさんの側仕え?

 側仕えって事は……彼女は奴隷なのか?

 こんなに綺麗な子が、いや、そうじゃないな。


 ヘリオンさんくらいの一流の剣闘士になれば、一流の側仕えを持てるという事なんだ。きっと。

 浮ついた気持ちを鎮めて、改めて自分がここに連れてこられた理由を尋ねる。


「旦那様、私は何をするために呼ばれたのでしょう」

「うむ、ティミドゥスよ。お前に休暇を兼ねた任務を与える」

「きゅ、休暇ですか?」

 俺は奴隷剣闘士だ。

 試合の翌日にこそ休息を与えられるが、休暇というのは始めてだった。


「知っての通り、ヘリオンはブルトゥス訓練所にとって売り出し中の重要な闘士。大きな試合も控えている。そして、オドリーはヘリオンが実の娘のように大切にしているお嬢さんだ」


 旦那様に言われるまでもなく、彼女がどれほど大切にされているかは身だしなみや表情からも簡単に理解できた。


「注目されている闘士の身辺というのは本当に危ういのだ。オドリーへの脅しや誘拐も十分にありうる」


 旦那様は俺だけでなく、オドリーにも言い聞かせるように説明を続ける。

「そこで、お前にはオドリーが自宅に帰り着くまでの護衛任務を命じる」

「はい!旦那様!」


 俺は剣闘士として買われて以来初めての外出許可と、尊敬するヘリオンさんの大切なお嬢様を守るという任務内容に胸が高鳴った。

 まるで英雄物語の登場人物になったような気分だ。


「よろしくお願いいたします」

 ここに来た事がそれほど危険な行為だとは考えていなかったのだろう、オドリーは困惑を隠せず青ざめている。

 俺が守ってやらないと!


「旦那様、なにか武器をお借りする事はできますか?」

「ううむ、剣奴の帯剣は許されていないのだ。お前は槍が得意だから長めの杖を持たせるとしよう」


 槍に比べればだいぶ心細いが、立場を考えると十分に配慮してくれたのだと思う。

「ありがとうございます旦那様!必ずお嬢様をお守りします!」


 俺の決意のこもった宣言にお嬢様と呼ばれたオドリーは少し驚いて、パチパチと綺麗な瞳を瞬かせた。

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