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【祝9万PV】転生式異世界武器物語 〜剣闘士に転生して武器に詳しくなるメソッド〜[月水金17:30更新・第二部完結保証]  作者: 尾白景
奴隷剣闘士編

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33話 金欠と興行

「うーむ、連戦の希望ですか…」


 オドリーを家内奴隷に迎えて数日が経った。

 オドリーの衣類はネザリーナから貰えたが、彼女のリネンや食器類を買い揃えて日中の食費などを渡すと、我が家の家計はあっさり火の車になってしまった…おかしい。


 現代での俺は早くに両親を亡くして姉ちゃんと二人暮らし。

 近くに親しい親戚もいなかったので、緊急時の頼みの綱は貯金のみ。そんな環境で育ったせいか、手元にある程度は金がないと不安になってしまうのだ。


 安定志向でコツコツ型のつまらない奴だとクラスの女子からよく言われてたなぁ…

 あっちでもこっちでも華やかにパーっと遊んだり、散財する余裕なんてないっての。


 そこで俺は、訓練所の若旦那トリトスさんに試合の相談をさせてもらいに来た。

 ガンガン試合を組んでもらってジャンジャン稼がないといかん!

 意気揚々と若旦那の執務室に足を踏み入れた俺だが対照的にトリトスさんは、うーむと思案顔だ。



「あなたはうちの訓練所の注目剣闘士です。ですが連戦というのは…うーん」


 若旦那がなにを悩んでいるのかわからない。剣闘士がバリバリ戦うのは変な事なのか?


「ヘリオンさん、一般的に剣闘士が年に何回試合を行うかご存知ですか?」

 全く想像がつかないのでざっくりと解答する。

「100戦くらいでしょうか」

「訓練試合を除けば、20戦以下ですよ…」


 え、少なっ。

 トリトスさんは困った子を見るような目を俺に向ける。


「ついでにお伝えすると剣闘士の生涯試合回数は平均で40戦以下です。ヘリオンさんはもう少し、体を大切にするべきです」


 興行師に体の心配をされてしまうとは…現代日本人のブラック思考が古代ローマの剣闘士に勝ってしまったようだ。


「10連戦してがっつり稼ぎたいというヘリオンさんの希望がいかに無謀かおわかりいただけましたか?」

「ではでは、5連戦ではどうでしょうか!」

 俺の答えにトリトスさんが言葉を無くして天を仰いでしまう。


「剣闘士というのは私達の大切な商品なんですよ、ヘリオンさん!訓練費、治療費、生活費とお金も時間もたっぷりかかるのです。

 それは奴隷剣闘士でも同じ事です。あなたが潰れたら、この訓練所の評判に関わります!」


 ん?ちょっと待て、俺の奴隷剣闘士の頃とルールが違わないか?

 気になった俺はゴズウェルから最初に見せられた『奴隷剣闘士のルール』を暗唱してみせた。


「ひとつ、相手を殺すまで闘う事。ひとつ、観客を楽しませる事。勝者には酒と食事が振る舞われる。5勝すると奴隷身分から開放される。

 5勝した後は下位剣闘士として登録できる…そして、奴隷剣闘士は治療を受ける事ができない」


 驚愕の顔を浮かべるトリトス。

「な、なんですか、その非人道的なルールは…そんなルールは知りませんよ?!

 ヘリオンさん、あなたは一体どこで何をやらされていたんです?」

 そんな事を言われてもなぁ…俺にもさっぱり分からない。



 ドガッ!

 突如、執務室のドアが蹴り開けられる。

 逆光の中で戸口に立つのは、興行師ダモンさん!

 演出のつもりにせよ自宅のドアを蹴とばすとは…


「話は聞かせてもらったぞ!トリトス!ヘリオン!そのルールはな。今から10年以上前、先代のトルネウス帝が奴隷の人的権利の法、奴隷剣闘士の項を改訂される前の物だよ」

 口髭をなでつけながらダモンさんは語る。


「ゴズウェルナスの手紙とヘリオンの話から推測するに…ゴズウェルナスは、アウグス帝かクラウディ公と奇妙な賭けでもしているのかもしれぬ。

 ゴズウェルナスが見込んだ奴隷剣闘士を秘密の牢に繋ぎ、戦時のルールで剣闘士を試し、生き残れば世に放つ。そんなところだろう」


 奴は優秀な戦争奴隷を一人でも救う事を願っていたからな、とダモンさんは遠い目をした。


「ともあれだ!連戦?いいねぇ、面白そうだ」

「父さん!」


 トリトスさんはたしなめるが、正直いって役者が違う。この場を支配しているのは明らかにダモンさんだ。


「なにか、目玉が欲しいな。ヘリオンお前、変幻自在の武器使いとかそんな二つ名を持っていたな?10連戦を毎回違う武器でやれるか?」

「父さん!10連戦なんてむちゃくちゃです!」

「なら何連戦ならいいんだ?」

「せ、せめて半分に…」

 にんまりと笑うダモンさん。

 あれだ、ネザリーナと同じ人種だよこの人。


「よし!聞いたな。興行は5連戦として毎回違う武器で行う。三つは市民に誇りを持たせる正式武器や伝統武器として、二つは皆が驚くような面白い武器を用意しろ」

 俺とトリトスさんはぽかんと口を開けて、聞き入るしかなかった。

 段取り早えぇ…



 ダモンさんがババッと決めた大枠にトリトスさんが細かな調整や契約などを盛り込んでいく。

 豪快で行動力のある社長と、現実的で気のまわる副社長という雰囲気で二人が揃うと本当に心強い。


「では、二つの新しい武器は鍛冶工房のキュクロに依頼してください。料金については父さんの個人名義で支払いを」

 あ、トリトスさん、ちょっと怒ってるな。


「ヘリオンさんへの報奨金は、5連勝で5000セステ。前金で2000セステをお支払いします。途中で敗北した場合は、違約金として1000セステを返金してもらいます。いいですね?」


 前金は本当にありがたい!

 我ながら楽観的だとは思うが、これで我が家の家計はV字回復!


 俺が個人でやろうとしていた、存在しない武器の製作費までダモンさんが持ってもらえるとなれば、これ以上の成果はない。


「もちろんです!トリトスさん、お力添えありがとうございます!」

 ニコリと返事をする俺にトリトスさんはため息で返事をしてくれた。


「正式武器の選定と用意はザビア訓練士長に相談してください。くれぐれも父さんと二人で勝手に進めないでくださいね。お二人は大変に気が合いそうなので!」


 おおぅ、トリトスさんをこれ以上怒らせないように気をつけよう。

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― 新着の感想 ―
別にロリコンとかじゃないんですけど 家で待っててくれる使用人タイプの子っていいですよね…… 金欠になっても頑張って迎え入れようという気持ちもうなずけます。 別にロリコンとかじゃないんですけど 年20…
うおお、武器のターンが始まる!
剣闘士ってそんなに大事にされていたんですね。 スパルタクスの時代はもっとひどかったんでしょうか
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